はい、どうもです。「絵のない絵本」屋のモーミンパパです。
みなさんは「日本三太郎」って、ご存知ですか。
ケータイのCMに三人揃って出まくってるから、知ってるに決まってますね。
一応、書きます。
桃太郎。
金太郎。
ものぐさ太郎。
嘘つきました。
浦島太郎。
「ものぐさ太郎」もそれなりに有名ですが、あとの三太郎はだけでも知ってる昔話界の超有名人であります。
で、第一回は「桃太郎」を基にしておはなしを書いてみましたが、となると第二回の今回は「金太郎」になりますな。
「金太郎」を知っていますか
はい、ここで問題です。「金太郎」がどんな話か述べよ。
……
実はぼくはちゃんと答えられませんでした。周囲の何人かに訊いてみたら、だれもちゃんと答えられるひとはいませんでした。超有名な話のはずなのに。
金太郎がどんな風貌をしてるかは、だれでも答えられますよね。CMを思い浮かべるまでもないでしょう。
頭頂部に剃り込みが入ったおかっぱ頭で、丸に金の字が描かれた赤い前垂れを掛けている。あと、大きなまさかりを担いでいる。ちなみに、まさかりとは斧のことです。
風貌以外だと、熊を連れていることもご存知かもしれない。相撲を取って、負かしたこともご存知かな。「金太郎」の歌の歌詞にありますから。
ぼくも、ここまでは知ってました。
足柄山、つまりいまの箱根近辺に住んでいたことも知ってました。後日譚として、大きくなって源頼光の四天王がひとり、坂田金時になったことも知ってました。わりと物知りなのです。つまらないことは、よく知ってます。
それでも、あとは知らない。だから、調べました。
ざっと書くと、子供のくせに力持ちで、熊を相撲で負かした他に、持っているまさかりで大木を切り倒し、谷に橋を架けた。以上。
やけにあっさりしてます。
鬼婆の子だとか、雷神の子だとかって出生譚がついてる場合もあるけど、桃太郎が大きな桃から生まれたような「お決まり」にはなっていない。大江山の鬼退治をしたけど、それは大人の坂田金時になってから。
金太郎は超有名な話なのに、中身がスカスカだったのです。
そこで、「金太郎」の中身を勝手に大増量して、「桃太郎」並みのストーリーがあるように拵えてみました。
おもしろい金太郎
1
(山のなかの沼。まさかりがぶくぶくと沈んでいく。頭を抱えるじいさん)
むかし、あるやまにおじいさんとおばあさんがすんでいました。
おじいさんはやまにしばかりに、おばあさんはかわにせんたくにいきました。
しばかえりのかえり、おじいさんはりゅうじんさまがすむというぬまに、まさかりをおとしてしまいました。
「ああ、どうしよう。わしはおよげないんじゃ」
2
(両手に金と銀の輝くまさかりを持った女神が、水上に浮かぶ。水面はその足元から同心円のさざ波を立てている。じいさんは欲の皮を突っ張らかせて、金のまさかりを指さす)
おじいさんがこまっていると、ぬまからうつくしいおんなのひとにすがたをかえた、りゅうじんさまがあらわれました。
「あなたがおとしたのは、このきんのまさかりですか? それともこのぎんのまさかりですか?」
おじいさんはつい、よくをだしてしまいました。
「きんのまさかりです」
3
(じいさんの指して出した両手の上には、金のまさかりと赤地に金と染め抜かれた腹掛けをつけた赤ちゃんが載っている。びっくりして腰を抜かしかけるじいさん)
「このよくばりじじい」
りゅうじんさまはおじいさんをしかりつけたあと、きんのまさかりをさしだしました。
「まあ、いいでしょう。これをおまえにあげましょう。そのかわり、もれなくおまけがついてきます」
きんのまさかりのうえには、おとこのこのあかちゃんがのっていました。
4
(土手の上からばあさそんを呼ぶじいさん。川に足を入れて、手を伸ばしているばあさん。川からは大きな桃が流れてきている)
おじいさんはきんのまさかりとあかちゃんをかかえて、ひいひいいいながらかえりました。
とちゅう、かわでおばあさんをみかけました。
「おーい、ばあさんや」
「いま、とりこみちゅうです」
「せんたくはあとでいい。たいへんなんじゃ」
「こっちもたいへんなんです」
「いいから、はやく」
5
(金のまさかりを見て目を輝かせるばあさん。同時に赤ちゃんを見て顔をしかめるばあさん。ふたつの顔が描かれている)
おばあさんはしぶしぶやってきて、もんくをいいました。
「かわからおおきなももがながれてきたのに、じいさんがよぶからひろいそこねてしまったわい」
「ともかく、これをみろ」
「まあ、ぴかぴかのきんのまさかり」
「も、そうだが、あかちゃんだ。りゅうじんさまにおしつけられた」
「あらまあ、めんどうくさい」
6
(家で相談するじいさんとばあさん。庭では金太郎が、相撲で小動物たちを投げ飛ばしまくっている)
きんたろうとなづけられたあかちゃんは、すくすくそだち、ちからもちのがきだいしょうになりました。
そのころ、とおくのやまでおにがあばれているとのうわさがながれてきました。
おじいさんとおばあさんはそうだんしました。
「きんたろうなら、おににかてるかもしれん。おにのつのはたかくうれるらしい」
「きんのまさかりはてばなさないくせに、おおぐらいでおかねがかかる。おにたいじでもさせますか」
「かえってこなくても、やっかいばらいになるしな」
7
(旅立つ金太郎に手を振りながら、他関゛イの顔を見てにやついているじいさんとばあさん。道のあちこちでは小動物たちが、ガキ大将がいなくなってくれてほっと胸を撫で下ろしている)
おにたいじのはなしをきいたきんたろうは、めをかがやかせました。
「このへんのどうぶつはよわいやつばかりで、たいくつしてたんだ。いってくる」
きんのまさかりをかついで、きんたろうはおにたいじにでかけました。
8
(みっつのシーン。いずれも金太郎は金のまさかりをぶんぶん振り回している)
きんたろうはみちがくさぼうぼうになると、きんのまさかりできりはらいました。
はしのないがけにでると、きんのまさかりでたいぼくをきりたおしてはしをかけました。
みちがやまくずれでふさがれていると、きんのまさかりでいわをくだきました。
9
(月の輪熊に対して、金のまさかりをふりかざす金太郎。熊は手を当てて頭を庇っている)
「おい、うまそうなこぞうだな。たべてやる」
つきのわぐまがあらわれました。
きんたろうはきんのまさかりをふりかざしました。
「うまそうな、くまだな。たべてやる」
「はものをつかうとはひきょうだぞ。すもうでしょうぶだ」
「いいだろう」
10
(月の輪熊は投げ飛ばされて、地面に大の字。金太郎は両手を腰に当てて、勝ち誇る)
きんたろうとつきのわぐまは、がっぷりよつにくみあいました。
「ちびのくせに、やるな」
「そっちも、でかいだけある。だけど、おいらはかいりきなんだ」
きんたろうはうでにちからをこめると、つきのわぐまをうわてなげでなげとばしました。
「かったぞ。ばんごはんは、くまなべだ」
「かんべんしてくれ。なんでもする」
「じゃ、こぶんになって、おにたいじについてこい」
11
(白熊を投げ飛ばす金太郎。土俵の外では、月の輪熊がはらはらして見守っている)
つきのわぐまをつれてさきへいくと、しろくまがあらわれました。
「うまそうなこぞうだな」
「うまそうなしろくまだな」
きんたろうはしろくまとすもうをとってかち、こぶんにしました。
12
(パンダを投げ飛ばす金太郎。土俵の外では、月の輪熊と白熊がはらはらして見守っている)
つきのわぐまとしろくまをつれてさらにさきへいくと、パンダがあらわれました。
「まずそうなこぞうだな。おれはささしかたべないからな」
「おいらもパンダはたべない。ぜつめつきぐしゅだからな。でも、すもうでもとるか」
きんたろうはパンダとすもうをとってかち、こぶんにしました。
13
(山の頂近く、鬼の城がそびえる手前で、鬼たちに囲まれる金太郎たち。熊たちはびびっているが、金太郎は待ってましたと金のまさかりを構えている)
つきのわぐまとしろくまとパンダをつれてさらにさらにさきにいくと、やまからおにたちがおりてきてみちをふさぎました。
「ちびすけ、おまえはだれだ」
「きんたろう」
「しらないな。ももたろうならきいたことがあるが。とにかく、おにのすみかにきたいじょう、ただではかえさないぞ」
「ただではかえらないよ。もらえるものはもらっていく」
14
(金のまさかりが鬼の角をぶった切る。しぼんでいく鬼。熊たちはそれを見て勇気をもらい、他の鬼たちはそれを見て慌てる)
きんたろうたちとおにたちのたたかいがはじまりました。
しばらくは、ごかくのたたかいがつづきました。
きんたろうはきんのまさかりで、めのまえにいるおにのつのをぶったぎりました。
「うわー、つのをとられた。ちからがなくなる」
おにはしゅるしゅるとしぼんでしまいました。
15
(角を失って、しぼんでいく鬼たち。地面に手をついて降参する。金のまさかりをぐるんぐるん振り回して勝ち誇る金太郎)
きんたろうはきんのまさかりをぶんまわして、つきつぎとおにのつのをおとしていきました。
それをみていたくまたちも、おにのつのをかみきりはじめました。
おにはぜんいん、つのをとられてしまいました。
「もう、わるいことはしません。ゆるしてください」
「つのはもらっていくぞ」
16
(家で鬼金丹をつくりながら、笑いがとまらないじいさんとばあさん。庭の向こうには、武将に連れられて行く金太郎の背中)
おたいじのうわさをきいたさむらいに、きんたろうはけらいとしてめしかかえられることになりました。
きんたろうのもちかえったおにのつのをすりつぶして、おじいさんとおばあさんはかんぽうやく「おにきんたん」にして、おおもうけしましたとさ。
まとめ
いかがでしたか。
拵えたとかいいながら、最初は「金の斧、銀の斧」をまんま借用しているし、あとはかなり「桃太郎」に寄せているじゃないかと言われれば否定はしません。
前回、いろいろ難癖をつけた「桃太郎」ですが、長い年月の風雪に耐え抜いて「三太郎」の頂点を極めただけあって、話としてはよく出来ているのです。
一方の「金太郎」は、なぜ「三太郎」の一角を占められたのか、考えれば考えるほどわからなくなってしまいました。「昔話三がっかり」のひとつのようです。あとのふたつは、まだ発見していませんが。
それはまたにするとして、日本人はなんで「三」でまとめるのが好きなんでしょうかね。
それもまたの機会に考えたいと思います。