最近はとんかつブームだとも知らず、コンスタントにとんかつを食べつづけてウン十年のモーミンパパです。
牛カツ屋はやたら街で見かけますし、林SPF豚がやたら注目されているのも知っていますし、チェーン系のとんかつ屋が出店しているのも知っていましたが、禁煙嫌煙と同じくらい糖質制限が叫ばれるご時世に、揚げ物界の大立者であるとんかつが、まさかブームになっていようとは。アメリカの禁酒政策時代に闇の酒が横行したようなものでしょうか。
ひとはサラダのみで生きるにあらず。
あらためてそう実感し、勝手に勇気づけられました。
さあ、この勢いを駆って、もう一歩進んだカツカレーブームも来るのでしょうか。あるいは、もうすぐそこまで来ているのでしょうか。耳をすませば、カレーと衣の油にまみれた豚肉の脂がぬらりぬらりと迫ってくる足音が聞こえてくるのでしょうか。
……。
聞こえません。しかし、構いません。世間のブームとは別に、マイブームというものがあります。そうです、私には空前の、そして健康のことを考えると絶後であってほしいカツカレーブームがやってきているのです。
そんなわけで、前回の食堂のカツカレーにつづき、今回はとんかつ屋のカツカレーをみっつ紹介します。たぶん、次回はカレー屋のカツカレーです。その次はスタンドのカツカレーで、そのまた次は洋食屋のカツカレーで、そのまたまた次は中華料理屋のカツカレーを予定しています。
嘘ですが、嘘から出た真になるかもしれません。いま書いていて、頭に何軒か浮かんでしまいましたから。
とんかつ屋のカツカレー3店、ご紹介
前回、私はとんかつ屋のカツカレーは、カツに重点が置かれていて当然だみたいなことを書きました。普通に考えれば、そうですね。とんかつ屋なのだから。カレーに重点を置くなら、カレー屋になればいいのです。
なってしまった店があります。とんかつ屋をやめたわけではありませんが、カレーも開いてしまった店。それもかなりの有名店です。
高田馬場と並ぶ東京二大とんかつタウンとなっている蒲田の「檍」です。隣に「カレー屋いっぺこっぺ」というカツカレー屋さんをつくってしまっています。しかもとんかつ屋ほどではないにしろ、行列のできる店になっているそうです。
そうです、と伝聞で書いたのは、行っていないからです。私はとんかつが大好物ですが、私の住む街から蒲田は結構距離があります。気持ちは萩原朔太郎です。
かまたへ行きたしと思へどもかまたはあまりに遠し。
芝大門「檍」
なので、比較的近い芝大門にある「檍」の支店に行っています。カツカレーもこの店でいただきました。
本店ほどではないにしろ、こちらもランチ時は大行列をつくる店です。ランチメニューもありますが、上ロースを注文するひとが多いです。私も前回はそうしました。
しかしブームの沼にずぶずぶにはまりこんでいる私は、カツカレーです。
出てきたカツカレーを見て、実は少しがっかりしました。カツカレーには具だくさんのおいしいみそ汁がついてこなかったのです。
とはいえ、ご覧ください。カレーのルーに千切りキャベツとごはんでダムをつくり、その上で泰然自若と構える美しいカツ。そしてちら見えさせた福神漬けの盛られたスプーンがちょこん。
繁盛店というのは、こうした女子受けも忘れないのですね。たとえ、お客さんはおじさんだらけだったとしても。
やはりカツに自信あり
カレー屋を出していても、カツに自信があるのです。まずはカツはカツだけで食べなさいと無言のうちに圧力がかけられています。
カウンターには
「塩でお召し上がり下さい」
と張り紙があり、ご丁寧に塩は四種類が用意されています。カツカレーだからといってここまでお膳立てされて、いきなりカツにべっちょりとカレーを塗りたくる度胸は私にはありません。他のお客さんにもないようです。
また、脂の多い肉に塩が絡むと、なんとも脳がとろけるのです。
ではカレーはどうかといえば、これが甘さのあとに辛さがくるという意味ではよくあるカレー屋以外のカレーなのですが、粗雑さがない。しかもルーには豚の端肉がたっぷりと入っていますから、カレーだけでも十分にいけてしまうのです。
塩でカツ、ごはんでカレー、キャベツで口直し。
この繰り返しで、つい食べ終えてしまいかけます。しかしカツカレーです。ちゃんと一緒に食べなくては。
これがまた、カレーの端肉オンとんかつで、豚オン豚。
かつ肉の歯ごたえと、端肉のやわらかさにまとめて襲われてくらくら。さらにお店のひとは顔をしかめるかもしれませんが、かつにソースをかけてさらにカレーでいくと、過剰旨みによる味蕾崩壊寸前の陶然たる境地に至るでしょう。
目黒「かつ壱」
目黒もまた、隠れたとんかつタウンです。
そのなかで、ビルの地下でひっそり営業しながらも、昼時は近くのサラリーマンで大賑わいしているのが「かつ壱」です。
こちらもとんかつ屋さんなので、カツカレーの注文をするひとはそれほど多くはありません。しかし私は、わざわざこの店に足を運ぶひとはカツカレーを食べるべきだと、口をもぐもぐさせて訴えたいと思います。
「檍」同様、カツはカレーのルーとは別にごはんの上に載っています。
違うのは、キャベツが別皿で出てくるところ。そのキャベツには、ドレッシングがかけてあることです。定食のとんかつはキャベツも一緒に盛られていて、そこにはドレッシングはかかっていません。テーブルにもドレッシングはありません。
つまり、ドレッシングはカレーに合わせているということのようです。
このちいさな気配りが、カツにも効いています。
縦だけでなく、横にも
私が思うに、ここのカツカレーの一番の素晴らしさは、縦だけでなく、横にも包丁が入れてあり、カツがひと口サイズになっているところです。定食のとんかつは一般的な縦切りだけです。
ひと口サイズだと、カツにカレーをよく絡めることができるのです。
カレーと別にしてあるのだから、カツだけで愉しんでくれという意味もあるのかもしれませんが、それより衣のさくさく感を食べる寸前まで残しておきたいからだと思えます。
もちろん、せっかく別にしてあるのだから、まずはカツだけで食べてみましょう。おいしいです。ソースをかけてみると、これまたおいしいです。さすが人気店です。
しかしカレーに絡めて食べてみると、「カツカレーの食べ方かくあるべし」と唸りたくなるカツとカレー混然一体のおいしさを味わえるのです。
ただでさえ剥がれやすい衣をより剥がしてしまう「とんき」の横の包丁と違い、この店のひと口サイズ、とてもいいです。衣も決して厚くないのに、ばらけたりしません。なにか工夫があるのでしょうか。
カレーに具らしい具は、見当たりません。その意味では、あくまでも主役のカツを引き立てるための脇役としてのカレーであり、とんかつ屋らしいカレーであると言えます。しかしそれを越えて、もはやソースの域に達していると言ってもいいかもしれません。
塩でとんかつを食べるのが流行る前、言い換えれば銘柄豚を売り物にするとんかつ屋がなかった頃は、自家製ソースにこだわっている店が多くありました。その延長上にあるカレーと考えると腑に落ちます。
八王子「鈴本」
あらためて考えてみると、カツカレーを出すとんかつ屋は少ないことに気づきました。とんかつブームかもしれませんが、前提となる、おいしいとんかつ屋もそんなにあるわけではないですし。
いくつか候補はあるのですが、紹介した店とはまた違ったものがいいなと思案していて、思い出したのが八王子の「鈴本」です。
何年か前にとんかつを食べに行っておいしかったのですが、蒲田ほどではないにしろ遠いので忘れかけていました。調べてみると、カツカレーがあることがわかりました。しかも気になる。
わざわざ出かけて正解でした。
午後一時頃に入店したのですが、私の次の次にカツカレーを注文したひとは、売り切れで断られていました。
カツが品切れになるはずはないので、カレーが底をついてしまったわけです。人気もあるし、大量生産していない。つまり、とんかつ屋ではあるけれど、カレーもまじめにつくっていることになります。
それを証明するように、カツにたっぷりとカレーがかけられています。それも、とろとろに煮込まれたやや黒みを帯びたカレーです。すじ肉のようなものが、ばらばらにほぐれた状態でたっぷり泳いでいます。
このカレー、私好みです。私は最近どうも旗色が悪い欧風カレーが好きなのですが、そちら系統のしっかりした味がします。バターの載った茹でたじゃがいもが一緒に出てきてもおかしくない味です。
神保町でこのカレーで勝負しても、やっていけるのではと思える出来栄えです。もしかしたら八王子で一番、私の好きなカレーかもしれません。他を食べたわけではありませんが。
薄いカツ
さて、カツです。
これが薄い。定食のものとは明らかに別です。かつ丼のときに薄いカツのほうが合うと書きましたが、それはカツカレーにもある程度当てはまると思います。
カツが厚いと、どうしても豚肉にカレーが完全には絡んでくれないからです。その解決法として、「かつ壱」は横にも包丁を入れたのですが、こちらはカツを薄くしてあるのです。
上品ながっつりメシ。
薄いカツと濃いカレーの取り合わせは、とんかつ屋のカツカレーとは思えないほどカツとカレーの立場を対等にし、食べるほどに融合させていきます。滞ることなくスプーンが進んでいってしまう、そんなカツカレーです。
ここのところ多摩の中心地の立場をすっかり立川に奪われている八王子ですが、こんなカツカレーがあるならまだまだ侮れません。
モーミンパパの一句
とんかつ屋でカツカレーを注文するには、勇気がいります。何度も通える店ならバリエーションのひとつとして愉しめますが、ふと立ち寄った街の店なら二度目の訪問はないかもしれません。
となると、どうしても看板料理のとんかつを頼みたくなっても仕方ありません。
しかし、なぜわざわざカツカレーを置いているのかを考えると、おいしい確率はとても高いのではないでしょうか。
では、だれに望まれているわけでもないですが、勝手にお約束としはている一首を詠ませていただきます。
とんかつも
カレーも好きと
媚びを売り
きみはだれかと
カツカレー喰う
食べ物ならとんかつもカレーも好きで結構ですが、あのひともあなたも好きと二股かけられてはたまりません。まあ、そういう女子は、男子の前ではカツカレーは食べないでしょうけど。
食べるなら、オムカレーですかね。あれはあれでおいしいです。
さてさて、カレーの記事やらかつ丼の記事やらもあるので、気になったらどうぞ。
↓これは管理人が書いた記事。一緒に行った店。