節分の豆があまり好きではない人だーれだ!?
はい、三文享楽です。最近ダイエット始めた未熟者でーすwwwww どんぶり大好き~~
こう見えても、居酒屋でそれほど枝豆を食べません。ウイスキーにピーナッツやアーモンドを合わせることもほとんどありません。
じゃあ、何を食べているの?
唐揚げにポテト、ピザ、鉄板焼き。最初から最後まで、
油物ですよ!
『鬼は外』
物音がするので近づいてみると、鬼のお面を装着した人間がいた。
「ああ、あなたもですか」
話しかけるより前に、鬼のお面をつけた男が声をかけてきた。
野太い声から察するに、四十台の半ばに差しかかった中年のようである。
「というと、あなたも?」
斜めにずれていた自分のお面を定位置に戻して、マサは訊き返す。
「まったく。鬼は外をするのはいいけど、外(そと)された我々のことも考えてもらわなくちゃだとは思いませんか。申し遅れました、自分はこういう者です」
差し出された名刺には「鬼(おに)」と書いてあった。
節分用に作られた名刺なのだろうか。
「すみません。自分、今、名刺を切らせておりまして……」
普段使っている名刺入れを所持していたが、自分だけ本名を晒(さら)すわけにはいかない。
「じゃあ……」
マサは頭の上から靴に至るまでを舐めまわすように見られる。
「鬼(おに)と呼んでいいですか」
鬼と書かれた名刺を渡してきた男はそう言った。
「……はあ」
快くは頷けない。
本気で言っているのか、自分と同じ名前にすることを指摘して欲しいのか、男の声を聞く限り判断がつかない。もちろん、鬼の顔を見たところで判断がつくはずもない。
「鬼って何なんでしょうね」
鬼は、鬼と名付けられたマサのリアクションも待たずに、語りだした。
耳にかかったゴムがかゆいのか右手が耳の裏に向かう。
「本人は望んで鬼になったわけではない。しかし、どこへ行っても嫌われる。あっちへ行け、と石までぶつけられる」
「まあ、鬼ですからね」
「鬼、ですか」
鬼はお面の眉毛を触り、お面の顎を撫ではじめる。
「あなたは鬼に進んでなりましたか?」
「ええ、まあ。娘や嫁にやらせるわけにはいかなし、家庭の中で鬼の役をするとしたら私かなと、一応自分から」
「相対的に組織を考え、役割分担として鬼の役を演じていると?」
「ええ、まあ。難しく言えば、そういうことになりますかねえ」
「不憫(ふびん)ですねえ」
鬼はそう呟くと夜空を仰ぎ見た。
如月(きさらぎ)の風は冷たい。星がたくさん出ていることは予想できたが、マサは鬼から目を逸らすことはできなかった。
目の前にいる鬼の立ち居振る舞いが、あまりの憐憫(れんびん)さで満ちているからである。
この鬼はもしや本当の鬼なのではないのか。
「あなたはもはやこちら側だから遅いかもしれない。でも、聞かせてください。あなたが子どもだった頃に一度でも、鬼は外された鬼の行き場について、考えたことはありますか?」
鬼は外された鬼……。
思い返すまでもない。そんなこと一度だって考えたことはない。
鬼は鬼である。
自分のテリトリーから排除すれば、テリトリーの平穏は満たされるのである。
「少し質問を変えてみましょうか」
マサが即答しないことに我慢ができないのか、続け様に鬼は言う。
「あなたこの後どうするつもりでしたか」
鬼は後ろで手を組み、マサとは逆を向きながら尋ねた。
「まあ、この辺をブラブラしたら、コンビニでも寄って帰ろうかなと思ってましたが」
「で?」
……で、とは?
「家に帰れば豆の片づけをする家族がいるでしょう。自分の家族を鬼に仕立て上げて豆をぶつけるという狂気じみた祭典を行ったことすら覚えていないような顔をしているすっとぼけた家族にあなたは何事もなかったかのように接し、また家族を始める」
「家族を始めるっていう言い方は、おままごとみたいで、なんとなく角が立ちますけど」
「そうですか、それはすみません、謝ります。ところで」
鬼は振り返りマサの眼をのぞきこんだ。
「それって本当に今までの家族ですかね?」
「いやいや、家族でしょ。だって」
「鬼は外をした後の家族」
鬼はニヤニヤしてマサの言葉を補足する。
「まあ、それに違いはないが」
「あなたは、似たようなことをこれまでに味わったことがあるかもしれない。あるいは、これから幾度となく、味わされるかもしれない」
息継ぎもなく、鬼は話し続ける。
「なにかの祭典を行う際、あなたはある役目を負わされる。本当はやりたくなかったが仕方ない。役目だからやりきるか。初めはその場の誰もが役割が役割であることを認識し、演技活動を行っていたはずだった。それなのに、いつしか。そう、いつしか、祭典が終わったにもかかわらず、あなたは役目の延長上の人物として扱われることとなる」
鬼の息継ぎはまだ行われない。
「無理して感情をコントロールし演じきったはずなのに、それがあなた自身として扱われ、いつしかあなたとなる。あなたは、こんなはずではなかった、と悔いる。役割を変えて欲しい、と主張する。しかし、演技活動は終わらない。気付けば、最初の役割分担の取り決めすら、なかったことになっている。そう、それは」
鬼の手はいつしかマサの肩を揺さ振っていた。
「終わらない節分なんですよ」
遠くで子どもの叫ぶ声が聞こえる。
また、一人の鬼が生まれたらしい。
「見てください、周りを」
マサの肩から手を離した鬼は、周囲を見るよう促す。
「こ、これは?」
マサの目に入ってきたのは街をさまよう何人もの鬼であった。
鬼はうつろな目をすることもなく道を歩いている。
これが当然という顔、いや当然であるという感情すらないかもしれないような顔だ。
「ええ、鬼です。行き場を失った鬼なんですよ」
「こんなに町は鬼で溢れていたのか?」
「ええ、行き場も用意されずに鬼は外された鬼で、もはや世の中溢れ返っているのです。この世の中には限りません。どんな世界でも鬼は溢れているのです」
鬼は空を仰ぎつつそう言うと、猫背に戻った。
何かを思い出したようにポケットをさぐり出すと、示し合わせたかのように着信音が響いた。どうやら、男のケータイが鳴ったらしい。
「いけない、いけない。今日はすき焼きでした。葱を早く買って帰らないと、すき焼きが始まらないらしい。お? おっとっと、嬉しいですね。葱だけではないらしい、どうやら私も必要なようです。単なる愛想だとしても心温まるなあ」
男はケータイの画面を見ながら言うと、笑顔でマサを見た。
いつの間に鬼のお面をとったのか分からなかったが、そこには平凡な四十台のおじさんがいた。
「鬼にも住処があるんですよね。そこにはまた未来の鬼がいたりもする。まだ小さな息子ですがね、かわいいんですよ。将来、鬼にならなければならないことも知らずにね。ああ、あなたも早く帰った方がいいですよ」
中年男はまだ自分の話も終わらないうちに、マサに背を向け立ち去って行った。
冗談ではない。
早く帰らせずに話をしていたのは、お前だったではないか。
鬼のお面をとろうと耳に手をやったが、そこにゴムはひっかかっていなかった。
気付くと、マサも鬼のお面は外していたようである。
「いつの間に外したのだろうか。まあ、いいか」
たかが数十円の価値しかないお面の所在を探すよりも前に、マサの頭に浮かんだのは家に残した娘である。
娘が自分に豆を投げた瞬間の記憶がよみがえる。
去年より成長したのであろう。ぶつけられる豆が痛くなっていた。
「ショートケーキでも買って行ってやるか」
コンビニへ足を向けたマサは、照れ隠しなのか頭をかく。
「んん」
ボリボリボリ……。
寒い時に頭をかくと、血液の循環が良くなり余計に痒くなることもある。
前頭部をボリボリと掻いていると、角(つの)のような硬いものに触れた気もした。だが、娘のことで頭がいっぱいになっているマサが、そのことに気付くはずもなかった。
鬼と言えば、モンスター
ゲームついでにもういっちょ