前回はいきなり「スフィンクス」「闇の遺跡」などの渋めかつ、全シリーズ通してあるわけではないような場面の曲にしぼりましたが、今回は全シリーズ通してある「ダンジョン・洞窟」系の曲の分析をします。
前回は曲が限られていたので、曲の紹介から特徴・作曲技法を分析していましたが、今回は逆で行きます。曲の特徴・作曲技法ごとに、該当する曲を紹介していく方式です。この方が綺麗にまとまるかなと。
では、野暮ったい説明はこんなところにして、本題へ参ります。すぎやまこういち先生の技に触れていきましょう。
ドラクエ音楽簡単分析&解説② 「ダンジョン・洞窟」系
ダンジョンはRPGの基本のようなもの。ドラクエ1から当然のようにあります。なので、曲もたくさんあるわけです。
①揺れる音形
ミファミファミファミファ
のような、二つの隣り合う音を行き来する音系・フレーズのことです。これはドラクエに限った事でもないような基本的な技かな、とも思いますが、いずれにしてもこれは無視できません。
ファミファミファミファミ…のような逆の音形もあり得ます。
楽譜にするとゆらゆらと揺れるような音系ですが、その見た目通り、聞いた時の印象も揺れる心のような不安を感じさせるのです。(使い方によってそうとも限らないのが音楽の一筋縄ではいかないところなんですけどね)
よくわからん、という方は、ドラクエ5のダンジョン曲「洞窟に魔物の影が」を聞いてみればピンとくると思います。イントロが完全にこの音系です。
ドラゴンクエスト5より「洞窟に魔物の影が」
↑しょっぱなから使われ、曲の根幹を成す要素にまでなっています。
それにしてもこの曲、イントロだけで一瞬でダンジョンっぽさを感じられますよね。それだけこの音形は典型的な効果を持つテクニックなわけです。
ドラゴンクエスト1より「洞窟」
↑曲がループする前のフレーズでこのテクニックが使われています。効果音的な使い方にも思えます。結果論ですが、ドラクエ1のときに、すでにそれ以降の洞窟・ダンジョン曲の方向性が決まっていたともいえますね。
ドラゴンクエスト8より「ひんやりと暗い道」
↑11秒辺りなどで顕著に使われています。関係ないですが、この曲はドラクエ8で等身も変わって完全3Dになった中で、あえてファミコン時代のように少ない音数で作曲したんだろうな、と思っています。
ドラクエ1~3までのダンジョンの曲の手法を詰め込んだような曲になっています。
…ちなみに、この音形は非常に素早く演奏すると、トリルやトレモロという演奏法になります。これは緊張感を出すときに使われる凄く一般的な手法です。トレモロをゆっくりやらせると、「洞窟に魔物の影が」や「洞窟」のように、それはそれで揺れ動くような不安さや、おどろおどろしい恐ろしさが出るということです。
たとえば、上のドラクエ3の「ダンジョン」の伴奏にもトレモロは使われています。その他にもたくさんありますが、これは超王道テクニックなので特に紹介しません。ちょっときりがないので…。
トリルを使った例は、ドラクエ7の「迫りくる死の影」などで見られます。
高音でバイオリンが悲鳴のようなトリルを鳴らしています。
②「ファシミ」のような和音
これはドラクエ以外のゲームだと見られない特徴でしょう。コードでいうと、13thのテンションコードですかね。不協和音まではいかない程度に、程良い緊張感と刺激のある響きの和音なわけです。
これをどう使うかというと、たとえば静かめな曲調が続いていく中で突如としてこの和音がジャン!ジャン!と鳴るわけです。危険なダンジョン・洞窟で急に襲ってくる危機のようなものを感じることができます。
しかし、これはダンジョンに限らず、塔でも見られる手法で、なおかつ戦闘曲でもこの和音は多用されます。なので、危険が伴う場面全体にいえる手法でもあります。
ドラゴンクエスト2より「恐怖の地下洞」
↑30秒辺りから例の和音。「ファシミ」を2度音程を上にずらした和音「ソド#ファ#」になっている。
ドラゴンクエスト3より「ダンジョン」
↑27秒辺りからの和音がそう。これは「ド#ソド」になっている。低音は「ラ」。
ドラゴンクエスト5より「洞窟に魔物の影が」
↑1分18秒辺りから。同じく「ド#ソド」の和音。低音も同じく「ラ」。
ドラゴンクエスト8より「ひんやりと暗い道」
↑43秒辺りから、例の和音が使われます。
③音階に沿って順次上昇・下降するフレーズ
ドラクエ3「ダンジョン」、ドラクエ10「暗闇をさまよう」で非常にわかりやすく使われている手法です。洞窟の闇から静かに迫ってはまた去っていくような不安感を醸し出していると思います。ドラクエ3の「ダンジョン」では、その不安が最高潮に達したところで、②の和音が鳴らされます。
寄せては返す不安→危険爆発、のような流れですね。ちょっとよくわからない表現ですが。
ドラゴンクエスト3より「ダンジョン」
↑イントロや、曲の後半などに使われています。
ドラゴンクエスト8より「ひんやりと暗い道」
↑18秒辺りから。ドラクエ3の「ダンジョン」とかなり似た使われ方をしています。上がっては下がり、緊張と緩和が演出されています。
ドラゴンクエスト10より「暗闇をさまよう」
↑イントロで順次下降していきます。その後も伴奏がそれを続けます。ちなみにイントロの最初の8音は「レミ♭レミ♭レミ♭レミ♭」と、揺れる音形になっています。
ドラゴンクエスト6より「暗闇に響く足音」
↑8分15秒辺りで、ストリングスが激しく下降していきます。動画はそこから再生されるようになってます。
③´亜流バージョン
③には亜流タイプもあります。6や9のダンジョンでそれが見られます。一定のフレーズが下降していくパターンです。上昇すると切迫感があり、下降していくと気持ちも落ちていきます。
ドラゴンクエスト6より「暗闇に響く足音」
↑9分33秒辺りから、下降する3音のフレーズが、さらに順次下降していきます。聞けばわかります。動画はそこから流れるようにしてます。
ドラゴンクエスト9より「暗闇の魔窟」
↑31秒辺りから、ほぼ同じような手法が使われています。動画はそこから流れます。
④現代音楽的手法(無調・12音技法)
これはどちらかというとラストダンジョンの曲で顕著なのですが、予測できない不安感や、生理的に怖さを感じるような風に使われているテクニックです。
無調・12音技法って?
通常、J-POPや古典クラシック、その他大抵の音楽は調性音楽といって、「主音」(ドとかレとか、その曲の中でメインになる音)があります。そして、それを元とした和音やコード理論があり、それにのっとって曲が進んでいくのですが、それをあえてぶっ壊すのが「無調音楽」やら「十二音技法」というものです。
調性がなかったり、ドレミファソラシ(♯や♭を含めると全部で12音になる)のすべての音を均等な数鳴らす…などの縛りによって、それをぶっ壊しているわけです。
通常のダンジョンよりも、より一層不気味さ、不安感、怖さ、異常さが出るため、洞窟よりもラストダンジョンでよく使われます。というか、ラストダンジョンは必ずこの手法が使われてます。
…が、普通のダンジョン・洞窟でも使われることはあるので紹介します。昔のドラクエだとあまり使われてません。
ドラゴンクエスト7より「迫りくる死の影」
↑これはメインとなるモチーフが「十二音技法」で作られています。2分6秒辺りからの一連のおどろおどろしいメロディーがそれです。
ドーシーファ♯ーファー ファーファファファミミ♭ラー ラーラ♭ッソッレ♭ーシ♭ーレー(これが色んな高さ(音程)で使われます)
一回も同じ音が使われていません。ほかにも同じ長さを使ってはいけない、とかの縛りがある場合もあります。とにかく、このモチーフがいろんなところで使われるのが、ドラクエ7のダンジョンの曲です。
そして、高音では不安にさせる音形のバイオリンが鳴り響いてますね。トレモロ…というか、ヒステリックなトリルといったところです。この曲地味に好きです。生で聞いたときも、奇麗だしおどろおどろしいし迫力あるし繊細だしで、いい感じでした。
ドラゴンクエスト9より「暗闇の魔窟」
↑1分6秒辺りから、無調的な感じになります。
ドラゴンクエスト10より「暗闇をさまよう」
↑1分11秒辺りから。動画はそこから再生されます。ちょっとピアノが間違ってますが、雰囲気はこんな感じです。
まとめ
というわけで、「ドラクエ音楽解説 第二弾」終了です。ほかにも、
- 短調にする
- 要所で裏拍を強調する
- メロディーの激しい跳躍
などもあります。
短調は普通すぎて省略しました。裏拍の奴はわかりにくいし、顕著ではないのでやめました。メロディーのやつは「迫りくる死の影」以外は塔とか幽霊船とかの曲になるので、ダンジョンの項目では紹介をやめました。
というわけで、重要なとこは紹介・解説できたかなと思います。
まあ、こういった技術だけで作るのではなく、流れるようなメロディーラインを始めとしたいろいろな要素があって名曲となっているわけですから、音楽は面白いということです。
…ちなみに、すぎやまこういち氏は、
「ダンジョンや洞窟の曲は暗く、怖いだけじゃあゲームをしていて嫌になる。どこか美しくなくてはダメ」
というようなことを言っていました。確かにその通り、ドラクエのダンジョン・洞窟は奇麗だと感じることも多いです。
ダンジョンの曲を作りたい方はそれも含めて、この記事を参考にしてみてはいかがでしょうか。
ドラクエ音楽解説記事 第一弾はこちら
ドラクエをオーケストラで聞くならこちら。場面別収録なので、ダンジョンの曲10連続とかで聞けます。面白いです。
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