三文 享楽 小説・エッセイ等

無料web小説 短編31『お風呂の冒険』【三文】

2018年2月20日

都心から離れたやや郊外に最近増えている「スーパー銭湯」。嬉しいですよねえ。

日本人の心の癒しどころ、温泉。

いやあ、実に素晴らしい!

 

どうも、クレヨンしんちゃん映画シリーズで、ベスト5を決めるとしたら間違いなく『クレヨンしんちゃん 爆発!温泉わくわく大決戦』を推す三文享楽です。

いやあ、子どもの頃から温泉は大好きでしたが、今でも定期的に温泉、それが無理なら銭湯にでも行って、開放的な気分でお風呂を楽しみたくなるものです。

 

なんか最近、解放されていないなあと思うと、「タオル一枚で闊歩し自分の好きな湯に入ることをしていないな」と気づいたりします。

風呂は我々になつかしさと安心を与えてくれますわな。


お風呂の冒険

「ねえ、お風呂に頭まで浸かっていると、たまに違う世界へ行っちゃうことがあるって知ってた?」

公園で遊んでいたタカのところに、二人の友人がやってきました。

「え、そうなの? そんなことがあるの? それってスゴイことじゃん!」

タカは思わず興奮してしまいました。

そんな身近なところにファンタジーの扉が隠れている、なんて全く知りませんでした。

タカの頭では、もう色々な想像が始まっています。

「ねーねー。どうやれば、違う世界に行けるんだい?」

タカは友達のヨシキに、つめ寄りました。

ヨシキは予想していた通りに、タカが興味をもったので、思わず隣にいたヒデと顔を見合わせてしまいました。ヨシキとヒデは友達のタカに嘘をついて、イタズラしようとしていたのです。

ヨシキはニヤニヤしてタカの方に向き直りました。

「こうやってね、左手の人差し指を右手で握って、そして右手の人差し指を更に立てるんだ。で、この忍者みたいなポーズのままお風呂にもぐっていくんだ」

「へえー、それだけでいいんだ?」

「でも、たまにしか行けないんだ。何回も何回もチャレンジした僕だって、まだ三回しか行ったことがないんだよ」

タカにとって、この言葉は大変価値があります。

「三回しか」じゃない。「三回も」行けたんだ。僕にも行けるかもしれない。

「スゴいや。じゃあ、僕、今日やってみるね」

がんばればいつか行ける、ということを知って、もうワクワクが止まりません。

「がんばってね。明日さ、行けたかどうか、教えてちょうだいね」

「うーん、じゃーねー」

悪友たちは遠ざかっていくタカの背中を見守ります。

「明日が楽しみだなあ」

「な」

そして、思わず笑ってしまいました。

一方のタカは、ダマされたことなど知りません。

ウチへ帰るとすぐに、お母さんが涌かしてくれてあるお風呂場に行きました。

「慌てちゃダメだ。順番はしっかりと守らないと」

タカは、汚れた体でお風呂桶いきなり入る、なんていう悪い子のすることはしません。

洗い場で、足についた泥汚れを落とします。泥のついた足にシャワーの水を流すと、黒っぽい水が流れます。タカはその汚れが落ちる瞬間が好きでした。

さあて、汚れを落としたら、いよいよお風呂です。

「さあ、違う世界に行ってみるぞ」

タカは肩までつかると、深呼吸をしました。

学校でやる水泳は得意な方でしたが、いざ、お風呂に潜る、となると緊張します。

「よおし、一、二のハァー」

タカは頬っぺたにたくさんの空気を溜めこむと、一気に頭のてっぺんまで浴槽に沈めました。

自分の体温より高い水温のお湯に頭まで浸かると、やっぱり変な感じがします。

以前、温水プールに入った際、それを感じたのですが、温水プールより温度が高いお風呂では、なおさら、変な感じがしました。

タカは目を瞑ったまま心の中で十秒数えると、顔を出しました。

どんな世界が待っているだろうと楽しみにしながら、おデコに張りついた髪の毛を手で掻きましたが、そこに待っていたのはいつもの景色でした。

しかし、タカはそれほどガッカリしていません。

「それほど簡単に行けるわけはないんだ。何回もやって、行けるか分からない場所なんだ」

タカは再び挑戦しました。今度はもっと息を大きく吸い込み、水中にいる時間を三秒長くしてみました。

先ほどよりも高い期待を胸に、顔を出してみましたが、それでもダメでした。

その後も、手を変え品を変え、色々な方法を試してみましたが、どれもうまくいきません。

さすがのタカにもあきらめの表情が浮かんできました。

「まあ、でも、一日目でそう簡単に行けるはずはないんだ。あと一回やってみて、ダメだったら、また今度にしよう」

タカは深呼吸を二回、三回と繰り返しました。

気を落ち着けた方が不思議な力を得られるかもしれない、と思ったのです。

しかし、タカは不思議な力を得るよりも前に、ある重大なことを思い出しました。

「そうだよ、こんな大事なことを忘れて、行けるはずないよ。あのポーズがあったから、ヨシキ君は行けたんだ。最後にもう一回だけ、このポーズをとって試してみて、それでダメだったら、今日はあきらめよう」

タカは肩まで湯に浸かっていましたが、左手を湯の外に出すと、人差し指を上げて、その上に右手をかぶせました。もちろん、右手の人差し指も上げます。

「よし、いくぞ。一、二のハァー」

タカは七度目の素潜りを始めました。でも、今回はポーズもついています。

ムリのないくらいに息も吸い込み、目を閉じて神経を集中させます。

…………。

十五秒を数えると、タカは顔を出しました。

しばらく辺りを見回してみます。

「そんな一日で成功するはずないんだ。また明日挑戦しよう」

タカは湯から出て、手短に体を洗うと、すぐに湯の中へ戻りました。

そのまま風呂を出て、リビングまで向かいます。

もうお母さんの夕飯も待っていました。

お父さんが返ってくると、すぐに食べ始めます。

「いやあ、やっぱり肉は旨いなあ」

お父さんはお母さんが作った豚肉の生姜焼きを美味しそうに食べています。

タカには何となく違和感がありました。自分でもよく分かりません。

ただ、お父さんは普段あまり肉を食べなかったような気がしたのです。

「おう、タカ」

もやもやしていたタカでしたが、お父さんの声で引き戻されました。

「今度の日曜日、久々に釣りにでも行くか?」

「ホント?」

「ああ、いい鶏が釣れる有名な釣堀があるんだ」

タカは一瞬戸惑いました。

お父さんは、冗談をそれほど言うような人ではなかったので、どういう反応をすれば分からなくなったのです。

ですが、お母さんの方を見ると「あら良かったわね」なんて言って笑っています。

「今日のご飯のおかずにしろ、お父さんの発言にしろ、今日は何か変だ、それにお父さんもお母さんもしゃべり方がいつもと違うような気がする」

タカは、心の中でそうつぶやくと、早く眠ることにしました。

たくさん睡眠をとれば、頭もすっきりし疲れもとれると思ったのです。

早寝をしたのに、翌朝の目覚めはさっぱりしないものでした。

自分が自分でないような感じがしたのです。

しかし、どういう気持ちの朝だろうと、学校には行かないといけません。

タカはしぶしぶ出発しました。

しばらく行くと、後ろから声をかけられました。

「タカちゃん、昨日はどうだった? やってみたかい?」

ヨシキは目をぎょろりとさせ、口をパクパクさせながら言っています。

「うん、何回もやってみたんだ。でも、結局無理だったよ」

「へえ、何回もねえ。惜しかったね」

ヨシキは、エラをバタバタさせて、タカにすり寄りました。

「ちゃんと、ヒレとヒレをこうやって合わせて、お風呂で洗い場に飛び出ないとなんだ。そうしないと、違う世界へは行けないんだ」

タカは急に眩暈(めまい)のようなものに襲われました。

目の前が揺れ始め、自分がここにいることが不思議に思えてきたのです。

「まあ、そう簡単に行けるもんじゃないよ。何回か試してみてよ」

タカは急にヨシキのことが気味悪くなってきました。

離れた目、身体についているウロコ、白い腹、とヨシキのすべてに嫌悪感を持ち始めました。なんだか、近くにいること自体、不気味に思えてきたのです。

タカは大急ぎで泳ぎました。一刻も早くヨシキと離れたかったのです。

しかし、泳いでいる途中で、自分の動作にも気づきました。

全身を使って水をかき分けている。行っても、行っても、水。

タカは、自分自身も魚のうちの一人、いや一匹であることに気付きました。

「僕は昨日、確かに違う世界に行ったんだ。いや、現にこうして違う世界にいる。違う世界の生き物になりきっているじゃないか!」

タカは混乱したまま、通学路を離れて、進入禁止区域に入ってしまいました。

翌日の朝刊には、潮に呑み込まれて、行方不明となった一匹の稚魚の記事が出ました。

 

三文ぼやき

そういや、この前、ふと海鮮丼が食べたくなり、午前5時前の早朝、一人で海へ出発しました。

 

大洗で海鮮丼を食べて、銚子で海鮮丼を食べて、巨大な奇声を発しながら、海岸べりの道を走りました。

もちろん、車の中なので、変な奴ではありません。

 

いやあ、楽しかったなあ。

人に迷惑がかからないように、奇声をあげるのはサイコーですよね。


 

↓海から離れ、陸にいる時。我々は100円回転寿司に行くのです。

↓旅行の醍醐味は温泉だけでない、温泉に城だ!

↓せっかくなので、もういっちょ城。