レビュー・レポート 考察

風早・爽子…『君に届け』ヒットの理由は完璧過ぎるキャラ方程式にあった!

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君に届けといえば、爽子風早くんが繰り広げる「どストレート青春恋愛漫画」である。

私は恋愛漫画はほとんど読まないのだが、これだけはなんとなく読んでしまったところまんまとハマってしまい、二人が付き合うところまでは毎回楽しみに読み続けていた。この漫画はむしろ少女漫画だと思うのだが、ついついハマってしまった。ピュアな恋愛ものが意外と好きなのかも知れない。

とはいえ、二人が付き合った後はちょっと冷めて徐々に読まなくなってしまったので、現在でもまだやってるということすら最近知ったくらいだが…当時はやはりハマった。それに、かなりヒットしてたと思う。

(というか、今は2ndシーズンなんてのもやってるんですね。)

 

そんなわけで、長らく私の頭から消えてしまっていた漫画『君に届け』だが、道端で爽やかな人間を見てなんとなく思い出したので、記事にしてみることとした。

というか、当時私が大学の「アニメ論」みたいな授業のレポートで出した『君に届け』ヒットの理由考察レポートを、少し手を加えつつ、ブログ記事として公開してみることとしました。レポートとは思えないふざけた描写も垣間見えるのが面白い。

今更ではあるが、こんなのを公開してるブログも少ないと思うのである意味貴重だ。ちなみに、内容は結構本格的だと思う。

 

 

では、どうぞ。

 


青春恋愛少女漫画『君に届け』がヒットした理由を考察

 少女の心を掴んで離さぬ少女漫画。なぜ少女漫画は可憐で移ろいやすく、そして気まぐれな少女たちの心を、こうも簡単にうまく掴み、虜にしてしまうのだろうか。いや、ときには少女漫画は少女だけでは飽き足らず少年までをも巻き込み、その虜にしてしまう。

そんな魅力溢れる素晴らしき少女漫画、その人気の秘密は一体何なのか!? 今夜7時から10chで徹底解剖!?といった感じである。

 

…とまあ、そんな下らな過ぎる話はさておき、ヒットする少女漫画というのは一体なにを原動力としているのか、今回はそれを考察したいと思う。そして今回は人気少女漫画の代表として、アニメ化もして男女問わず話題沸騰した人気少女漫画君に届けを考察の対象としていく。

『君に届け』とは

君に届け コミック 1-26巻セット (マーガレットコミックス)

『君に届け』椎名軽穂が『別冊マーガレット』(集英社)にて連載している人気少女漫画である。単行本1巻~10巻の売り上げは1000万部を突破しており、その人気は間違いのないものである。また、DVDも発売、ニンテンドーDSでゲーム化もされ、映画化までもされている。大人気少女漫画と言っていいだろう。

もっとも、個人的には10巻でストーリー的に一旦区切りが付いてしまったため、その前と以降では盛り上がりが若干おさまってしまってはいる。だが、ここで考察対象とするには十分の人気っぷりであることは間違いない。

 

キャラクター設定の妙

では、ここから本題の「なぜ『君に届け』はヒットしたか」に入ろうと思う。ヒットには様々な要因が絡んでいるはずだが、私は計算し尽くされたキャラ設定・キャラ関係図と、それに連動する爽子の成長物語だと考えた。

そう言ってもよくわからないと思うので、まずはこの作品に於いて最も重要だと思われる、主人公のキャラ設定から考察していく。

「黒沼 爽子」のキャラ設定

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(出典:http://www.ntv.co.jp/kiminitodoke/character/index.html

まず主人公の爽子彼女は黒髪ロングストレートで喋り方や雰囲気も陰気なこともあり、周りからは貞子と呼ばれ敬遠されている。しかし実際は優しく前向きな性格で、何事にも感動してしまうような優しい心の持ち主である。

つまり、爽子はコミュニケーションに慣れていないために誤解されてしまっているだけ、ということである(いわゆるディスコミュニケーション)。これが、物語が進むにつれて周りの助けもあり、徐々に改善されていくことにより、爽子と周りの関係も同時進行的に改善されていく。

この設定はこの漫画に於いて最も重要な要素だと言えるだろう。これによってこの漫画は成長物語の要素も含んでいるのだ。成長というのは少年漫画でも欠かせないもの、この辺りにすでに普遍的にうける要素があるともいえる。

読者に共感を覚えさせる仕組み

また、物語の最初の方では風早(爽子を好きな少年であり、サブ主人公。誰にでもわけ隔てなく接する)と読者くらいしか爽子の良さを知らないので、爽子を応援したくなる心理が働く。

更に、男が読んだ場合、「本当の爽子は俺しか知らない!」的な感情や、守ってあげたい、という感情を容易に生み出すことが出来る。これはどちらも風早の心情と一致する。この辺りの妙が男性読者の獲得と密接に関係しているのであろう。

また、少しでもいじめられたり敬遠されたりした経験があった読者であれば、簡単に感情移入できるのも間違いない。ほかの多くの漫画の主人公のように、可愛くて明るくてみんなに愛されていて…というようなタイプじゃないので、暗い性格の女の子(爽子は根は明るいが)や、大人しくてあまり話せないような女の子も固定ファンとして獲得でたのではないかと思われる。

重要な要素「ディスコミュニケーション」

このように爽子のディスコミュニケーションは『君に届け』に於いてかなり重要な位置を占めているのである。

だが、普通はそれ程までにコミュニケーションが苦手な人間が主人公であれば、なにごとも起こらずに単なる陰キャラ(暗い性格の人間)で終わるか、もしくは主人公が徐々にいじめられていく鬱な物語になってしまう。

この爽子の設定の魅力をうまく引き出す周りの登場人物がいてこそ、この漫画は少女漫画として成り立つのである。そしてそこで爽子の設定を生かすために必要不可欠な存在の少年、風早の登場である。

 

「風早 翔太」のキャラ設定

キャプチャ

(出典:http://www.ntv.co.jp/kiminitodoke/character/index.html

風早は作者曰く「アホみたいに爽やかな性格の男の子」である。

爽やかの象徴のような笑顔を振りまき、誰にでも分け隔てなく接し、いつも周りには人が集まってくるような典型的な人気者である。入学式のときに爽子に学校の場所を教えてもらうのが彼と爽子の出会いである。

そのときに爽子が見せた笑顔とクラスでの雰囲気の違い(みんなは爽子を暗い、怖い、貞子のようだと感じている。)に違和感を覚え、「爽子は本当は明るい子なはずだ。本当の姿をみんなに教えたい」のように思い始める。

と、この風早の心情が重要である。読者もそういう風に『君に届け』を広めたくなるように思う。

男性読者も感情移入できる仕掛け

さっきも書いたように、この心情は読者の心情とマッチするのである。物語の最初の段階では風早と読者しか爽子の明るい面を知らない。特に男の読者はここで風早に大きく感情移入できるのである。たいていの少女漫画のヒーローは男から見ると感情移入しにくい場合が多い。

ヒーローが変にすかしたロマンティック染みたことをのたまう美白男子だったりすれば、やはり男性読者はつかないものである。その点でも、やはり爽子のディスコミュニケーションというキャラ設定はかなり重要である。

女性読者からすれば鉄板中の鉄板イケメン

更に、女の子から見た場合、風早は非常に信頼できるスタンダードなイケメンキャラである。誰にでも分け隔てない、という点から可愛い娘にしか興味のないようなチャラ男というレッテル貼りはまず防げる。

そして本当にアホみたいに爽やかなのは、最近の凝りまくった複雑なキャラとは違って単純に好きになることができるし、彼の笑顔の爽やかさだけをとっても一定数のファンはできるだろう。その上で若干天然だったり、ちょっと短気だったりと母性本能をくすぐるような要素も持っている。

まさに万人受けするキャラである。漫画の中で人気者なだけでなく、現実の読者からも人気者となっている彼はすごい。

万人受けの力

万人受けするということはもちろん老若男女問わず好かれるということだ。主人公の次に重要なポジションのキャラがここまで万人受けであることは、自然と読者数の増加、漫画の人気上昇につながるはずである。

現代に於いて、ここまで徹底した人気者キャラをネタキャラとしてでなく、重要なポジションに置いたというのは作者の勇気も必要なことである。見事な英断であったと言える。

 

成長へと繋がるキャラクター関係方程式

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キャラの関係性というのは、キャラ設定と似ているようで全然違う。設定は点であり、キャラクターの相関関係は線である。そして複雑になれば面にもなる。

『君に届け』は各キャラの設定・関係が漫画のテーマと完全に連動した方程式のようになっているため、非常に読みやすく、尚且つ読み応えのある作品になっているのである。登場人物が全員、計算し尽くされた完璧な設定・関係なのである。

ここからは、登場人物・キャラクラーを関係性の視点から見て分析していく。

爽子に対して風早は、唯一解の組み合わせ

そもそも、彼のようなアホみたいに爽やかで人気者でかつ誰にも分け隔てないようなキャラがいなければ、爽子のようなアホみたいにコミュニケーションが苦手なキャラが徐々にコミュニケーション能力を付け、クラスに打ち解け、本来の明るさをわかってもらい、なおかつヒーローと付き合う、なんてことはストーリー的に不可能になってしまう。

そういう意味でも、爽子を出した時点から風早(的なキャラ)の登場は方程式のように決まってしまうのである。逆に風早をヒーローの位置に置いた時点で、爽子のようなキャラ以外との恋愛ストーリーは順風満帆過ぎてつまらなくなってしまうことであろう。

この漫画における爽子と風早の関係は本当にうまくできたものである。『君に届け』にも似たようなシーンがあるように、「チャラ男が爽子をなぜか好きになって猛烈アタックして付き合う」、というのもできなくはないが、その構成だと感動はだいぶ減ってしまう。なにしろそれでは爽子がディスコミュニケーションを克服していく成長、という部分が削ぎ落とされてしまう。それでは『君に届け』はそこまで人気にはならなかったであろう。

爽子と風早の恋愛の進展=爽子の成長

ヒーローを風早のような典型的な爽やか人気キャラにすることによって初めて、爽子と風早の恋愛の進展=爽子の成長となるのである。そしてそうすることによって感動が常に二倍となるのである。素晴らしい手法である。まさにこの漫画に人気が出たのは、これによる部分がかなり大きいであろう。

 

親友のギャル「やのちん」「ちづ」が生み出す深み

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(出典:http://www.ntv.co.jp/kiminitodoke/character/index.html

更に、この構図にはもう一段階の深みがある。それを成し得たのが、ひょんなことから爽子を気にかけて徐々に親友となる、やのちんちづ、の二人の存在である。二人がギャルなところに妙にリアリティがある。自分の高校時代も、クラスに馴染めてない女の子と友達になろうとしてたのは比較的ギャルっぽい二人組であった。

ちづは、馬鹿だけど人の本質を見る、根は優しい泣きじょうごキャラ。やのちんは恋愛経験豊富で冷静で空気が読めて、本音もびしっと言うが裏で色々と気をまわしてくれるキャラ。二人とも学校では権力を持っている存在である。この二人もまた、風早とは違うベクトルで爽子と正反対の存在である。

爽子の友達関係の向上=爽子の成長

この二人が爽子の友達になるおかげで、爽子へのいじめや偏見をシャットアウトでき、物語も進みやすくなるのである。二人と風早の協力のおかげで爽子はそういった保護がなくても自分でやっていけるように徐々に成長していくのであるが、ここでもやはり成長要素が絡んできている。今度は爽子の友達関係の向上=爽子の成長となっている。

これが加わることで、きみとどは単なる爽子と風早とのイチャコラ話ではなくなるのである。

 

つまり…「友達関係の向上=爽子と風早の恋愛の進展」!?

「爽子と風早の恋愛の進展=爽子の成長」であり、「爽子の友達関係の向上=爽子の成長」だということは…そう。

 

ということはつまり、「爽子の友達関係の向上=爽子と風早の恋愛の進展」ともなっているのである。

 

ちづとやのちん(特にやのちん)は風早との恋愛を色々と陰で手助けしているわけで、この構図はより強いものになる。この、友情と恋愛と自らの成長が同時進行的に進んでいく構図、これはやはり秀逸である。

…そして、これらがある一定値に達すると、今度は爽子の成長を試すような存在が登場してくる。ライバルのくるみちゃんである。

 

ライバルくるみちゃんの登場

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(出典:http://www.ntv.co.jp/kiminitodoke/character/index.html

彼女は初めて爽子にとって明確な敵として現れる存在(爽子は暗く、見た目も怖いため敬遠されてはいたが、ギリギリいじめられてはいなかった)であり、物語の初めにこいつがいれば爽子は簡単にいじめられて終しまいであろう強敵である。

彼女は風早をずっと好きであり、振り向かせるために可愛く振舞い学年の人気者となり、「風早独占禁止協定」(詳しく説明すると長くなるのでここでは割愛)なるものまで作り上げたつわものである。

学年のアイドルというのもまた爽子とは真逆で、傍から見たら爽子は圧倒的に不利である。更にそこまで使い分けるほどの裏表がある、という点でも裏表のない爽子とは真逆である。

ちなみに、基本的に爽子を取り巻く人間関係のメインは、爽子と色んなベクトルで真逆のタイプの人間たちである。だから面白いのである。

 

さて。

彼女は自分は死ぬほど努力してやっと人気者になったのに、ただ暗い、弱者であるという理由だけで風早に好かれる爽子が許せなかったのだ。その上、爽子はちづとやのちんという強者まで自然と味方につけている。立場が下であるがゆえのその特権、強さがずるく思えて仕方なかったのである。

これは『君に届け』をある程度読み進めていくと読者が頭の片隅に思い始めることでもあり、それをうまく代弁している。だがそれを今度は爽子自身が自分で否定し打ち破る。それによりまた感動が生まれるのだ。素晴らしい構成である。

したたかなくるみちゃんVS真っ向勝負の純粋な爽子

彼女くるみちゃんはかなりしたたかであり、裏で爽子の悪い噂を流したりする。だが、それを成長した爽子が自分一人で真っ向から向かっていき、「自分は風早を好きである」ということをくるみちゃんに告げ、くるみちゃんにもライバルとして認められる、という展開が作中にある。

これはまさに爽子が自立した証拠であり、ここで初めて弱者という立場から離れた爽子の人間関係が成立する。この辺りのイベントを境に、爽子はちづやのちん達にも本当の意味で対等に接せるようになっているし、風早とも「付き合う=対等な立場」となっている。

このくるみちゃんという存在は爽子の成長を試す試練の象徴だったのである。

 

『君に届け』は爽子の成長(克服)物語

くるみちゃんが登場するまでは爽子は周りに引っ張ってもらって成長(=友達関係の向上=恋愛の進展)してきた。

だが、くるみちゃんを乗り越えることによって、とうとう自分の力で成長を遂げ、その結果友達関係もよりよくなり、風早との恋愛も成就したのである。くるみちゃんはその意味では、ある種、風早よりも重要な存在である。

そして、この展開はまさに先に述べた通り、

  • 「爽子と風早の恋愛の進展=爽子の成長」
  • 「爽子の友達関係の向上=爽子の成長」
  • 「爽子の友達関係の向上=爽子と風早の恋愛の進展」

という式にのっとっている。

 

成長に焦点があてられた少女漫画

とこのように、『君に届け』という漫画は従来の恋愛を中心においた少女漫画とは違い、成長という要素を根幹部分に持ってきた作品なのである。

もちろん実際に読んでみると中身は恋愛中心となっている。だがそれは、爽子が成長した部分のうち、恋愛部分を多く抽出して描いているからであり、物語の真のテーマが爽子の成長であることには変わりない。

…というよりは、爽子の恋愛はすでに述べたように、爽子と風早のその設定から言って爽子の成長と完全に連動しているので、爽子の恋愛を描くことがそのまま爽子の成長過程を描くことになっているのである。

すべての要素がひとつながりとなった、綺麗かつ複雑な構造

それに、『君に届け』は恋愛だけでなく友情に関しても描写がかなり多い。友情というか恋愛以外の人間関係全てである。

人間関係の向上=まさにディスコミュニケーションの克服なのであり、それはつまり爽子の成長=風早と付き合える…という鎖のようなつながりがそこにはあるのだ。というかこの漫画に於いてはそれらは全て同じことなのである。

そして、この漫画における成長は克服でもある。

成長要素は少年漫画の鉄板

そして成長物語と言うのはまさに少年漫画の鉄板、王道、セオリーである。それがあるから男性読者も獲得できたのである。

それに、爽子の本来の姿は、男から見るとやはり非常に愛らしく、風早と同じような心情になってしまうのだ。つまり、この漫画は女の子は爽子に感情移入でき、男どもは風早に感情移入して読むことができるのである! 今更かつ単純なことだが、この二要素が男女問わず人気な理由であろう。

これだけ言うと単純すぎるが、そこに計算し尽くされた成長(=ディスコミュニケーション克服)の物語が入ることで、非常に読み応えのある作品になっているのである。

 

まとめ

と、これらがまさに『君に届け』の人気の要因であると私は考える。

ただ、この漫画はメインキャラの誰かの設定を少しいじるだけでも途端に破綻してしまう危険性があるので、似たような漫画を二番煎じで作ることは難しいだろう。シンプルな設定なだけあって、これを小細工で変えることは難しい。

逆に言えば『君に届け』は素晴らしい設定を見つけ出し、またそれの描写に長けていたということになる。いち早くこの設定の最適解を見つけ出し、世に送り出した椎名軽穂はすごい漫画家である。

 

それでは『君に届け』ヒットの要因に結論が出たところで、この記事は終わりにさせていただく。今の『君に届け』がどうなっているか私は知らないが、一度も読んだことがない方は是非この機会に読んでみて欲しい。

人間に成長は欠かせないと、そういうことであろう。では。