三文 享楽 小説・エッセイ等

無料web小説 短編27『一気飲みの雰囲気は危険です』【三文】

2017年10月23日

酒は好きだが、飲み会は好きではないです。

こういう方、同志と呼ばせてください。

 

飲み会は飲み会で好きでしたが、やはり一人でゆっくりと飲む酒が美味しいですよね。

どうも、定期的に一人ぼっちで飲み歩きをしないと精神に異常を来たし始める三文享楽です。

 

別に人嫌いではないです。

こう言えるくらいになれば、もういいですよね?

 

結局は一人でいることが落ち着く三文享楽でございます。

 

 

すみません。。

…ゆっくりしたいですよね。


『一気飲みの雰囲気は危険です』

ばれているかもしれない。

しかし、かまわない。

俺はこっそりと自分のグラスをもって宴会の場を立ち、台所で自分の酒を捨てた。

酒が著しく弱い俺にとっては、酒をいかに摂取せず、やり過ごすかが死活問題であった。

序盤をやりすごせば、周りのバカな大学生どもは飲ませることも忘れ、騒ぐことに専念するはずだ。そこまでくれば、あとは酔っ払った風を装っていればいい。

友達の家で飲む場合においては、最初にゆっくりしたペースで飲み、頃合いを見計らって一人で飲みたい風を醸し出して席を立ち、台所か便所へぶちまけるのである。

飲めない人間が実験を繰り返した末に発明した、苦肉の策なのだ。

もったいないと言う者がいるかもしれないが、それならば「飲むだけ飲んで吐く」というのはどうなのだ。それだって、結局は吸収していないではないか。体内へ一時的に酒という液体を滞留させて、ポンプを稼働させて吐きださせているのである。

それならば、吐くという動作なしに最初から滞留させない方がエコロジーではないか。身体としても大助かり、苦痛もない。最も平和的な方法なのだ。

それでももったいないというのならば、そう言うあんたはどうだ。たとえ飲んだとしても数時間後には体内に吸収されなかったアルコール成分をどんどん排出するという、一見正当にも思える一般的な飲み方すら、もったいないとは思わないだろうか。

まあいい。個人の自由だ。

体内を一度流したいやつは、流しこめばいい。

しかし、俺は体内を経由せずに捨てる。

合理的である。

「はい、なあに持ってんの? なあに持ってんの? どどすこすこすこ、どどすこ……」

始まった一気飲みのコール。

まったく何が楽しいのか意味が分からない。あんなに一気に飲んだら危ないじゃないかよ。ナイフを手にして「何持ってるの、ちょっと切り切り」とかコールされながら手首にジリジリ食い込ませる、というのと大差ないじゃないか。

「ごちそうさまが聞こえない、はい、一気一気」

まったく狂気じみている。

これが楽しいんだろうが、自分にはまったく耐えられない。自分が生まれるはるか前にはなるが、バブル期に大学生ではなかったことが救いである。

「ちょい残し、はい、ちょい残し」

酒じゃなくたって、こんな飲むことないだろう。

仮にウーロン茶だったら? 緑茶だったら? まず馬鹿馬鹿しくてやらない。

ビールだったらコーラは? 炭酸でムリとか言うんだろうな。

まだ牛乳一気飲みの方がヒデにとっては安全に感じられた。急性アルコール中毒で死ぬことはない。せいぜい、二、三日腹をくだすくらいだし、胃腸が洗浄されると思えば、むしろ良いことにすら思える。

「あれ、ヒデ。そんなとこで何立ってんの?」

「あれ、コップないじゃん」

しまったしまった。考え事をしていたら、犠牲者の一気飲みが終わったタイミングできてしまった。コールの途中でさりげなく席へ戻らないと、確実に標的にされる。そりゃそうだ、ひとまずの沈黙がきて立っているやつがいたら目立つだろう。

「すみません、ヒデさん、お注ぎしないで」

「いや、いいよいいよ。まあ、ちょっとで」

「またまたあ、遠慮なさらず」

寄るな、寄るな。飲み会の時以外にはたいして話もしてくれないのに、なんでこんな時に限ってわらわらと近づいてくるんだよ。

「はい、どおぞ」

「あれ、なあに持ってんの?」

待ってくれよ、卑怯だ、なぜに始まった。

「いや、ちょっと」

「なあに持ってんの? なあに持ってんの?」

俺は飲んだら、頭が痛くなるんだァァ。

「ええ、何やってんの、ちょっと」

「いやいや、持ってないよ」

「そりゃ、置いたからね」

「持ってなければ飲まなくていいんでしょ、ねえ」

へっ、笑え。頭に血が昇った瞬間からこうなる気がしていた。飲まなくていいのなら俺は何だってするんだ。机に置いてあれば、飲まなくていいんだろ。

「ウソでしょ、初めて見たわ、こんなやつ」

「空気がやべえよ、なんだこれ」

一生やってろ。なんで酒が飲めれば、モテるんだよ。

俺だって、青汁なら毎日飲んでいるんだ。

「まあまあ、じゃあ、これは親友のヨシが引き継いで」

「おい、お前、なあに持ってんの」

「マジ? 俺かあ。ズルいズルい」

「はい、一気! 一気!」

「ハハハ、ウケるぅ。良い人ぉ」

お前らの何人が、あのマズい青汁を飲めるんだ。くそぅ、お前らにあの青汁が。

「あれ、どうした、空気読めない男」

「ええ、何してんの」

俺だって、飲めるぞぉ!!

「おい、こいつ醤油飲みだしたぞ」

「止めろ止めろ、さすがに」

「いいよ、やらせとけ、面白いじゃん」

そうだ、俺は面白い。俺は酒以外の物を飲むやつになればいい。

「はい、粗相、粗相」

「おい、それはマジか」

「そっそう、そっそぉう」

食えないことはないのだ、確か体の中で何かが出て酸素欠乏になるくらい。

「タバコ食いだしたよ」

「危なくない?」

「いや、フィルター齧ってるだけじゃないか。さすがにタバコ食ったらヤバいことくらい」

一本いかなければ、死なないのだ。

なんだ。しかし、意外に旨いものだな。冗談抜きで一人占めは勿体ない気もする。

「おおいおいおい、やめろやめろ、俺は食わねえって」

「ははは」

「女の子、若干ひいてるからさ」

案外、普段食わない物でも旨いものなんじゃないか。

これなんかはどうだ。

「おお、だからやめろって。俺は皿は食わんわ」

「いや、お前じゃなくても誰も食わねえよ、そんなの」

「いていててて」

ふむふむ、これもいけるものなのか。

一般的なヨダレの代わりに、赤いヨダレを出して嬉しそうに食っているではないか。俺も食いたくなってきたな。でも、こいつの食べ物だ。俺が食ったら悪いよな。こいつも喜んでくれているだろうな。

「うへへへ」

「なに、この人。笑ってる。恐いわ」

「やべえぞ。こいつ酒癖が悪すぎる」

「いや、こいつ飲んでねえよ、まったく。台所に捨てる音も丸聞こえだったじゃねえか」

「酒まったく入ってねえぞ、こいつは」

「おい、ただの頭のおかしいやつじゃねえか」

ウェットティッシュも旨いものだ、お菓子の入っている袋も喉に通る感覚が気持ちいい、ああ、金属のスプーンも冷たくてスッとするなあ。

「きゃあ」

「誰かこいつを止めてくれ、俺は靴を食わされたぞ」

「こっちはコタツだ」

「やだ、私は床なんて食べたくない」

みんな喜んでいる。うん、意外に普段食わない物や飲まない物が旨いものだ、わはは。

次はこれを飲んでみるか。

「おい、こいつ揚げ句の果てに酒を飲みだしたぞ」

「なんでだよ、飲めねえんじゃなかったのかよ」

「ウイスキー、焼酎を割りもせずにガボガボ飲みだしたぞ」

うめえ、うめえよ。

世の中にこんなうめえものがあったのか。なんだ、これは。全てを忘れられるような感覚。ああ、おいしーーい。

 

 

――。

一週間後、都内のマンションの一室で大学生の男女数人が死体となって発見された。

いずれも、体内からは明らかに体内に摂りいれるべきものではない異物が見つかっており、警察では何者かが彼らに異物食いの強要をしたのではないかという事件として、現場近くに不審者がいなかったかという聞き込み調査を行っている。

なお、全員が一般的な摂取量を超えるアルコールを体内に取り入れており、一気飲みコールの末に酒池肉林の乱痴気騒ぎが発展し、今回の事件にまで発展したのではないかという事故も視野に入れて、捜査を進めるという。

なかでもとりわけアルコールを多量摂取していた二十一歳の男性が、アルコール量に比例して多種にわたる異物を体内に入れていたという。

もし今回の事件が一気飲みの多発により引き起こされた事故だった場合は、彼が一気飲みを先導してこの事態を引き起こした可能性が十分にあるいう判断をした。

 

三文ぼやき

冒頭で言い忘れてしまった大事なことなので、この場を借りて主張させていただきます。

一気飲みはよくないです。タバコも食ったら死ぬレベルにヤバいことです。やったらアウトです。

 

人に見せるためでない自身の快感のための一気飲みもやらない方がいいと思います。

やっていた私が言うのだから、できれば信じていただきたいところです。お酒を飲み過ぎるのは良くありません。


 

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