どうも、小説担当の三文享楽です。
前回の短編は、久々に時空モノガタリにアップしていないものでしたが、時空モノガタリシリーズはまだ1テーマの3小説分〔1・2・3〕しかあげていませんので、今回からまた3連続で時空モノガタリです。
Q.「時空モノガタリ」とは?
A.あらかじめ決められたテーマ、字数制限がある小説コンテストです(各テーマにつき一人三編まで投稿可能)。
さーて、今回のテーマは、
【罠】です。
どこを向いても罠だらけ、生きていくのって大変ですよね。
『ウサギ罠』
はてさて皆さん。この状況、おかしいのは私なのでしょうか。
山にしかけた罠を確認しに行った私は、ウサギがひっかかっているのを見たのです。
いえ、もちろん、それ自体はおかしい状況ではございませんよ。
そのウサギ、なんとまあ腕組みをしてこちらを見ているではありませんか。
痛がる、逃げようと暴れる、というのが一般的な反応ですよねえ。百歩譲って、もう逃げられないからどうにでもなれとふて腐れている、というのもまだ分かります。
ただ、このウサギ。脚に噛みついた罠を外すことなしに切り株に座り、腕を組んでやってきた私のことを見ているんですよ。
こりゃもう、まともな状況ではないでしょう。
「おまえさんかい、こんなイタズラをしかけたのは?」
あれれれれ?
「おいおい、そんなあからさまに驚くなって。そのまま倒れて気絶しちゃうってのは、卑怯な展開だぜ」
だって、ねえ。ウサギがしゃべっているではないですか。
いえね、百歩に加えてあと何十歩譲っても、腕組んでふてぶてしい態度をとるというのは分かるんですよ。ただねえ、五百歩、千歩譲っても譲りきれないことがあるでしょう。
「ウサギがしゃべってるよ」
もう率直な意見でも口にしなきゃ、私の頭の中で収拾がつきませんよ。
なんだって、新しいことを受け入れがたくなったこの歳になって、こんな事態に出くわさなければならないのですか。
「なんでい。ウサギがしゃべったら、ダメだってのかい? この国には、ウサギがしゃべったら罰する決め事でもあるってのかい、ええ?」
「いえいえ、そんなことは」
「あのな、ウサギってのはな、日本古来の物語にも出てくる生き物なんでい」
はあ。
ウサギは日本文化における自分の立ち位置的なものを滾々と話し出しました。日本文化の教養などまるでない私はただそれを聞く以外にありません。
長々とウサギの存在意義的なものを語られれば、目の前のウサギもどことなく高貴な感じがしてくるものです。畏れ多いものを相手にしているのではないかという恐怖すら生まれました。
「ところで、お前さん、猟師か何かかい?」
「え、ええ」
ウサギは突如私の職業を尋ねてきました。言い当てられた私は驚くほかにありません。
「どおりでねえ。何千、何万もの動物を殺めてきた。そうだろう」
「まあ、そういうことになりましょうか」
「なんで分かったか。そりゃ、お前さんに何匹もの動物の怨霊がついているからだよ」
生物を殺めることを生業としているために批判を受けることは数多くありましたが、ウサギに言い当てるとなると、動揺するものです。
「見えるものですかね?」
「ああ、ばっちりね。獣からすれば、仲間たちの死が見えるだけに、お前さんを標的にしたいだろうね」
はあ。
なにも無視する気はありませんでしたが、こうも霊の存在を言い切られると何も言えなくなるものです。
「ただし、お前さんが救われる方法がないでもない」
ウサギも私の顔をじっと見てきました。
「というといかにも胡散臭い提案が出てきそうなものだが、実際は何もない。こう見えても特別な能力なんか何にもないんだ。ただ、耳が長いくらいだな」
これほど調子の変わるウサギもいるのでしょうか。
「あ、でも実際に霊は見えるんだよ。これは本当。たぶん他の動物も見えているだろうから、狙われているのは間違いないだろうね。もう特別な能力も何もないから猟銃なんか携帯するといいんじゃないか」
「猟銃?」
「そうだよ。単なる護身用ね。あと、俺のことも食べるとか売るとかせずに、いっそのこと手を組まないか。耳は良いし、しゃべるウサギなんてそういないだろう」
私は会話の流れに身を任せる以外にありませんでした。これは何かの罠にかけられているのでしょうか。最初に罠にかけたのは私のはずですが、もはやどちらが話の主導権を握っているかすら分かりません。
「決まったな。実際俺も寂しかったんだよ、この辺にウサギいないしな。いい子いたら紹介してくれっていう交換条件はどうだ。ちなみに、俺は俺って言っているけど、メスだからな。紹介するのはオスだぞ」
高貴な雰囲気も何もなくなりましたが、ウサギはまだ勝手に話を進めていました。
「最初はこの罠に頭も来たけどいいや。許してやるから手当てしてくれよな。俺だけ能力を提供してやって俺が得することもないと思ったんだけど、よくよく考えてみれば力関係的に人間の方が強いもんな。社会的というより物理的にさ」
ウサギは伸びをしつつ、まだ語ります。
「いいよ、だから守ってくれ。そうしたらなんか奉仕する。まあ、話しているだけでもいいよ。前よりちょっと楽しい」
よく分からない展開になり、このウサギの目的もよく分かりませんでしたが、結果的に一緒に暮らすこととなり、我々は死ぬまで仲良く暮らしました。
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