映画レビュー 自主制作映画

自主映画監督が思う『カメラを止めるな』の5つの凄いところ&レビュー

2019年7月24日

こんにちは。茶わん蒸しにあこがれ過ぎて茶碗になったことがない人とはのことです。もみじばです。

私はサラリーマンの傍ら、世に”アイディアとストーリーと感動”を届けたいという高貴なる欲望のために自主映画を撮ったり、音楽制作をしたりして過ごしています。

そんな私が『カメラを止めるな』のレビューを書きたいと思います。

 

実際に自主制作映画やら短編ムービーやらを10本以上撮った私が、超大ヒット自主制作映画『カメラを止めるな』(通称『カメ止め』)について語るのだから、その辺のレビューより面白いこと間違いなし!

▼私が今まで撮ってきた自主映画たち

てなわけで、ご覧ください。

 

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自主映画監督による『カメラを止めるな』の感想&レビュー

本題に戻りましょう。

まず、実際に見るまでの自主映画監督としての私の気持ちを書きます。「そんなんいらん!」という鬼畜人は飛ばしてください。

ちなみに私は事前情報ほぼゼロで臨みました。予告は見ていたので、ゾンビ映画要素があることはわかっていました。

全37分の長回しワンカット(カットをつなぎ合わせるのではなく、一回の撮影でカメラを長く回し続けて撮る)が売りなこともわかってました。

ただ、何かどんでん返しがあると父親が言っていたので、実は予告も最後までは見ませんでした。なので、この予告では「ゾンビ映画を撮ったやつらの話」という大ネタバレがされてますが、私はそれを知らずに映画館に行きました。

 

気乗りはしなかった

見る前、私の中でそんなに期待値は高くありませんでした。

また、私は自分でできる範囲内…いや、むしろ自分で本来できる範囲を超えたレベルでアイディアを凝らし、時間を使って自主映画を実際に撮ってきました。それも、『カメラを止めるな』を遥かに超える(下回る)低予算で…。

▲『カメラを止めるな』を勧められたころに公開した私の自主映画

 

なので、ほかの人が自主映画ですごいアイディアでヒットした、面白い、とか言われても

「自分にできる以上のことをやっている自分が今更そこから学ぶものなどないし、仮に『リアル自宅警備員』を撮り終わった今、仮に何か学んだとしてももう遅い」

…と、あまり気乗りしていませんでした。

そして、低予算な自主映画界隈では、よくゾンビ映画がつくられます。なのであまり新鮮に感じられなかったのです。

 

自主映画でゾンビは“あるある”

ゾンビ映画以外には、ほかにもスプラッターというか、なんかグロい映画も多いイメージです。最近は自主映画祭やコンペでバイオレンスなものが受賞しがちだとも思います。不良ものとかね。

そういう映画は、若さもあってか監督も相当イキってたりするんですが、情熱とセンスは相当あるには違いないと思うので、イキってるのが逆にファンには箔が付いてるように見えてるものと思います。

まあでも、バイオレンスに見えて実は本質的には「人間はすぐぶっ壊れるだろギャハハ、つまんねえ細かいこと気にしてんなよ、悩むなよ!」的なギャグが感じられたり、そもそもマジでギャグだったりする場合も多いイメージです。

で、ゾンビ映画なんかは実はゾンビ映画の皮をかぶったセクシー映画だったりする場合もあるとかないとか。

まあ、とにかく、バイオレンスとかゾンビとかって自主映画ではありふれてて、そこにフックはないんですよね。むしろ、「よくあるやつか」と思われる危険性が高い気がします。

とかなんとか色々言ってますが、私はバイオレンス自主映画は予告や制作秘話とかでしか見てないので話半分に聞いといてください。すんません。

 

 

以上、長い前振りでした。

ただ、感想やレビューは、「どういった人間がどういう知識と状態で見たか」によって意味合いや本質的かどうかが変わってくるので、無駄な情報ではなかったはずです。

 

 

『カメラを止めるな』のすごいところ7選

ここからは本編を見て、自主映画監督でもある私が「すごい!」と思ったところと共に、感想・レビューを書いていきます。ネタバレもあります。

まず結論から言うと、

 

面白かった!!

 

そして、

 

見てよかった!!

 

と思います。

 

 

長回し自体も素晴らしいですが、実はそれは伏線に過ぎなかった…というそのメタ的構造があったからこそのヒットだったと思います。これは当たり前ですかね。

 

1. SNSじゃないからこそバズった”大胆かつ緻密な仕掛け”がすごい!

昨今、SNSの登場によって短くてわかりやすい動画がバズって拡散されやすく、有利な状態ですが、そんな中、映画というのは「一度映画館に入ったら、その人は最後まで映画を見る」という信頼のもとにつくられている部分があります。

あまりにも前半がつまらないと途中で帰ってしまう人もいるでしょうが、それはレアケースです。SNSやネット上の動画は逆に、多少面白い程度では最後までは再生されません。

「カメ止め」は最後まで見てもらえる映画だからこそヒットして、バズったと思います。

▲全編見たらこれくらい盛り上がります

前半の長回しもすごいですが、その後のメタ的展開、そして最後の最後、エンディングロールでの更なるメタ構造も含めて、映画ファンが広めたくなる緻密で綿密に練られた構成がすばらしいです。

まず、長回しというのはSNSでバズるにはその名の通り”長い”ので向いていないと思います。30分とかの長回しな時点でネット向きではないのです。

ただ、しっかり全編通してみた人たちのまともな感想・口コミ、そして「すごい長回しらしい」というとっつきやすい一発ネタによって、結果的にバズったわけですね。

中身と表面的なフックの両方があってこそ成せたバズです。

 

 

2. メタにメタを重ねた超メタ構造がすごい!

▲メタ構造「”いらすとやの素材を使う人”のいらすとや素材」

事前情報なしにこの映画を見ていると、長回し部分の最初は「本当にゾンビがいる世界を描いた話」(=ふつうのゾンビ映画)にも見えます。

それが、見ていくと実は「「ゾンビ映画」を撮っている人たちを描いた映画」だということがわかります。

この時点でメタ1です。

…が、見続けていくと今度は「ゾンビ映画を撮ってたら本当にゾンビが出てきた映画」になっていくのですね。

これでメタ2ですね。1.5かな。まあ2にしときましょう。

で、全37分の長回しであるゾンビムービー部分を見終わると、今度は「「「ゾンビ映画」を撮ってたら本当にゾンビが出てきた映画」を撮っている人たち」を描いた映画」だったことがわかるのです。

はい、これでメタ3です。

メタ2まででもそれなりに評価は得られてそうな映画ですが、この3つ目のメタがあったからこそ、「カメ止め」はここまで評価を得たというのは間違いない事実です。

しかも作中でもちゃんと「長回し(1カット)で撮るゾンビ映画」という設定ですからね。抜け目なし。

分岐するメタ

ちなみに、メタはこれだけでは終わりません。「「「ゾンビ映画」を撮ってたら本当にゾンビが出てきた映画」」を見ている人たち」も登場するのですね。

メタ3その2ですね。

▲「「「ゾンビ映画」を撮ってたら本当にゾンビが出てきた映画」」を見ている人たち」のシーン

 

更にこれとは別に、最後の最後のエンディングロールで、

「「「ゾンビ映画」を撮ってたら本当にゾンビが出てきた映画」を撮っている人たちを描いた映画(=『カメラを止めるな』)」を撮るカメラマンを撮ったカット」

が出てくるのですよ。これ、熱いです。

メタ4その2です。

そのカットは少ししか見れませんが、これは超ウルトラスーパーメタです。そのカメラマンを撮る人が更にいたら…と思うと、合わせ鏡のような壮大さを覚えてきます。

カメラマンが途中休憩するカットなんかもあって、「ここでこの休憩か、これうまいな笑」とか思って楽しいエンドロールでした。カメラマンがマジで転んでるっぽいシーンもありました。

(更に言うなら「「「ゾンビ映画」を撮ってたら本当にゾンビが出てきた映画」」を見ている人たち」を撮るカメラマンも当然いるわけで、そのシーンのカメラマンカットがあれば、それはメタ5へと突入するわけですね。そのカットがあったかは覚えてないですが、そこは長回し部分ではないのでなかったような気がします。)

 

何がなんだかわからなくなるくらいメタだけど、そこは脚本がしっかりしてるから見ていて混乱は起きない。それもまたすごいよね。

という感じです。

 

 

3. 微妙だなと思うシーンはすべて伏線なのがすごい!

事前情報なしで見てると、長回し部分にはところどころ「え、この映画ちょっと微妙なのでは…」と不安になるシーンがいくつかあります。

ですが、それらはすべてうまい伏線でしかないということが映画後半で続々と明かされていくのですよ。その伏線回収しまくり体験は痛快なもので、映画館に笑いが起きるような場面もあります。

  • だれてるように見える会話シーン
  • 意味深なだけで意味がないっぽいカット
  • 突如変わるカメラワーク(これは微妙とは思わないけど、違和感覚えるひともいると思います)
  • 特に説明のない予想外な展開
  • ちょっとしつこ過ぎる繰り返し

これらはそれぞれ、「実は撮影中のトラブルでこうなってました」という伏線回収が成されます。

メタ的な構造の脚本・流れの中で、恐怖のシーンがギャグとして回収されていくわけです。落差の作り方がうまいです。

それぞれが具体的にどこかは言いませんが、見た人はある程度わかるのではないかと思います。

監督がクオリティを自在にコントロールできる力量の持ち主だということが、これでわかりますね。レベル・スキルが高い人じゃないとクオリティの高低はコントロールできないので。

 

 

4. なんだかんだ長回しも普通にすごい!

これね。長回しだけで終わらないからすごい、みたいなこと言ってますけど、それは「長回しがすごい」こと前提の話ですよね。

長回し部分がしょぼかったら、その後に色んな展開があっても驚きも完成度も半減以下…というか、作品として成り立たないわけですよ。

  • そもそも37分を長回しするのがすごい
  • 失敗できないアクションシーンを失敗しないのがすごい
  • カットや演出に退屈しないどころか、凝ってるのがすごい
  • 完成度が高くてすごい

もうなんかしょぼいことしか言えてませんが、完成度高いです。

もちろんこの長回しだけで終わったら「ちょっとテクニックがすごい自主映画」ってだけで終わるんでしょうが、

この長回しがすごくないと作品全体の価値がぐぐーっと下がる(作中で生放送する長回しゾンビ映画をいろいろあったけどなんとか面白い内容で放送して大成功!という設定なのでそこの説得力もなくなる)、という外せない部分をきっちり仕上げてるのはすごいですよね。

 

 

5. 映画監督を含む世のクリエイターに響く“あるある”がすごい

最後です。

長回し部分がすごい! の次は、長回しじゃない部分もすごい! という話に移って終わります。

長回し以外の部分は特に、

・予算に苦労したであろう自主制作映画だからこそ

・そしてお金も人も少ない中で情熱かけてつくられたであろう自主制作映画だからこそ

ふつうの商業映画よりも強く感じられるよさがあると思います。

 

映画ファンが見る、映画を撮る話

どういうことかというと、この『カメラを止めるな』は結局、映画を撮る人たちを描いた自主制作映画なわけです。で、そんな自主映画に興味を持つのはコアな映画ファンであったり、自らも映画を撮るような人たちが最初は多かったはずだと思うわけです。

そんな人たちに刺さる「クリエイターの葛藤あるある」と、それを覆す「クリエイターが皆持っている、最初の頃の情熱」をうまく描いているわけです。

カスミのジムに行くからピカチュウ連れていく的な感じですよね。(ですよね。ね!)もう効果はバツグンなの最初からわかってるわけです。そこも戦略かわかりませんが、とにかくうまいですよね。

まあ、下手な感じに仕上げるとボロクソ言われるタイプでもあるので、どちらかというとワタル戦にカイリュー連れてくような感じですかね。(どうでもいいたとえですね。)

ちなみに…最初の方でメタ構造がうんぬんとか語りましたが、映画を撮る自主制作映画というところからしてメタ的ですよね。エンディングロールでのカメラマンカットのメタを更に包み込むメタ5です。

 

長回し以外の部分の面白さ

長回しが終わった後に続く長回し以外の部分は、その長回し部分を撮ることになった経緯と、撮っている最中の話になっています。

改めて、長回し以外の部分の、簡単なあらすじをまとめます。

ビジネスに魂を売って適当な映像作品をつくっている父親。映像制作に情熱燃やす娘はそんな父親を許せない。

が、その情熱が強すぎて撮影現場では空回りして仕事をめちゃくちゃにしてしまう。

そんな折、その父親の元にふりかかる無茶ぶり企画。

それは

「37分ワンカットのゾンビ映画を生放送で流す」

というものだった。

 

無茶くちゃ過ぎる内容な上に、集められたスタッフは様々なタイプの“あるある”な問題児ばかり。

そして、生放送当日も次から次へトラブルの嵐。

それをなんとか乗り越え、そろそろエンディングを迎える…というとき、トラブルが起き、クライアントがストーリーの要となる部分をなしにしようとする。

しかしそのとき娘が…

 

まあ、雑過ぎて批判を受けそうなあらすじですが、こんな感じです。

結末はわかると思いますが、見ているクリエイターたちは

「ああ、おれも若いころは情熱燃やしてクリエイティブ魂をはじけさせてったのによ。今となっちゃあクライアントの犬さ。犬なんてもんじゃねえ、ナマコだ」

と感情移入し、最後の娘を通した快進撃で

「ああ、そうだ、これだ! これだよ! この熱い気持ちだ! おれもこの気持ちを取り戻さねば! クリエイティブ魂で世間を溶かしてやるぜ!!!」

と更なる感情移入をしちゃうわけですよね。

 

よくある話かも知れませんが、これを「手垢のついた話」なんて斜に構えず、ちゃんと真正面から熱く受け止めさせてくれるのが『カメラを止めるな』のすごいところなんですよ。

なぜだかわかりますね。

 

 

現に、この『カメラを止めるな』が苦しいであろう制作状況の中で、
こんなにも素晴らしい作品を映画館で観客たちに届けているから

 

なのです!!!

もうこれ自体が熱いですよね。

 

私のように、クリエイター的なものにぼんやりなりたいと思い、ずっと何かしら作り続け、活動しながらも本業はサラリーマンやっている夢追い人みたいなものからすると、感動もするし、自分が諦めたものへの悲しさ、無力感、情けなさ、そして湧いてくる情熱と希望…最後に少しの嫉妬(もちろん『カメ止め』への)で、感情が突き動かされまくるんですね。

 

しばし私の話(興味ない方は飛ばしてね!)

かくいう私は、サラリーマン生活のつまらなさやプライベートでの悲劇を原動力に、23歳の頃急に映画を撮り始めました。

その処女作は結果、2年半もの製作期間を経て完成したわけですが、それで大成功してデビュー! なんてことは全くないわけです。

↑処女作『抜本-BAPPON-』 少子化で滅亡間近な日本を、本で戦うヒーローが救う壮大なアクション映画

『抜本-BAPPON-』は、ラストなんかは特に今見てもけっこう引き込まれるものがあるのですが、いかんせん粗があり(特に序盤)、受賞したり話題になったりすることはできませんでした。(全編見た人には好評だったのですが、そうそうネット上の馬の骨の映画を全編見る人はいませんからね。ましてや長編。)

 

何かしらで成功したい私は、その後も小作品をいろいろつくりますが特に何も起きません。で、ついにいいアイディアが浮かび、これまた2年かけて下手したら引退作品だなという覚悟で『リアル自宅警備員』というSF映画を撮りました。

完成したのは2019年1月です。この記事を書いてる半年ほど前ですね。

これは、自分の中でも自信があり、なんならネタ的にバズるのでは? まともに見れば完成度も高いし社会問題とエンタメのバランスも素晴らしいし何かしら受賞するのでは?

なーんて思っていたのですが、今のところ特にそういうことは起きていません…。

ただ、『抜本-BAPPON-』の時と違うのは、明らかに高評価が多いことです。見た人からの感想もよいものばかりで、そこは嬉しい限りです。

 

…ですが、この映画によって私の人生が大きく変わるようなことは特に起きていません。

明日も変わらず私はサラリーマンとして仕事をし、帰宅後に夢のために映画をつくったりブログを書いたりするのです。あ、ちなみに音楽も私がつくっています。

 

話戻ります

…と、そんな状態の私がこの自主制作映画で大成功している『カメラを止めるな』を見たら心動くに決まっているわけのはお分かりですよね。

で、『カメラを止めるな』を初期の頃に見た人の中には私のようなクリエイターかぶれやクリエイターが相当数を占めていたのではないかなと思うわけです。

クリエイターではなくてコアな映画ファンだったとしても、そういう人たちも恐らく大抵はクリエイティブなものやチャレンジングなものを評価する人が多いはずです。掘り出し物見つけたいような人も多いでしょうし。

 

そんな人たちをしっかり感動させるのが、長回し以外の部分なわけですね。

で、なんで長回し以外の部分に感動するかというと、上でも言いましたが、長回し部分がすごいからなんですね。

 

 

まとめ

というわけで、大胆な構成、緻密な伏線によって長回し部分と長回し以外の部分が相互作用で作品の面白さを高めているということがわかりました。

そして、その面白さの本質部分はクリエイター魂的なものなわけでした。

まっすぐ王道なテーマをここまで面白い構成にして、そしてすごい完成度に仕上げた作品、それが『カメラを止めるな』ですね。

以上が、自主映画監督である私は、映像制作をモチーフにしてクリエイティブ魂をテーマに高度な構造かつ泥臭さも感じさせる完璧すぎる『カメラを止めるな』を見て思った「すごいところ」&感想&レビューでした。

ちなみに、その後、スピンオフ作品も出てるようです。こちらも評価高いようで、上田監督の快進撃が続くのはこれまたすごいことです。

 

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さて、ただいま深夜1時。

これから夢の達成、そしてリアル自宅警備員』再生1万回突破&サントラ発売という直近目標のために音楽制作を始めたいと思います。いつか私も『カメ止め』を!

では。