三文 享楽 小説・エッセイ等

無料web小説 時空モノガタリ短編3『掃除穴』【三文】

2016年5月28日

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ええ。

前回と前々回の時空モノガタリ投稿小説を読んでくださっている方ならば、気づいていたかもしれません。

そうです、時空モノガタリという小説投稿サイトのルール。

字数制限があり、それぞれテーマがあり、各テーマにつき一人三編まで投稿可能というルール。

 

申し遅れました、三文享楽です。

 

さてさて、

前回前々回で投稿した際のテーマは【掃除】

一つのテーマにつき、どんな内容になるのかを読んでいただきたく【掃除】テーマを続けて投稿しました。

 

同じテーマで書いた小説がどう違うものか。

こちらの『掃除穴』を読んだ後に、他の【掃除】テーマ二編も読んでいただければ幸いです。


『掃除穴』

「何だ、これ」

ケイは自分の家の庭に出現した黒い穴を見て、思わず呟いた。
穴といっても、地面に空いているわけではない。物干し竿と塀の間の空中に、ポッカリと黒い穴が開いているのである。

「穴……だよな」

空中に穴が開いている状況など、大学生になるケイは一度も体験したことはない。
親を呼んでみたが、当然それが何か分かるはずもなかった。

「警察でも呼ぶか」

「よしなさいよ、恥ずかしい。こんなことで警察を呼んでどうなるのよ」

「じゃあ、とりあえず触って確認するとか」

「いいわよ、やけどでもしたらどうするの。そのままにしておいたらそのうち消えるわよ」

母親に家へ戻されたケイは自分のベッドの上で想像を膨らませた。
あれがもしブラックホールのような穴だったら? あの穴に入ると二度と出てこられなくなる。しかし、庭の隅とはいえ、そんな危ない穴があっては困る。なんとか有効活用できないものか。

非現実的な仮定だったが、妄想は止まらなかった。

突如として都合よく現れたブラックホールにゴミを捨てていたら、将来のある時、捨てたゴミが空から落ちてきてきた。SFにありそうな話ではあるが、本当にあったらどうだろうか。試しに何か捨ててみよう。万が一、将来空から落ちて来ても迷惑にならないもの。

ケイはこっそりと庭に出て、トイレットペーパーを捨ててみた。

一週間、一ヵ月と待ってみたが、空からトイレットペーパーが降ってくるというニュースは聞かなかった。
しかし、気付かれなかったということもある。実験は分かりやすくしなければならない。
百ロール近くのトイレットペーパーを用意したケイは、次々と呑みこんでいくブラックホールの様子を映像に残した。これで何年経っても問題が起きなければ、世紀の大発見である。

ケイは日々の穴の記録も残し、五十年を待った。半世紀だがこれだけ待てば結果は十分だろう。待ちぼうけの間に他人に穴のことを知られることもあったが、どこかの会社がやってきて研究開発を行うまでには至らなかった。

「これだけ待って何もないんだ。ゴミを捨ててみようではないか」

手始めに捨てたのは、家にあったゴミである。
今日の晩御飯で食べた魚の骨を捨て、肉の容器を捨て、傷んでいた野菜を捨てた。
待っても何も起きない。

雑誌、電化製品、壊れた家具。いらなくなった身近のゴミを次々に捨ててみたが、悪影響はなんら起きなかった。
近所の家から粗大ごみを有償で集めてみては?
長年思い描いていたことを遂に実行しようとした時、なんと似たようなケースが全国各地で報告され始めたのである。

元々何十年か前から、こうしたブラックホールは全国の空中にあったらしい。様子見されこっそり使用されていたが、時を経て大々的に利用しはじめようとした今、その存在が明らかになりだしたのだ。

全国各地にある穴の映像から、その安全性は明白であった。ゴミを捨てても無害という記録から、粗大ごみ、産業廃棄物、核燃料といったゴミが自治体単位で捨てられるようになった。穴は掃除穴と名付けられ、死体と盗品以外の何でも捨てられることとなる。
ケイは、儲けこそできなかったが一生を費やしたとも言えるその掃除穴を慈しみながら生涯を終えた。

ふと、目覚める。
一瞬自分の部屋にいる感覚があったのは、かつて自分が見た物がたくさんあったからかもしれない。死んだ今、昔の記憶は全く存在しなかったが、既視感のようなものがあった。
しかし、そんな思い出も束の間。元ケイは処分を下された。

「来て早々だが、お主は生前、その死の間際に多くのゴミをこちらへ送出した。こちらでは何を捨てたかまで把握できていないのだが、ゴミの排出量は認識している。生前の記憶もなく不幸だとは思うが、こちらへ送出したゴミの量に応じた労働の役務を行ってもらう」

そう、地球上に突如現れた例の掃除穴はなんと天国につながっていたのだ。
こちらへやってきた魂は天国に行く前にごみ処理の労働を課されるようになっていた。覚えていなくても仕方ない。何も知らずに命令されれば、従う他になかった。

案内されるがまま元ケイは役務の場へ向かっていたが、その途中でトイレに寄った。
そこで、トイレットペーパーの歴史という立て看板を見つけたのである。

――それまで我々雲上人は、用を足した後の処理に雲を用いていた。しかし、トイレットペーパーは突如現れた。学者の一説では、ゴミが送出されてくるようになった事件の発端とされている。地球上ではゴミだった可能性すらある。しかし、我々に齎した利益は大きい。もし生前にトイレットペーパーを大量に捨てた者があるならば、我々は全力で礼をしたい。

生前の記憶がない元ケイだったが、なんとなく引っかかるものもあり、頭を抱えてトイレを後にした。

 


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