『抜本-BAPPON-』制作記 動画編集 自主制作映画

結局1年後に全て撮り直しになるクライマックシーンの撮影物語|連載No.7

2016年2月1日

キャプチャ

少し間が空いてしまいましたが、90分の自主制作アクション映画『抜本-BAPPON-』の制作記、連載第七弾です!

『抜本-BAPPON-』はド素人が超低予算でやるという制約の中、どこまで映画的な世界観を出せるか…そんな戦いの自主制作映画です。更に補足すると、最初は15分くらいで終わる短編の予定で勢いで撮り始めたものの、尺の見積もりがあますぎて制作期間2年、上映時間90分となった思い出深すぎる作品です。

まあ、金を使うのも覚悟だろ! と権力者に怒られるかも知れませんが、映画撮影は金使うとキリがないので素人は別のところで勝負する方がいいかなと思ったわけです。あと、映画撮影を最初はなめてた…というのもあります。

なめてたせいで、6つもの異なるシーンを一日の撮影で終わらせようと試みて失敗したりもしているわけです…今回のように!


ほぼノウハウ0のスタッフ&キャストで挑む、映画のクライマックスシーンの撮影

正確には、当時はもはやスタッフとかキャストとか呼ぶのも憚られるくらい、映画撮影のノウハウがない集団でした。今でこそ低予算で撮ることとかに関しては色々やり方も覚えて、さらには編集やらカット、カメラワークのことも考えて色々できますが、当時は映画撮影人生二回目。けっこう無茶やってたと思います。

そんな中、映画の脚本は、「おおまかな流れと冒頭部分とクライマックス(終盤)部分」を先に煮詰めていたため、二回目の撮影にしてラストバトルの撮影をすることになっていたのでありました。

キャプチャ

因縁の三人が集結し、映画のキーとなる本『抜本的少子化委対策』を巡って戦いの渦が巻き起こるシーンなのであります。

もっと技術を付けてから撮るべきシーンではあるのですが、当時は15分くらいの短編で収まるという、すごい尺の勘違いをしていたので、深く考えずに撮影に突入しました。

しかし、上から見下ろすアングルで撮ると「不安感」が出るとか、下から見上げるように撮ると「圧迫感・威圧感・迫力」が出るとか、そういうところは意識してやっていました。その辺の知識はあっても、撮影にかかる時間とか、撮影の実態的なところが全く読めてなかったですね。

ほか、舞台設定なんかもクライマックスに相応しい設定なのですが、ロケ地はまあまあといったところです。余計なポスターとかが貼りっぱなしの状態で撮影しているので、少し雰囲気を損ねていますね。

演技力のポテンシャル

このときの撮影で最も収穫だったのは、灰色のスーツを着た彼の演技力に凄いポテンシャルを感じられたことですね。これは連載記事第六弾のときから言っていますが、このシーンでは更に爆発していました!

もちろん演技経験がまともにあるわけではないので、この時の演技は最後の撮影時と比べると結構まだ「原石感」はあって粗いのですが、みなぎるエネルギーが凄かったのです。これが撮影を重ねるごとにグングンよくなっていったのが本当に凄かったですね。気持ちの切り替え、感情移入の力が凄いんだと思います。

ちなみに主演はこの人。『抜本的少子化委対策』という本で戦う特殊能力の持ち主です。変な設定です。

キャプチャ

彼も長ーい二年間の撮影を通して役への没入感が徐々に高まっていきました。演じにくい役なのですが、やっぱり最後の方の演技は完全に最初よりうまかったです。演技ってうまくなるものなんですね。

最近撮った『一人の怒れる釣り人』という短編の演技なんかかなりいい感じです。恐らくこの彼は怒る演技が得意です。怒ってるときの演技は輝いてます。

ちなみに私は監督も編集も作曲も撮影も役者も兼ねていたのですが、最初の頃はボソボソしゃべる過ぎて非常に演技が悪かったです。後半は大分ましになって声量が出るようになりましたが、まあ、至極平凡な演技だなあと客観的には評価しています。素人の中での平凡レベルということです。

比較的大人数で進む撮影

さて、撮影の様子です。

このシーンに出る人が三人、この後に控える撮影のために来てくれていた役者が一人、ひとつ前の撮影(主人公の父親の回想シーン)で出演した役者が一人…合計五人が現場にはいました。

しかし、素人の超低予算撮影には照明とか音声とかいう概念はないので(そもそも当時はそんなの考え付きもしなかった。その後は考え付いて試したこともあるけど、人手不足で断念した)、役者三人にカメラマン一人と考えると、一人完全に暇になる人間が現れます。

その暇になる人物はこの人でした。

キャプチャ

主人公の父親役です。

この人は協力してくれてありがたかったのですが、自他ともに認める演技の下手さにより、これ以降撮影に参加することはありませんでした。あまりにやばい演技だったため、結局声をすべて他の人がアフレコするという事態すら発生したのはここだけの秘密。

まあでも監督の私がこの人のシーンを煮詰めてなかったせいもあるので、演技してくれたことに感謝は感謝です。

 

…てなわけで、この人が完全に余るわけですが、この人は撮影を私よりもさらになめていたために困った事件を巻き起こします!

 

撮影を撮影

カットを撮影している最中にパシャッ! と音がすると思うと…

 

そこにはなんとiPadで撮影の様子を写真撮影する彼(主人公の父親役)の姿が!!!

 

それをやられてしまうと演技の気が散るだけでなく、あとで編集でその撮影音をカットしなくてはなりません。しかもそううまく消せるものでもないので、かなり面倒なことになります。

この時はけっこうみんな撮影に軽い気持ちで集まっていたため、彼は完全に思い出作りのテンションだったというわけです…なんたる悲劇! 我々は当時はまだ軽い勢いで撮影していたとはいえ、あくまで作品つくりのために来ていたつもりでした…ここでチームに地味な分裂が生じます。

そうです。こんな地味な分裂です。

写真撮影をやめてくれと注意する私。

撮影再開する私たち。

気が付くといなくなっている彼(主人公の父親役)。

…そう、彼は……

 

帰ってしまった!!!

 

のである。

これ系のハプニングはこのときが最初で最後です。

元々予定があると言っていたので帰ったのだとは思いますが、恐らくせっかく手伝いに来てやったのに怒られて面倒になったのでしょう…ここで私は監督という立場はことをうまく運ぶ力が重要なのだと知ることになるのです。

しかし、気が知れた仲ですし彼の撮影シーンはすでに終了していたので、みんなその事件はあまり気まずいとも思わずに撮影はその後も進んでいくのでありました。今更ケンカとかにはならない仲なのです。これがあまり親しくない人だったら結構まずかったですね。映画と言うのは現実的な問題が多く絡む創作活動だと思いますわ。

しかしもう一つ問題が起きます。

時間

実はこの後に控える撮影は外での撮影だったのです。となると、暗くなる前に撮らなくてはなりません!

しかし当時は冬。暗くなるのは非常に早いです。

しかししかしまたしかし。灰色のスーツの演技がうまい彼は、実はこの後予定があったのです! すでに帰ってしまった父親役の彼だけではなく、灰色のスーツの彼も予定があったのです。素人が集まってますからね、撮影後にみんな予定を入れちゃうと。そういうわけです。

なので、ここで私は選択を迫られます。

①外での撮影を一瞬で終わらせて、灰色のスーツの彼が帰る前に残りのシーンを撮るか

②灰色のスーツの彼が必要なシーンを一瞬で撮って、続いて暗くなる前に外でのシーンを撮るか

③どちらかをあきらめるか

 

困りました。恐らく①と②は時間的に無理だとわかったからです。この日の撮影の途中で、徐々に撮影にかかる時間の感覚を学んでいた私は、残る撮影シーンを考えると、少なくとも1~2時間はかかるとわかりました。

大分迷ったのですが、結局ギリギリまでは②を狙って超速で撮影を進めることにしました。ほぼ絶望的だったのですが、絶対無理だ!となるまではひとまずその作戦でいくことにしたのです。

 

…しかし、この問題は後に意外な解決を見せることとなります。まあ、それはまた後程。

 

続く撮影

このように色々と問題が起きながらも、撮影は進んでいきます。

このシーンは非常に壮大な世界観のシーンだったため、大層な言葉が広い部屋に響き渡ります。

キャプチャ

高笑いする灰色スーツの男。

キャプチャ

驚愕の事実を告げられる主人公。

キャプチャ

何かを狙う、ベタなエージェント風の黒スーツ男。

キャプチャ

帰宅する、あからさまなカツラの男。

 

このように、演技や演出の難易度が高そうなシーンを人生二回目の撮影で苦労しながら撮ります。引きのカットとアップめのカットのバランス、アングル・カメラワークなども考慮して撮っていたものの、全体的に今見ると結構甘いです。

ですが、頑張って撮影が進んでいきます。そして、撮影が進むとともに、灰色のスーツの彼の帰宅時間と、暗くなる時間が迫ってきます。

そろそろ暗くなりそうな限界か…? そう思った時、灰色スーツの彼が意外な一言を放ちます。

解決する時間の問題

予定なくなったよ。

 

キャプチャ

 

……。

 

ええ~~!!!

 

助かるけどなんとも簡単な解決! というか、実は予定をずらしてくれていたようでした。

 

しかし驚くべきはこれから!

実は予定がなくなったことは30分くらい前からわかっていたとのことだったのです!

撮影の空気を重視してくれて、あえて言わなかったらしいです…うーむ役者の鏡かも知れません。

 

でも、それなら30分早く言ってくれれば外がもっと明るい時に撮れたのに~~と、皆がまた分裂しそうになるかと思いきや…まあいっか、それなら外の撮影やるべ! と前向きに切り替えられたのでありました。いや~人は成長するものです。

というわけで、次回は初の外での撮影です!! これは完全に時間との戦いとなりました…そして、最後は時間が足りないことを逆利用して脚本に反映させることとなるのであります…。ハプニングは逆利用! これが自主映画撮影時の座右の銘かも知れません。

 

しかし実は…

しかし、実はこのクライマックスシーン。約一年後に丸々撮りなおすことになるのでありました。あらあら!
とはいってもこの撮り直しは仕方なく撮り直しただけで、本来は不本意な撮り直しだったのでした。でしたが…撮りなおしたおかげで全体的に非常によくなったので、今思えば撮りなおして本当によかったです。

当時は結構よく撮れたと思っていたのですが、撮りなおした後の素材と比べるとかなり質がちがっていたのです。成長するものですね。

 

てなわけで、今度こそまた続きは次回! 外での撮影はなかなか新鮮で面白いものでした。主に人の目が。