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無料web小説 短編3『ブーツのために』【三文】

2016年3月14日

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♪ブレーキかけて おカマ掘りッ 私の貞そーオイル切れ♪

 

どうも、普段は下ネタしか言わない三文です。

失礼しました、訂正します。

普段は下ネタしか言えない三文です。

 

ただの下ネタではありません、程度の低い下ネタです。

 

さーて、読者の方々、皆さんが仲良くなったところで、『ハエトリ草』『前科アリの人々』に続く第三段、ショートショートにまいりまshow!

 


『ブーツのために』

世の中の女性のブーツを全て嗅ぎ回りたい、と思う男性は如何ほどいるだろうか。

拙い野望ではあるが、ケイもそのうちの一人である。

ケイが他人と違うのは、その野望を叶えるためだけに、職を選んだということである。もちろん、ブーツの臭いを嗅いでいればいいだけの仕事なんてあるわけがない。

もしそのような仕事があるならば、誰もが幼少期から必死に勉学に励み、東大に入り、留学しインターンを行うであろう。そして、その仕事に就くためだけに全てをなげうつのだ。しかしそんな状況にないのは、やはり臭いを嗅いでいるだけでいい専門職が存在しないからである。ケイはどうしたか。最もブーツに触れ合える職場を考えるようにした。

靴屋。

ダメだ、新品の靴には興味がない。女性が履き、ちょうどいいくらいに蒸れて臭いのあるものが美味しいのである。汗をかく女性、アスリートか。スポーツシューズ店に就職し、専門家となって、履いたものを預かって分析をするか。

いいや、そんなのではダメだ。

不特定多数の女性、何人ものむせかえるようなすえたブーツの臭いを嗅ぎたいのである。靴を預かる仕事、そこで飲み屋の下足番を思い立った。ちょっと高級そうな割烹旅館などに行けば、たまに靴専門で預かるような人がいる。

もちろん、それ専門でお金をもらっているわけでもないだろうが、業務の時間の多くを割いていることには変わりないであろう。ケイは少しでも多くのブーツに接することができればいいのである。ケイは飲み屋を歩き回った。基準は下足番がいるかどうかである。

最も下足番としての専門性が高そうな人間がいる店を選んだ。

活気があるけれども、細かいサービスにまで気を遣った飲み屋である。

下足番の男は、ヒデが飲んでいる間、ずっと下駄箱の横に立ち深呼吸をしていた。

ここしかない。

そう決めたケイは、飲み屋バイトの猛者である友人に、面接のコツを聞いた。

週に何日も入れることや夜勤も問題なく行えることをアピールし、なんとか働けるところにまで持ち込んだ。

面接により採用が決まり、初日から働くにあたって、打ち合わせと簡単な研修を込めてヒデは呼び出された。

バイトが行う仕事内容を教えられ、配属の希望部署を訊かれるまでに至った。

店長が味の仕込みに入り、バイトの人事などを統括するバイトリーダー的な男がやって来た。体力勝負の飲み屋にふさわしい体育会系のがたいの良い男であった。

「で、どうなのよ。キッチンとか、ホールとかさ。いくつか仕事を見せてきたけど、なにかこう、やりたいっていう仕事なんかはあるの?」

「いや、ちょっと、まず下っ端としてですね、下足番をやらせていただきたいのですが」

すると、バイトリーダーの男は鼻で笑った様であった。

一度ケイから目をそらし、周囲を見渡す。

「ああ、いいよいいよ。あんなのではなくてさ、もっとこう花形みたいのやつで。ホールとかでも、やってくれればいいかな」

あんなのという言い方にカチンときたが、ここで喧嘩になっては意味もない。ケイは喧嘩腰に言い返すことを我慢し、穏やかに食い下がった。

「いえいえ、実際そういったところから心を配れる店員になりたいので」

「なに、社員になる気?」

「ええ、この職場の雰囲気が働いてみて想像通りならば、是非に就職したいものです」

当然である。仕事のうち半分以上をブーツの取り扱いですごせれば、一生これだけをして生きていきたいのだ。

「おぉ、頼もしいね。いいね、いいバイトの子が入ったよ」

バイトリーダーは、厨房で仕込みをしている店長に向かって、大声をあげた。

その視点がなかなかケイに戻らないのは、話していた内容を忘れていたからかもしれない。あるいは、もうその話題が終わったと認識している。

「で、どうでしょう?」

「ん?」

「いや、あの下足番の話です」

「ああ、その話か。いいよ、この店に長くいる気なら教えてやろう。君は客として来ている時に下足番をしている彼に気付いていたと思うけどさ、もうあの人以外にこの店で下足番をできる者はいないね」

声が出なかったのは、聞こえてしまった情報がウソであって欲しいという強い願いを抱いたからに他ならない。

そんなことがあっていいはずがない。

「あの人は下足番としてあそこで主に仕事しているけどさ、もう病気だよ、彼は。特にまあ、ブーツに狂っちゃっていてね。なんでも、臭いフェチってやつかな。自分以外にこの仕事を任せることはできない、だなんて泣かれちゃってさあ」

しまった。そうか、そうなのだ。そういうことがあり得るのだ。

ケイは絶望した。

自分がその理由でこの職を選び出したくらいだから、先には先がいるものである。

「いやあ、もう彼はそのためだけにこの職を選んだくらいだからね。もう彼の場合、女性も男性も関係ないよ。性別問わず、ブーツから漂ってくる臭いに酔っているんだ」

意味がない。

意味がない、意味がない、意味がない。

これではこの店を選び出したこともまったく意味がないのである。

「ちょっとどこ行くの?」

「辞めます」

「ええ? って、なんでよ」

「聞かないでください」

「さっきの意気込みはどうしたのよ。ねえ、雰囲気が良ければ、ここでずっと働くんじゃなかったの?」

練り直さなければならない。ブーツを自分だけが取り扱え、それで飯を食える仕事。

「ねえ、そんなんでいいと思ってるの? 採用して何のためにこうして時間を割いたと思ってるの。なんなんだよ」

当然ケイが言い返すことはなかった。

もはやここに心は残っていない。

無意識のまま辿り着いたのは本屋である。

経営学の本、居酒屋の本、おもてなしの本。しっかり考えるよりも前に、心のどこかで自分には店を作る以外に道のないということを理解していたようである。

ケイは料亭を開業した。

味にこだわりながらも、下足のお預かりを第一主義としたサービス重視の店である。

下足の処理にまで徹底したサービス精神をみせる料亭が流行らないはずがない。

「あの店長は、いつ見ても、店先で下足の預かりをしている」

と雑誌に書かれることがあっても、店長自ら汚れ仕事をこなす店だとか、暇そうにしている者ほど陰で限りない努力をしており開店前から味の仕込みに打ち込む店長の信念であるだとか、良い方に噂され、店は繁盛した。

「当初はやる気があったのに、下足番をできないと分かるや否や、辞めていった迷惑な男がかつていた」

ケイの店が流行り出して間もなく、そんな内容の記事が某居酒屋の店員の発言として週刊誌に掲載された。

下足番をできないから辞めるだと? そんな者がいるはずもない。百歩譲ってそういった欲望に満ちた変態が存在していたとしても、あの店長がそんなわけがない。そんな低俗な変態性欲に満ちた人間が料亭など設立できるだろうか。

誰もその記事を信じる者はいなかった。

ケイのことをブーツ好きの変態とするコメントは次第に減少し、すぐに忘れられた。

最初の難関を超えたのである。

料理の味に満足した顧客がついたのか、一定量の客は確保された。

経営状況はいたって良好といえた。

しかし、瓦解はささいなことから始まるものである。

ある時ケイはインタビューを受けた。

簡単な質問内容であったが、ケイはうっかり言ってしまったのである。

「この商売はやりがいがあります。つらいことはたくさんあるけど、女性のブーツの臭いをかげるから疲れは吹っ飛びます。臭いがかげなくてもいい。蒸れた臭いブーツに触れ、湿り気や温度に接するだけでも女性のぬくもりを感じられるのです」

この発言により、ケイの経営する料亭がピンチとなったのは言うまでもない。

しかし、それは客のブーツの臭いを勝手に嗅ぐ店長がいることが気味悪がられたわけではない。

料亭を経営すればブーツの臭いをかぐことができる、と信じ込んだ熱狂的なブーツフェチが全国各地で一斉に店の設立を始めたのである。

瞬く間に群雄割拠、同業他社に囲まれたケイの店も売り上げが落ち始めたのである。

売り上げが落ちれば、客足も減り、ブーツの臭いの種類も減る。

必死に経営改善に乗り出したケイであったが、なかなかに難しいものがあった。

ここでケイは、やってはいけないことに手を出してしまった。

競合店の店へ押し入り、なんとブーツに次々と消臭剤を入れて回ったのである。

臭いの消えたブーツ。それはもはやブーツではなかった。

ケイは威力業務妨害として逮捕されることとなった。


 

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