雑学

「やばい」という言葉について考察してみた【便利? 曖昧?】

2015年6月15日

やばいでしょ!

現代において多様な場面で使われる「やばい」という言葉。この記事では、この「やばい」という言葉を考察していこうと思う。

「やばい」というこの言葉は現代の若者たちの間で必要以上に、いや必要をはるかに凌駕した量で使われている。その意味は多様であり、どんな場面においてもとりあえず「やばい」と言っておけば対応できてしまうほどの柔軟性がある。


「やばい」という言葉について

そんな「やばい」について筆者なりに研究した上で、ガッツリ解説していく。

 

「やばい」は便利?

便利コンビニ

だが、あまりにも様々な場面で使われるために、逆にどんな場面で発してもその場合の「やばい」が正確にはなにを指すのか、ということが曖昧となってしまっている現状もまたある。
更に近年どんどんなんでもかんでも「やばい」で済ます傾向が強まっているような節も見られ、この調子では「やばい」という言葉の意味は無限に増えていき、それと同時に「やばい」という言葉の本質的な意味は加速度的に薄くなっていってしまうだろう。

たとえばステーキを食べて「やばい」と誰かが言ったとしよう。なんなら北村くんが言ったとしよう。だが、北村君がその「やばい」を果たして「うまい」という意味で発したのか「まずい」という意味で発したのかは一向に決定できない。これでは「やばい」という言葉には意味があるようでないと言えはしないか。

ではなぜ「やばい」という言葉はこのような事態に陥ってしまったのか。元々は「やばい」という言葉はどういう意味だったのか。

それについて考察してみようと思う。

先行研究

本棚

こういった考察をするときには、まずは先行研究について調べるのが定石だ。
先人の努力を無駄にしてはいけない。
辞書にはどのように載っているのか、幾つかの辞書における記述を調べてみた。

・例解新国語辞典
やば・い
[形]あぶない。つごうがわるい。俗な言いかた。
[句例]やばい仕事。[文例]やばい、にげろ。

・goo辞書
やば・い
[形]《形容動詞「やば」の形容詞化》危険や不都合な状況が予測されるさま。あぶない。「―・い商売」「連絡だけでもしておかないと―・いぞ」
[補説]若者は「最高である」「すごくいい」の意にも使う。「この料理―・いよ」

この二つの辞書を調べただけでも「やばい」がごく最近急激にその勢力を増し、新たな意味を獲得しているということが分かるだろう。
なぜなら例解新国語辞典という比較的古い辞書には「あぶない。つごうがわるい。」というマイナスの意味しか載っていない。それが、goo辞書という最新の意味を載せている辞書になると「若者は「最高である」「すごくいい」の意にも使う。」とプラスの意味も載せている。

goo辞書は最近できたネットスラングである「リア充」という言葉すら載せているくらいなので、確実に最新の意味を載せている。そのgoo辞書が「やばい」の意味にプラスの意味を載せているのだから、やはり「やばい」という言葉は最近になってマイナスとプラス両方の意味に使われるようになったということになる。

そして「やばい」は、プラスの意味、マイナスの意味どちらの意味で使われても非常に極端な意味になる。

たとえばさっきの例で言うならば、北村君の食べたステーキは「すごくうまい」「すごくまずい」かのどちらかになってしまう。聞き手の捉え方次第で大きく、というか完全に逆の意味になってしまうのである。非常に危険である。

これらを踏まえた上で「やばい」の語源と、なぜ今のように極端なプラスとマイナスの意味を持つようになってしまったのかについて調査したいと考える。

○調査方法

脚本

「やばい」という言葉が新たな意味を獲得したのは最近のことなので、情報の移り変わりに対応しやすいネットの情報を主な手段として調査する。まず語源や由来を調べ、そこから推測していく。
また、「やばい」+「プラスの言葉」や、「やばい」+「マイナスの言葉」で検索をかけるなどもして調査していこうと思う。この際にブログなどプライバシーにかかわるものは扱いに細心の注意を払う。

まず「やばい」の語源を調べて出てきたものを挙げようと思う。

著作権的に保護されている、比較的信頼性の高そうなサイトが検索でヒットしたのでそこに書かれていることをかいつまんで説明させていただく(そのままの引用は認めていないようなのでこのような形をとった)。
そのサイト(語源由来辞典http://gogen-allguide.com/)によると「やばい」の語源は以下のようであるらしい。

↓■かいつまんだ説明開始■↓

「やばい」は「具合の悪いさま」「不都合」を意味する「やば」が形容詞化した語であり、もともとは盗人や香具師などの間で使われていた隠語であった。戦前に囚人が看守を「やば」と呼んだことを語源とする説もあるが、「やば」は江戸後期にはすでに使われているためその説は誤りである。
ただ、形容詞化した由来としては考慮の余地がある。どちらかというと「いや危ない」「あやぶい」と同じ語系と考えられる。その他、民間語源節では「夜這い」が「やばい」に転じた説もある。

↑■かいつまんだ説明終了■↑

と、そのサイトにはこのようなことが書かれている。更に「やばい」が今のように肯定にも否定にも使われるようになった由来も説明されている。具体的には以下のようである。

1980年代ごろから若者言葉で「やばい」が「格好悪い」の意味で使われ始め、90年代から「凄い」の意味が派生し、それから肯定・否定問わず「やばい」が用いられるようになった。

このようにあり、一見納得してしまいそうである。

だが、これではまだ、最も重要な部分が謎である。

「やばい」の謎

謎の男

それは、なぜ「やばい」がマイナスの意味からプラスの意味にもつかわれるようになったかの経緯である。1980年代に「格好悪い」の意味が新たに加わったが、その時点ではまだ「やばい」という言葉には否定的な意味しかない。それが1990年代になると急に「凄い」という肯定的な意味が加わっている。その部分が最も重要であるので、その理由を推測できるようなデータをさらに調べていこうと思う。

その前にもう一つ語源を調べて出てきたものを紹介する。

やばいとは、危ない、不都合な状況のこと。
やばいとは、のめり込みそうなくらい魅力的なこと。
【年代】 江戸時代~   【種類】 -

『やばい』の解説
やばいとは「危ない」「悪事がみつかりそう」「身の危険が迫っている」など不都合な状況を意味する形容詞や感嘆詞として、江戸時代から盗人や的屋の間で使われた言葉である。その後、やばいは戦後のヤミ市などで一般にも広がり、同様の意味で使われる。1980年代に入ると若者の間で「怪しい」「格好悪い」といった意味でも使われるようになるが、この段階ではまだ否定的な意味でしか使用されていない。これが1990年代に入ると「凄い」「のめり込みそうなくらい魅力的」といった肯定的な意味でも使われるようになる。
やばいはカタカナのヤバイやヤヴァイといった表記が使われることも多い。
(日本語俗語辞書http://zokugo-dict.com/

最後の「ヤヴァイ」の部分はあまり共感できないが、盗人たちの隠語だった「やばい」が一般に浸透した理由などは非常に納得のいく有益な情報である。
では肝心の「やばい」が肯定的な意味でもつかわれるようになった理由についてだが、それに関しては「やばい」と似たような経歴をたどった言葉の由来について調べることで多少なりとも理解を深められるのではないかと考えた。
それは「凄い」という言葉である。

「やばい」に似た要素を持つ言葉。「凄い」

凄いと言ってそうな女

さきほどは「やばい」という言葉に「凄い」という肯定的な意味が加わったなどと書いたが、もとをたどれば「凄い」という言葉も否定的な意味の語であったのである。
「凄い」は元々は「ぞっとするほど恐ろしい」「ぞっとするほど物淋しい」などの意味であったが、それが「恐ろしいほど優れている」などといったように肯定的に使われるようになったのである。また、感動する時も「ぞっとする」ような感覚があるのでそれも関係しているのではないだろうか。

この変遷を「やばい」にもあてはめてみるとどうだろうか。元々は「危ない」という意味で使われていた。それが「危ないくらいセンスが悪くて格好悪い」、というような意味合いで使われるようになり「やばい」は「格好悪い」という意味も持つようになった。

それが「余りにもセンスが良すぎて危険だ、というくらい格好いい」というような使われ方をして肯定的な意味での「凄い」の意味をも持つようになったのではないかと考えられる。「危ないくらいかっこいい」「危ないくらい可愛い」のような意味で「やばいくらい格好いい」が使われ始め、それが徐々に「やばい」単体で一人歩きしたとも考えられるのではないだろうか。

○最後の調査 -締めはグーグル先生で…-

パソコンで検索

では最後に現代において本当に「やばい」が肯定・否定両方の意味で様々な場面で使われているのか、というのをGoogleで検索をかけて調べたいと思う。具体的にはブログや掲示板などにおける「やばい」という語の使用法を見ることになるだろう。

「やばいうまい・まずい」

まず「やばいうまい」で検索をかけたところ約2,750,000件ヒットした。

一例としてはその中の「四川料理 栄華楼」という店のレビューにおいて「やばい!うまい!麻婆焼きそば(ノ゚ο゚)ノ オオオオォォォォォォ-」という書き込みを見つけることができた。この場合の「やばい」は確実に肯定の意味で使われていると捉えていいだろう。

ちなみに「やばいまずい」は約 639,000 件ヒットだった。

「やばい楽しい」

次に「やばい楽しい」で検索したところ約 1,240,000 件ヒットした。

最上位に来たのは「やばい!やばい! 楽しすぎて. 恋??恋しちゃってる」という記事が書いてあるブログだった。これは恋しちゃうくらいすごく楽しい、めちゃくちゃ楽しいというような意味ではなかろうか。

その他の「やばい」

「やばいむかつく」だと約 704,000 件ヒット。
同様に「やばい早い」は約 2,390,000 件、「やばい遅い」は約 1,500,000 件のヒットだった。

こうしてみると、どれも否定的な意味での用法よりも肯定的な意味での用法のヒット数の方が多いことがわかる。ネット利用者は若者が多いと考えると納得のいくことかもしれない。今後は「やばい」はプラスの意味が主流になっていくのかもしれない。

また、「やばい」のみで検索すると「やばいぞ日本」「ipadのやばい使い方」「柔道はマジやばい」「キレるとやばい」「レンジでとろ~りやばい!クリーム大福」「先週引っ越してきた隣人がなんかやばい」など実に様々な場面で使われていることが分かる。

肯定的、否定的意外にも「なんかやばい」のように曖昧な場面でも使われていることが分かる。ここまでで「やばい」という語についてだいぶ理解が深まったと思うので、これらの結果を踏まえた上でまとめに入ろうと思う。

○まとめ

まとめ

調査の結果、「やばい」という語は元々は「具合が悪い様」という意味の「やば」が「いや危ない」などの語と混ざり形容詞化したものである。「やばい」という語は江戸後期にはすでに存在していた。「危ない」「都合が悪い」という意味だった「やばい」が1980年代頃に「危ないほど格好が悪い」という意味で使われるようになり、1990年代には逆に「危ないほど格好いい」という意味でも使われるようになった。

そこから「凄い格好いい」という意味にすり変わり、今度は単純に「凄い」という意味でも「やばい」という語は使われるようになった。そして「やばい」はいい意味にも悪い意味にも使える便利な言葉となり、若者を中心に爆発的に広まった。

……と、今回の記事内容をまとめるとこのようなところだろう。
それではこの記事がいい意味で「やばい」記事になることを祈りつつ、締め括らせていただく。

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