ふやけた肉体の三分の一がトンカツでできているモーミンパパです。
自分は三枚肉ですが、最近ロースもしんどくなって、かつては「豚肉に非ず」と嘲笑していたヒレを頼むたびに、たるんだ腹をつまみつつ「老いたり」と己を叱咤しております。
とはいえ、やるときはやります。
食うときは食います。
とくにあまり足を運ぶのない地域に出かけたときは、腹具合や懐具合などとはまったく相談せずに人気メニューや名物メニューに飛びつきます。
そして後悔二割、しかし満足八割で、背中を反り返らせてゆっくりと帰途に着きます。
まあ、それはいいとして。
ソースで食べていたトンカツを塩で食べるようになった。その次は?
以前にも書いたかもしれませんが、最近はブランド豚肉を使う店が増えたこともあり、トンカツを塩で食べさせるのがスタンダードになりつつあります。
塩で食べる利点は、肉そのもの、または脂そのものの味がよくわかることです。
ブランド豚肉もピンからキリまであります。わたしのよく行くスーパーにも、三種類か四種類のブランド豚肉が売られています。値段も結構開きがあります。ちょっと調べたら、全国で255種類が登録されているようです。とても覚え尽くせません。食べ尽くせるかもしれませんけど。いや、食べ尽くしてみたいですけど。
とにかく塩で食べることを、わたしは否定しません。ただ、ご飯のお供にはあまり合わないと思います。だからわたしはまず一切れ塩で食べ、塩が二種類以上あるときはそれぞれ一切れ食べ、その後はゴハンの量と相談しながらソースに移行していきます。
トンカツ屋さんのソースは、それぞれ店で配合などを工夫したオリジナルになっていることが多く、濃厚だけどご飯にも合う仕上がりになっています。個人的には芥子もたっぷりつけるのが好みです。以前、どこかの店の主人に教わった通り、衣の上ではなく、肉の断面に塗ります。こうしないと、いくら塗っても芥子の刺激が殺されてしまうのだそうです。
レモンは最後の一切れにだけ使います。ロース肉の端は脂身が多いですから、ここはさっぱりと締めたいのです。
というわけで、トンカツは塩とソースで食べるわけです。
一般的には。
ところが、そこへ第三の選択を突き付ける店が登場してきました。
六白黒豚を第三の選択で
芝大門の「のもと家」です。
ビルの二階にある目立たない店ですが、いまでは昼時は行列ができているようです。
わたしはオープン間もない頃に一度訪れました。そのときはまだ空いていて、調理場に立つ料理人の方とも、フロアに立つ女性のかたとも話をすることができました。
女性はオーナーの娘さんで、鹿児島の方ということでした。
なので、ここの上位メニューは鹿児島の「六白黒豚」なるブランド豚肉を使っています。255種類のなかでも、かなり有名銘柄です。というか、わたしのようなトンカツ&豚肉料理ファンにとっては垂涎のブランドといってもよろしい。
六白黒豚のなんたるかは、ここでは説明を省きます。食べればわかる。
わたしなりに特徴を書けば、以下の通り。
しっとり、さっぱり、まったり。
もう少し書くと、繊維が細やかでぱさつきがなく、脂身にくどさはなく、肉身には味わいが折り畳まれています。
だから、塩で食べても、おいしい。もちろん塩も用意されています。
ソースもあります。自家製ブレンドです。これも、おいしい。
しかしカウンターにはソース壺より大きい壺が用意されている。見れば「とんかつ醤油」の文字が。
さらに届いたトンカツの皿を見れば、キャベツの脇になにやら薄緑色のものが添えられています。「茎わさび」です。
これぞ「のもとや」独自の提案です。
塩もいい、ソースもいい、ですが「第三の選択」としてトンカツを醤油でもどうぞというのです。
鹿児島産には鹿児島産が合う
しかも、これが普通の醤油ではない。
鹿児島の醤油です。
産地が関東のひとにはおなじみの千葉県野田ではないということは、味も違います。
どう違うかといえば、こっくりとして甘みがあるのです。
これが揚げた豚肉とよく合うのです。
ラーメンスープの表現ではありませんが、肉によく絡みます。醤油の塩気が肉身を、醤油の甘味が脂身を、それぞれに引き立ててくれるのです。
しかも、茎わさび。
すり下ろしたわさびほどの鼻にツンとくる刺激はなく、芥子よりも上品に舌を引き締めてくれます。
いいです。
塩を何種類も用意している店もありますが、それよりずっと気が利いている。
すべてのトンカツに鹿児島の醤油が合うかどうかはわかりませんが、少なくとも「のもと家」のトンカツにはしっくりくる。
わたしは240gの特選厚切りロースかつ定食を注文しましたが、ぺろりんこ、でした。
まとめ
昔は天ぷらも塩などなく、天つゆに大根おろし一辺倒で食べていました。それがネタも油も質が上がって、塩で食べるようになりました。それでもわたしは、才巻海老が三本出てくるときは、まずは塩、次は塩にレモン、三本目は天つゆで食べます。そのほうがいろんな味が愉しめるからです。
トンカツに醤油。これは虚を突かれた思いです。アジフライはソースでも醤油でも食べるのに、トンカツは醤油で食べようとはしなかった。先入観とは恐ろしいものです。
おいしい店目白押しのトンカツ屋さんでベストワンは問われたら、わたしは迷いに迷った上でもう一度お気に入りの店をハシゴすることでしょう。
でも、オンリーワンというなら、浅草橋の「丸山吉平」さえ押さえて「のもと家」と答えたいと思います。