どうも、モーミンパパです。
昭和ブームに乗っかったのか、大盛りブームに乗っかったのか、両方の合わせ技なのか、ナポリタン人気がつづいています。ロメスパなんて言葉も定着して、ナポリタンはその代表メニューになっています。チェーンの専門店も、あいかわらずひとが入っています。
私も昭和の人間ですから、ナポリタンは大好きです。自分でもつくりますし、タバスコと粉チーズは常備しています。
もちろん、外でも食べます。昔ながらに茹で置きしたものに油をからませて保存し、注文があってから具材とフライパンで焼く、やや太めのスパゲッティー(パスタとは一線を画したい)のものが好きです。
ですが、世間の昭和人間の皆さまに私は問いたい。
なにか忘れちゃいませんか?
初恋の相手との思い出ばかりにひたって、次に好きになった子のことをすっかり忘れているのではないですか。
ミートソースですよ。スパゲッティー・ミートソース。
スパゲッティー・ミートソース
ナポリタンと人気を二分する昭和の大スターだったのに、なぜかいつまでたってもミートソースにブームの気配はありません。吉祥寺のパスタ店「スパ吉」がミートソースひとつにメニューを絞った店を阿佐ヶ谷に出しましたが、チェーン店化はしていません。たぶん思ったほどの集客ができないのでしょう。
まあ、そういう平成の新参者の動向には私はあまり興味がないのですが、昭和な喫茶店のミートソースが注目されないことには悲しみさえ覚える今日この頃なのです。
ですので、私はあえてナポリタンが有名な昭和の名喫茶店で、ミートソースを食べる運動を起こすことを決意した次第です。いまのところ運動員は私ひとりです。これを読んだ皆さまが隠れ運動員となることを切に希望します。でないと、メニューの統廃合を目論む合理的平成経営者によって、ミートソースが消される可能性もないとはいえないからです。
では、運動開始。
ナポリタン人気喫茶店におけるミートソース運動
さぼうる2
まずは喫茶店のナポリタンといえばこの店、神保町の「さぼうる2」です。
隣の「さぼうる」にはナポリタンはないのでご注意、ということを含めての超有名店です。ここのナポリタンを食べずしてナポリタンを語ることなかれ。
この点は私も同意しますが、今回はミートソースです。
語られることがあまりないですが、ちゃんとメニューには存在するのです。スパゲティのメニューは、ナポリタン、ミートソース、イタリアン、バジリコと4種類あります。イタリアンが気になるひとも多いでしょうが、今回は触れません。看板メニューのナポリタンばかりが語られています。
ボリューム
なぜ語られるのか。一番はそのボリュームです。北斎の描く富士山のごとき、まさにスパゲッティーの山です。「二郎」でいえばマシマシです。それも野菜ではなく、麺の。
しかしそれはミートソースも同様なのです。マシマシ麺の上に大噴火した活火山から流れ出た溶岩のごとく、ミートソースがどろどろと溢れているのです。気の弱いひとと胃腸の弱いひとなら、出てきた途端に「参りました」と頭を下げたくなるはずです。
「さぼうる2」はいかにも昭和の喫茶店らしい味のある内装の喫茶店です。
ですがその木製の椅子とテーブルは、昭和ではなく鎌倉か室町あたりの人間のサイズに合わせたようにちいさく狭いのです。長居しているとエコノミー症候群になってしまいそうだし、たとえばひとりで四人掛けテーブルに通されて、あとから向かいに相席のふたり客がやってきたら自分の皿空間をどう確保したらいいんだろうと悩んでしまうほどなのです。
そこにマシマシ山です。遠近感がおかしくなりそうです。食べているうちに、小人国に迷い込んだガリバーの気持ちになってきます。
断っておきますが、これは不平不満ではありません。それほどの異体験ができるということです。
味はミートソース
味はといえば、まさにミートソースです。
昭和のミートソースを食べてきた人間にとっては、ほぼそのまま数十年をタイムスリップしてNHKの少年ドラマシリーズの世界にまたまた迷い込んでしまったかのごとき、変わらぬ懐かしい味が守られています。当然ながら、ナポリタン同様、出てきた粉チーズとタバスコをわっさわっさとかけます。
平成の流行りに従って途中で味変させてもいいのですが、昭和の流儀としてはとりあえずわっさわっさかけてしまいます。なにしろマシマシ山なので、それでも粉チーズやタバスコが到達できなかったところが地表に現れるので、そうしたらまたわっさわっさとします。これを繰り返しつつ、お召し上がりください。
もしかしたら最後、ミートソースが足りなくなってしまうかもしれません。それはミートソースが少ないせいではありません。スパゲッティーが多すぎるのです。その場合、粉チーズとタバスコと一緒に出てきた食塩をかけてどうぞ。
シーザー
満腹のあまり、おいしいけどミートソースはしばらくいいかななどと日和ってはいけません。ひとはひとつの山を制覇したら、次の山を目指すものなのです。マシマシ山の次に待つのは、知られざるマシマシマシ山です。
溜池の雑居ビルの地下にひっそりと佇む「シーザー」。閑散とした通路の奥にある店内は、実は「さぼうる2」以上の昭和的サラリーマン天国であり、次なるマシマシマシ山の待ち構える秘境なのです。
ここもまた、ナポリタンが人気メニューです。しかしここでこそ、ナポリタンではなくミートソースを注文して欲しいと運動員の私は申し上げたいのです。
なぜならば、こちらのミートソースはスパゲッティーの量も「うちは多すぎるのよ」とウェイトレスのおばあちゃんが認めるくらい常軌を逸していますが、それ以上にミートソースの量が尋常ではないのです。スパゲティーの山の上にミートソースの山が載っているという表現が正しいかもしれません。
半固形のミートソース
ここでは途中でミートソースが足りなくなるなんて心配は無用です。逆に心配しなくてはならないのは、途中でスパゲティーが足りなくなってミートソースが余ってしまいそうなことです。しかもこのミートソース、ひき肉の占有率がやたらと高くて液状でないばかりか、ゲル状さえやや越えて半固形に仕上がっています。
しかもスパゲティーには炒めたときの焼き色以上に色がついていて、どうも下味がついているらしい。さらになかには、ウィンナーまで潜んでいるのです。
食べると、しっかりとひき肉の味がします。イタリアンではパスタはセコンドピアットであり、このあとにメインがつづくのですが、これはもうパスタでありながら肉料理です。立派すぎる本日のメインです。猛烈サラリーマンにはたまらない活力源となりそうです。
当然、粉チーズとタバスコは欠かせません。ミートソースという肉料理に、粉チーズとタバスコというソースをかけていただくのです。
これこそ、看板であり、名物であるべき一皿です。量的には二皿以上です。
ミートソースの秘めたる実力を(胃袋の)極限まで引き出した、ひとが死ぬまでに(できれば若いうちに)食べておくべきものなのです。
王城
それでは最後に上野の「王城」をご紹介しましょう。マシマシマシマシ山、ではないのでご安心を。
こちらは大変に由緒正しい昭和喫茶です。店名、看板、内装、店員の制服からふかふか布張りの椅子に至るまで、かつて「純喫茶」と呼ばれた喫茶店そのままです。
ここの入口脇に置かれたメニュー看板が、ミートソースの置かれた現状を如実に物語っております。
どかんと大きく「ナポリタン」の写真。ミートソースはその半分。かつて昭和の高度成長期には東西両横綱として喫茶店界の食事メニューの頂点に君臨した両雄が、いまではこれほどまでに扱いに差をつけられてしまっているのです。
いえいえ、メニューの看板だけではありません。
こちらのミートソースはなかなかに上品で丁寧なお味がします。量に頼っていないのは、サラリーマンだけでなく年配客が多いこともあるでしょうが、味に自信があるからとも思えます。もちろん、味に自信があっても、粉チーズとタバスコは忘れていません。
しかもタバスコは、昭和モダン模様のマグカップのなかに、フォーク、紙ナプキンと一緒に収められて出てきます。この演出、憎いです。
上品丁寧なミートソースに潜むもの
しかしながらこちらのミートソース、おいしくいただいているうちに、おやっと思うことになるのです。なんとスパゲティーのなかに、ハム、マッシュルーム、ピーマン、タマネギが潜んでいるのです。「シーザー」のウィンナーは肉感アップがねらいでしょうが、こちらはまったく違います。潜んでいるのは、すべてナポリタンの具材なのです。
一般のお客さんにはうれしいサービスかもしれませんが、ミートソースの地位向上に奔走する運動員の立場からすれば、ナポリタンの侵略です。ナポリタンによるミートソースの植民地化政策とも取れます。こんなことが、由緒正しい純喫茶で起こっているのです。
正直、違和感はそんなにないです。お得感はあります。ミートソース感もさほど損なわれてはいません。というより、かかっているミートソースがおいしいので、れっきとしたミートソースであります。ケチャップが使われているわけではないので、ナポリタンを連想しないひとも多いかもしれません。
なので、いいといえばいい。ただし、未来は不安です。
そのうち、具材がミートソースに混ぜ込んで提供されるかもしれないし、ミートソースがほかの具材と一緒にスパゲティーにしっかり混ぜ合わされてしまうかもしれない。
私は皆様にお願いしたいのです。いま以上にミートソースがナポリタン化しないように、「王城」ではミートソースを注文していただきたい。
モーミンパパのひとこと
以上、拙文を機会にミートソースを食べていただければ幸いです。ナポリタンがおいしい喫茶店は、ミートソースもおいしいのです。
とかいいつつ、いつものようにミートソースで駄句をつくろうと思ったらうまく浮かばず、ナポリタンにしてしまいました。それも一句でなく、一首。
地下街で
タイムマシンに
連れ去られ
紫煙のけつつ
ナポリタン喰う
昭和喫茶は禁煙の店はほとんどありません。私はタバコを吸いませんし、嫌煙家ですが、ここは先住民である愛煙家に敬意を表して、甘んじて副流煙を浴びています。
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