三文 享楽 小説・エッセイ等

無料小説 長編2『笑い島』5【三文】

2016年4月13日

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なんで、五月病って五月なんですか。もう待てません。四月早々から、もう五月病なんです。休みたいです。

子供の頃から毎日そう思っていました三文です。

はあ、厭ですね。この世の中に、笑い島はあるのでしょうか。

 

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この小説は連載です。気が向いたころに来ていただければ幸いです。


『笑い島』5

1の続き

「そうだよ」

「生まれてきたときにそういっていたから思わずつけてしまった」

隣のハゲ、いや髪がお去りになった下ネタネームの方が恥ずかしそうに言う。

ツッコムべきなのか? そうなのか?

「てか、生まれてきたときって大体似たようなこと言うんじゃ」

「それもそうか」

尻丸はなんともない顔をしている。え、ていうか、なんで僕普通にツッコンでいるの?僕も同じような波長が出てきているの。

「ヘーイ、宅急便だよだよ。持ってきたよ、新作」

「おお、悪いなあ」

尻丸が立ち上がると、布団や諸々を抱き上げたまま顔が隠れてしまった男に近付く。

声的にはさっきのえんぴつ魔人だろう。

「おう、ちょっと」

尻丸が言うと、ピンハネ嬢と伊東春雨は毒薬の入っていた容器を持って出ていった。

「いやあ、服もなかなかいい新作があったよ」

「どれどれ」

えんぴつ魔人の抱いている布団の上にのっていた服をとったばぶうが広げながら言う。

「それ、着替えといて。尻丸さんはちょっとこれを」

視界から消えて家の奥に入っていった。

「ええ。今どきこんな斬新なデザイン思いつくものなの?」

「信じられないような」

遠くからえんぴつ魔人が会話に入ってくる。見ると布団を敷いていた。

「着てみ、すごいから」

「ありがと」

受け取ったTシャツには模様、線の一本も入っていなかった。海辺で確認した青年だか少年だかであるばぶうという僕の第一発見者の服についている木のようなロゴ一つ入っていない真っ白の半袖だ。

「すごい色だなあ」

何も考えずに言った。ばぶうかえんぴつ魔人が何かしら反応した気はしたが頭に入ってこなかった。事実、着るために立ち上がると、くらくらしたし、半乾き状態の海水に浸った服を脱ぐのも大変だった。

ズボンとパンツは恥ずかしながらもばぶうに脱ぐのを手伝ってもらった。この歳で年下の子供に衣服の脱ぎ着の力を借りるというのも結構違和感があるものだ。剥き出しになって毛の生え散らかした一物を露にするのである。

表情も変えずに脱ぐのを補佐して濡れたジーパンとトランクスをもったばぶうは、途中、何で下半身裸なの、早く穿きなよと言ってパンツとズボンを渡してくれただけだった。

「あ……りがと」

聞こえたか聞こえていないのか、分からないがばぶうは何にも言わずに外に行った。ここではお礼すること自体がわざとらしいような変な気持ちになる。だが、結果的に僕は救護を受けている。

ズボンはばぶうと同じくらいの丈である半ズボンで、無造作に青と赤の水玉模様がちりばめられてあった。いや、こっちのほうが斬新じゃないか。日本列島本土の方だってこんなデザインは見たことないぞ。

立ち上がって自分の服を眺めていると、遠くから呼ばれた。

尻丸が近付いてきて僕の腕をとる。

ドアというより人が出入りできる空間から一番離れたところに行くと、えんぴつ魔人が枕カバーを伸ばしていた。

んん? んっ、ん

薄手の毛布にあるのは……見たこともない動物の刺繍があった。

「いいよ、もう寝ちゃって」

えんぴつ魔人が毛布を剥いでくれたので、水色無地のシーツがかかった敷布団が出てきた。これはまともだ。ていうよりさっきのあれはなんだ? ツッコミなしか? 首が長いのに鼻も耳も長い。それぞれ意識しているのか黄と茶の首に白い耳、灰色で皴の鼻である。目は埴輪のように黒く空いていて、全体的になんだったのか、あれは。

「どおも」

尻丸がゆっくり、布団へ導いてくれたのでもう一度毛布の柄を見せるよう要求することはできなかった。いや、何か言ったほうが良かった。さっきの生物何やねんとツッコムべきであったのだろうか。

「はあ」

ああ。布団だ。開眼を絶って、初めて座ることができた。布団の上、温かい布団の上に。自然に目頭が熱くなってくるのも感じたが、二人には見られなくなかった。乾いた服にズボン、布団。思えば、沖縄へ向けて、旅立ったあの前日の晩に自宅で眠った布団が最後だった。何も感じられなかった、布団に寝るということ。

えんぴつ魔人は二の腕の筋肉を伸ばすストレッチをしている。尻丸は自分の息子からくる気配を感じたのか入り口にいたばぶうをぼおっと眺めていた。おそらくいい人たちなのであろう。変なことを言っているが、僕に何を要求するでもなく、服や居場所を与えてくれた。

尻丸が何か発声したので入り口のほうを見ると、春雨やピンハネ嬢が戻ってきた。手には盆やタオルが据えられている。近づいて来ると、盆の上には本で見たことあるような銀の皿やおわんがいくつか乗っていて、中には脱穀米や野菜炒め、味噌汁が揺れていた。

「お、ま、た、せ~」

春雨が持ってきた盆を枕元に置いたので僕は思わず頭を下げる。普通にありが当を言うべきだったのであろうか。お盆を置いて正座すると、後からやってきたピンハネ嬢もその脇にタオルを置いてしゃがむ。春雨は裾の広がったスカートを穿いていたが、ピンハネ嬢はぴったりとした短めの半ズボンだったので目のやり場には困らなかった。この状況でも気にかけてしまうのは男の性である。

ばぶうは最初僕が座っていた木の椅子に座りにたにたしてこちらを眺めている。えんぴつ魔人は腕を組んで立っていた。

遅れて食事の匂いも漂ってきて、腹の虫を益々刺激する。食欲的にも本能的にも目の前にある食事を体が欲していた。自然と体が枕元へ寄る。

「これが箸よ。よし、じゃあ、いただきます」

「いや、お前が食うんかい」

「あれ、違うか。はい」

差し出されて箸をとった。最初どういうことなのか全く分からなかったがまたボケられたのである。そこへさっきまでボケていた尻丸がツッコンだのである。タイミングや声の張り具合といった完璧すぎるツッコミであった。なんなんだ、どこまでもこの人々はボケ続けるのか?

「きょとんとしちゃってるじゃない。さ、食べて」

ピンハネ嬢に促されて、脱穀米の茶碗をとった。食べる。野菜。食べる。味噌汁。米。野菜。米。米。米。野菜。米。味噌汁。ああ。

「すごい食欲だね」

「そりゃ、何も食べてなかったもんなあ」

声に応じるでもなく僕は目の前にあるお恵みをひたすら食べ続ける

「着替えて食べたんだから、少ししたらもう休んだ方がいいわね」

声が後ろからしたので、顔を上げると、既にピンハネ嬢も春雨も枕元にはいなかった。前には玄関の近くで腕を組んだえんぴつ魔人がうろうろしているだけだ。

「なんだか、俺も腹減ってきちゃったなあ」

「ご飯もうすぐでしょ。今日は早めって言ってたわよ」

「ううん。てか、何してんの?」

 

(続く)

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