どうも、半バカのモーミンパパです。
平成日本の国民食といえば、ラーメンとカレーが不動の両横綱、往年の大鵬・柏戸であります。柏鵬時代ならぬラーレー時代が長くつづいております。
わたしの息子も学生時代はラーメンばかり食べていたようですし、このブログの食関連記事はラーメンが多いです。私はラーメンはさほど食べませんがそれはタンメンを愛しているからであり、カレーについてはまだ書いていないだけで一家言も二家言も三家言もあります。
日本三大国民食
江戸時代から相撲の番付になぞらえて外食店の番付をつくっていた日本人ですが、実は両横綱より「日本三大」のほうが好きなようです。たとえば「日本三大がっかり名所」といえば、札幌時計台と高知はりまや橋と沖縄守礼門です。
ただし、守礼門ではなく長崎オランダ坂との説もあります。だったら「四大」にすればいいのに、「三大」にこだわる気持ちが強いのでしょう。ちなみに守礼門以外は訪れていますが、私がいちばんがっかりしたのははりまや橋です。なにしろ橋なんかなくて、ただの看板のある道でしたから。
というわけで両横綱でなく「三大」で考えると、ラーメンとカレーにつづくのはハンバーグでしょう。オランダ坂のような異説というか、別の国民食は浮かびません。
そんな不動の第三位、ハンバーグが今回のテーマです。
ハンバーグを語るときに気を付けるべきこと
ハンバーグを語るときに注意しなくてはならないのが、縦軸です。つまり、有体にいってしまえばお値段です。
例外として銀座資生堂の一万円カレーとかありますが、基本的にラーメンとカレーでは注意すべきは横軸、つまりバリエーションです。どこまでをラーメンとして語るか。醤油、塩、味噌はいいとして、つけめん、つけそば、濃厚とんこつ、激辛、激ニボ、なんでもあり。これを整理しなくてはいけません。
カレーも然り。インドと欧風は別物だし、そば屋のカレーにおうちのカレー、スープカレーとドライカレー、最近は南インドのビリヤニもあります。すべてを同じ俎上に載せるのは無理があるので、カレー属インド目ビリヤニ門について考えるといった整理の上で語られるべきものではないでしょうか。
一方、ハンバーグはハンバーグです。和風とかありますが、基本はかかっているソースの違いです。そのかわりに、使っている肉によってお値段に大きな差ができ、味にも反映されてしまっています。
私のハンバーグ歴でいえば、一位は文句なく御茶ノ水にある山の上ホテルのステーキハウスで食べた、ステーキ用の端肉を使った一日限定何食(3とか5だった気が)のハンバーグです。何十年も前に食べたので詳しいことは忘れましたが、とにかくおいしかった。当たり前です。サービス品なので値段はそんなではなかったと思いますが、おいしくて当然なのであります。
こんな掟破りのスペシャルを、どこ産とも知れぬ合い挽き肉とくらべても意味はありません。
…そこで私は、ハンバーグをメニューの柱に据えて庶民の胃袋のために商売をしている「キッチン」のハンバーグに限定して語りたいと思います。
本来はキッチンの定義もはっきりしておくべきですがそれは面倒くさいので、店名に「キッチン」と入っている店だけを紹介します。これなら文句は出ないでしょう。
おすすめのキッチンハンバーグ3店
四谷三丁目「キッチンたか」
まずは四谷三丁目の「キッチンたか」です。
四谷三丁目というか、夜の街、飲み屋の立ち並ぶ荒木町のはずれにあります。まわりに昼間営業している店はあまりありません。そのせいもあって、ちいさな店内はサラリーマンやOLで席が埋まっています。
こちらはデミグラスソースのかかったハンバーグ、目玉焼き、キャベツの千切り、ポテトサラダの構成。シンプルにして、過不足なしであります。カフェめしとやらでよく見かける外連味は一切ございません。質朴です。
味噌汁もいいのです。薄すぎず、主張せず。口直し&水分補給に徹しています。
箸で食べるのでゴハンは茶碗に入っていたほうがうれしいのですが、平皿なのがキッチンの証であります。定食屋ではなく、キッチンに入ったのだと再認識させてくれます。
箸を入れれば、肉汁がじゅわり。豚肉味。やわらかい旨みがデミと合う。ごはんがすすむ。卓上のドレッシングは酸味が強いです。キャベツの半分はこれで口直しにして、半分は肉汁に漬け込んで食べるのがいいと見ました。
ポテトサラダは、これまた薄味。ミスター脇役です。バイプレーヤーです。大杉漣です。違うな、田口トモロヲです。いや、光石研ですね。でもこれがついてくると嬉しい。少しだけ得した気分になれますよね。
目玉焼きにはソースを。醤油でもいいですが、キッチンにはソースが合います。
かっちりとまとまった一皿。お腹もよい感じにふくらむ。ぶっきらぼうにも見える寡黙な店主夫婦の人間性がストレートに出ています。洋食屋なら皿にもひとにも少し愛想が欲しくなりますが、カウンター6席の野心はないが慢心もないキッチンなのだからこれでいいのです。これがいいのです。
中目黒「キッチンパンチ」
つづいて中目黒の「キッチンパンチ」です。
最近はカフェやらイタリアンやら目黒川沿いやら高架下やらとおしゃれイメージぷんぷんの街になってしまいましたが、もともとはごちゃっとした下町っぽい街でした。その名残をいまに濃すぎるほどに色濃く残すのが、こちらの店であります。
昭和の佇まい
なにしろ、看板の「パンチ」の書体が「平凡パンチ」まんまであります。と書いても、まいとなっては「平凡パンチ」を知るひとも少ないかもしれません。「週刊プレイボーイ」のライバル誌だった雑誌です。と書いても、まだわからないかもしれません。マガジンハウス社が平凡出版と名乗っていた頃のヤング向け看板雑誌と書いて、あとは想像してもらうことにします。
入口のちいさなドアの横には、食品サンプルも飾ってあります。その上にある大きな窓には、レースのカーテンがかかっています。小坂明子の「あなた」の世界です。店内に暖炉はありませんが。とにかく絵に画いたようで、歌にしたくなるような昭和の佇まいです。
つい欲張って、ハンバーグ定食に鳥のレバーフライ載せを注文してしまいました。
おかげでハンバーグが隠れてしまって登場。インスタ映えなんて言葉も知らないであろう、目ではなく胃袋を刺激する盛り付けです。
レバーはカキフライのない時期限定という代替品的扱いのせいか、カキフライに負けない存在感ある大きさになっています。あ、「パンチ」があると表現すべきでしたね。
家庭ではできない家庭の味
キャベツの千切りちょっとニンジン載せとスパゲッティがちょい添えてあります。
ごはんは飯碗。中目感、ゼロです。
ハンバークはひらたくて、周囲がいい感じに焦げている。この焦げた部分が「フライパンで焼きました」の手作り感も醸し出しています。それがやや酸味のある液状のデミグラスの湖に浸っています。
家庭ではできない家庭の味。
デミもハンバーグも高原の空気のように、おいしさに気づかせずに体内に入っていきます。酸素を入れて、二酸化炭素を出す。ハンバーグを入れて、日々の憂さを出す。
目玉焼きにやたら胡椒が効いているのが、なんとも、なんとも昭和。昔はよくこういうのがありました。ハムエッグに多かった気もします。
みそ汁はちょっとわざとらしくカツオだしの味がするのが残念であります。
ハンバーグは看板メニューと書いてあります。
たぶん、毎日食べても飽きないという意味でしょう。バイプレーヤーの松重豊が、気づいたらごはんとおかずをもりもり食べる主役を演じていたように、主張するのではなくにじみ出る味が、看板に押し上げているのだと思います。
それに対して、鶏レバーはこんなアイデアもありますよと茶目っ気を出したようで、ソースと辛子を塗ってしっかりしたレバーの味を噛みしめるものになっています。
このへんの押し引きがうまい。たくさんのメニューはバリエーション。いつも同じでは飽きてしまうけれどいつも同じがあると安心できる。そこをハンバーグがしっかりと引き受けています。長年愛されるだけあって、わかっているなあと感心しました。
本郷三丁目「キッチンまつば」
もう一軒、本郷三丁目の「キッチンまつば」であります。息子と食事をしたあと、腹ごなしの散歩の途中で見つけました。腹いっぱいなのに、なんだか気になる枯れた味わいを感じたので、行ってみました。正解でした。
土曜日は休みですが、日曜日はやっています。理由は不明です。人通りのあまりない菊坂の午後一時過ぎに、ぼく以外にもお客さんがいました。
注文はハンバーグとカニクリームコロッケ。
またハンバーグ以外もついたメニューを選んでしまいました。食いしん坊はどうしても、いろいろ食べたくなってしまうのです。またよきキッチンのメニューは、そのように構成されているのです。
インスタ女子ならエビフライとのコンビを選ぶでしょうが、キッチン男子は見た目は地味でもベシャメルソースを衣のなかに詰め込んでいるカニクリームコロッケを選ぶのです。
鉄板の流儀
こちらは鉄板に乗って出てきます。これもまたキッチンの流儀です。
鉄板だからか、別にサラダがついてくるからか、キャベツの千切りではなく、ポテトフライ、ナスフライ、ニンジンのグラッセが添えられています。
フライはいらないから、スパゲティーをつけてくれたほうが、よりキッチンらしくてうれしいところです。
ゴハンは飯碗。本郷三丁目は学生街でもあるのに、やや少なめ。と思ったら、おかわりできるのでした。それも店のひとが頃合いを見てきいてくれます。
みそ汁の具は豆腐で、口をつけたあと軽く息が漏れるおいしさ。
コロッケはソースの必要なし。ベシャメルの味だけでおいしくいただけます。
ハンバーグはしっかりし過ぎず、やわらか過ぎず、箸で難なく切り分けられて崩れない塩梅。デミグラスソースはごはんとの相性がいい。
余計なことは考えずに、知らず知らずに箸がすすんでいくのです。わっしわっし、ではなく、ぱくぱく、でもなく、はむりはむり。
やっぱり、キッチンのハンバーグにはごはんです。パンはいけません。洋食屋さんなら、別にいいですが。ついでにいえば、スープでも許せますが、できればやっぱりみそ汁です。私は強くそう思います。
老夫婦と娘らしい三人で営業。テレビつけっぱなしの店ですが、おばあちゃんは青いドレスでおしゃれしていました。そこだけ洋食屋さん。あとは典型的なキッチン。食事の途中で出てきたお茶を最後にすすれば、ちいさなしあわせ気分がじんわり広がっていくのであります。
モーミンパパの一句
以上、「キッチン」に限定してハンバーグを語ってみました。ふだん意識していませんが、キッチンとは「1DK」の「K」であって、日本語に訳すと「台所」です。
ごはんを食べるスペースは「D」の「ダイニング」で、そう名乗っている店もあります。肉としては安価なひき肉を使った料理のハンバーグには、台所が似合うのは当然かもしれません。
では、前回につづき拙歌を一首。
二時過ぎに
並ばず頼む
ハンバーグ
オヤジがぼそり
「売り切れました」
ちなみにハンバーグは、ドイツのハンブルグで食べられていた生肉料理タルタルステーキが移民とともにアメリカに渡り、ハンバーグステーキと呼ばれるようになったのは知っていましたが、この前テレビを見たいたらアメリカで暮らした経験のあるひとが「アメリカにはハンバーグはない」と話していました。ハンバーガーしかないので、いくら英語っぽくハンバーグと発音しても、通じないそうです。
だとしたら、ハンバーガならぬハンバーグにはごはんが合うのが正しいのかもしれません。
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