三文 享楽 小説・エッセイ等

無料web小説 時空モノガタリ短編9『コーヒー牛乳』【三文】

2016年9月15日

温泉に行き、牛乳を飲んだり、コーヒー牛乳を飲んだり。

たしかに美味しいのです。基礎はこれらの飲み物だとは思うのです。しかし!

どうも、温泉に行って飲むのはフルーツ牛乳派、三文享楽です。

いいじゃん!美味しいんだから!

 

さて、今回のテーマは【私は美女】です。第1作目!

Q.「時空モノガタリ」とは?

A.あらかじめ決められたテーマ、字数制限がある小説コンテストです(各テーマにつき一人三編まで投稿可能)。

⇒参考:目指せ書籍化!短編web小説をコンテストに応募するなら「時空モノガタリ」


『コーヒー牛乳』

私は自分が嫌いだ。

ううん、嫌いなんていうと言い過ぎかもしれない。好きではない、くらい。

自分で言うのも変な話だけど、世間的に見て私は美女の部類にはあてはまるんだと思う。

でも、そういうことを平気で考えてしまう自分が、そう、好きでないのである。

「お前はわりかし無粋なとこがある。自分は他の子よりかわいいと、口にしないまでも、意識はしておいた方がいいかもしれんぞ」

高校時代に部活の先輩に言われたことを思い出す。私が笑って男の子と話すだけで周りの女子はピリピリするらしいのだ。

わずらわしい。

時たま叫びだしたくなる。全てを解放したくなる。

そんな時、私は温泉に行くのだ。もちろん1人で。

そこで裸になり風呂に入る。これだけで気持ちいい。男の人と感覚が違うかもしれないが、女子の場合、これだけで非日常的な解放なのである。

普段、女性ものの衣類は男性物より露出が多いとはいえ、それでも隠すべきところはしっかり隠している。見えやすい服を着ているのに、見えないようにするのだから厄介なことである。

だから、こうやって、だれも知らない人の中で温泉に入るときが一番の幸せなのだ。

月に一回、こうして一人で温泉の宿泊旅行をする。

職場の同僚にも両親にも、友達と行くと言う。恥ずかしさがあるわけではない。一人で温泉に行くと言って、また変人扱いされるのが煩わしいのである。

誰かと群れて行動する「一般的」女子を演じるのが最も無難なのである。

ふと周りを見渡すと、さっきまで一緒に露天に入っていたおばさんの二人組が、いなくなっていた。

おばさん二人が出ていったというのに気づかないとは、私もよっぽど一人の味わいに没頭していたのであろう。

私は脚を伸ばした。

お湯の浮遊力を生かし、腕で体を持ち上げ、脚を閉じたり広げたりする。

こんなこと誰かいたら絶対にできない。ホント、女って生きにくい。

そのまま足だけ岩の上に乗せてみたり、姿勢を変えて軽く平泳ぎしてみたり。人がいたら絶対にできないことをいくらかやってみて、私は湯の外に出た。

なんて爽快なのだろう。

女が堂々と外で裸になれるなんて温泉以外ない。海やプールでほとんど裸の水着とはいえ、結局隠すとこは隠して余計にめんどくさい。こうして正々堂々となにもつけないのがいいのである。

風にあたり、乾いてはまた温泉に浸かる。それを何度か繰り返すうちに、日頃のストレスはとれてきた。

それでもなお、温泉から出て涼んでいる時に色んな考えが浮かんでしまう。

職場、友達、彼氏に家族。別に特定の人間がどうこうではない。私を取り巻く全ての人間が時々うっとうしくなるのだ。

「あいつら大っ嫌い」

色んな思いが交錯して、気付いた時には叫んでしまっていた。

はあ、すっきりした。

叫ぶつもりがなくとも叫ぶことが、非常に気を楽にした。それだけで何かが抜けていった感覚だ。

「あいつらも大っ嫌い」

ふと、どこかから声が飛んできた。周りを見渡してみたが、人影はなかった。

普通ならば見られているかもしれない恐怖が沸くのかもしれないが、そうならなかったのは聞こえた声がどことなく自分に歳の近い同性、それも気の弱そうな感じがしたからかもしれない。

共鳴したような感覚に気持ちよさもあったが、それでも自分の叫びが誰かに聞かれていた恥ずかしさが勝ち、私はそそくさと温泉からあがり服を着た。

髪を乾かすこともなくロビーに向かったのは、どことなく散歩がしたかったからかもしれない。

コーヒー牛乳を一本買い、外に出た。

少し歩くと、向こうからやや太り気味の浴衣の女の子が歩いてきた。目があっただけで感じるものがあったのかもしれない。 「あ、あの」

自分も言ったが、相手も同じことを言ったようでもしかしたら、聞こえていないかもしれない。

「あの、あなたもお風呂あがりですか?」

間違いない。

質問してきただけで頬を一瞬のうちに赤らめてしまった彼女はやはり気が弱いのかもしれない。

失礼かもしれないが、私はその姿が微笑ましく顔をほころばせてしまった。

「ええ。あなたもお嫌いですか?」

私が言うと、彼女も顔を綻ばせた。

「あ、あのコーヒー牛乳ですか?」

聞かれて、初めて彼女も同じものを持っていることに気付いた。それもまだ未開封。

私は返事の代わりにはにかんで、ビンの蓋をとった。彼女も同じ動作をして、自然の流れで乾杯した。

「あの、ちょっと散歩しません?」

「ええ、そうしましょ」

女の友情を感じたのなんて何年ぶりかしら。

私は、大笑いしながらみんなでコーヒー牛乳を飲んだ中学時代の修学旅行を思い出していた。


 

コーヒー牛乳にあわない食事はこれだ!!寿司!

カレーに牛乳は隠し味ですよね。。コーヒー牛乳だとどうなのでしょうね。