無料小説 長編1『歴史の海 鴻巣店編』3【三文】 - フリーBGM&自主映画ブログ|"もみじば"のMOMIZizm

三文 享楽 小説・エッセイ等

無料小説 長編1『歴史の海 鴻巣店編』3【三文】

2016年3月29日

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昨日も飲みすぎました、三文です。

やはり、酒と文学。そういう時には、歴史関係ですよね。いやあ、歴史の海に行きたいじゃないですか。

 

前回までの内容⇒『歴史の海 鴻巣店編』1『歴史の海 鴻巣店編』2

この長編小説は全15回の連載予定でございます。


 

『歴史の海 鴻巣店編』3

3の続き

全体的に色白顔だが、でこが隆起している分、眼光が妙に鋭く、さらに顎骨も頬骨も隆起し眉が太かった。現代人とは大きく違う顔のつくりがたかだか百五十年前の顔面とは想像し難かった。

「ここは何処ぜよ」

男は確かにそう一言呟き、左右に首を振っている。

自分の頭の中にいる人間が話し出したことに感動した。

全体的に色白顔だが、でこが隆起している分、眼光が妙に鋭く、さらに顎骨も頬骨も隆起し眉が太かった。現代人とは大きく違う顔のつくりがたかだか百五十年前の顔面とは想像し難かった。

竜哉は右手に握っていた手帳に気付いた。

そうだ。これを使えばいいのだ。

決定ボタンの下にある戻るボタンを一押しし、右についている四つの三角形を使って全ユニット表示を開いた。

『   A

・大将▶ 竜哉

・    近藤長次郎……』

早速自分の名前脇へ見知らぬ名が表示されていることに気付き、この手帳の精巧さに感動した。同時にこの男に話しかける前に一応ユニット説明を使った。

『近藤長次郎  幕末、土佐脱藩。饅頭屋の息子として生まれ、後に脱藩し坂本龍馬の亀山社中(後の海援隊)に入り帳簿係を務める。陸奥宗光らと対立し、切腹。

・ 体力 38、 実戦能力 25、 頭脳 92』

正直、竜哉の全く知らない人物であった。

本来、歴史が大嫌いで今までに見た歴史ドラマが『新選組!』だけである。だが、一通り目を通したはずの教科書でも資料集でも一度も見たことはなかった。

竜哉はとりあえず安心した。この手帳はユニットの必要最低限の情報を教えてくれる。

ふと気が付くと男はこちらをじっと見ている。でこが隆起し、ほりが深いため生物か何かで学んだ類人猿というものが連想された。昔の顔は大体こんなものなのだろうか?

「おはん、誰じゃ?」

長次郎が聞いてきた。

「ぼ、僕は竜哉です。このチームの大将の……」

「チーム?」

「はい」

「そいは藩の名か? そいとも隊の名か?」

どちらでも無いような気がしたが、とりあえず藩の名ではない気がした。

「まぁ、隊の名というか……隊の単位です。4つのチームが戦って……それでちょうじ…近藤さんは僕の仲間です」

「……どうしてわしの名を?」

「それは、この手……」

どうやら仲間のユニットはこのゲームの参加目的、趣旨を知らないらしい。ならば自分のリーダーシップ、チームへの関心を示さなければならない。

「僕が大将だからです。仲間のことに詳しいのは当たり前でしょ?」

「なるほど」

長次郎は数秒間、スーツ姿の竜哉全体を眺めると再び辺りをきょろきょろし始めた。

竜哉が思い出したかのように右を振り向くとやはりもぞもぞと男が動いている。

あとの二人は何処にいる?

後ろを振り向くと自分が今座っているデスクと椅子のブロックが同じように数列あり、こちらに背を向けたもぞもぞが一つと、その向かいに今にも起き上がりそうなもぞもぞが一つあった。

急にただならぬ殺気を感じた竜哉は慌てて体を左に半回転させた。

爆発頭の男がこちらを向いていた。男は何も言わずに眠そうな目でじっとこちらを見ている。

「このチームの大将の竜哉です」

「……はら……」

男は表情も変えずにぼそっと何かを言った。顔の向きも変わっていない。

竜哉は早速手帳を見た。

近藤長次郎の下に一つ名前が増えていた。

『前原一誠  幕末、長州藩士。松下村塾で学び、松陰には秀才と評される。幕末期には藩の重職を歴任し、維新後も参議などで活躍。後に萩の乱を起こし斬首される。

・ 体力 65、 実戦能力 60、 頭脳 71』

斬首という言葉が妙に生々しく不気味に聞こえた。これから何時間と斬り合いが始まってもおかしくないのだから言葉一つ一つでびくびくしていてはならない。まして自分は大将なのだ。

「ちょいと、貴公。こちらが何処か御存知ですか?」

「わかいもはん」

竜哉は慌ててまた右に半回転し、残り二人が既に起き上がっていることに気付いた。向こう側の男が竜哉に気付くと背を向けていた手前の男も振り返った。

早く手帳を見なければならない。さもなければ自分が大将であることの示しが付かないし説明の仕様が無い。

『山岡鉄舟  幕末、幕臣。家茂上洛の際は後の新撰組の母体となる浪士組を率いて京都に上る。維新後の江戸城総攻撃計画を西郷隆盛に掛け合い、江戸城無血開城を果たした一人としても知られる生涯不殺の剣豪。

・ 北辰一刀流、無刀流、真影流の使い手。

・ 体力 88、 実戦能力 97、 頭脳 75            』

『富山弥兵衛  幕末、薩摩脱藩。江戸、京都での志士活動を経て、薩摩藩出身ながら新撰組に入る。伊東甲子太郎と共に高大寺党を結成。油小路の変の後、官軍として越後に行くが、水戸諸生党にとらわれて殺害される。

・ 示現流の使い手。

・ 体力 80、 実戦能力 88、 頭脳 51           』

二人とも実戦能力が異常に高い。思わず竜哉はにやついた。この二人を使えば余裕で勝てるのではないか?

「皆さん、聞いてください。ここにいる五人は全員が仲間です」

勝利の可能性を見て興奮した竜哉は椅子から急に立ち上がり、ぐるりを見回しながら言った。

「この部屋の外には敵がたくさんいます。僕たちはそいつらを倒さないと逆にやられてしまいます」

「やられる? 殺されるのか?」

殺されないためには敵を倒す。そうしなければ自分らが死ぬ。

どっかで聞きそうな戦の格言が竜哉の頭を流れる。

「そうです。でも戦いを最小限に済ませる方法もあります。先に敵の大将を倒せばいいんです。そうすれば敵は全員しょうめ……、撤退していきます」

「俺らのその大将ってのがあんたってことか」

一誠が言う。おそらくまともな声を聞いたのは初めてである。

「そういうことです。一応、僕が指揮を採らせてもらいます」

「なして、おはんがか? おいは以前の記憶が欠落してもすが、おはんに仕えていた記憶は全くありもはんど」

「こ、この世界では三日間僕が大将を務めます。既に全員のことは調べてあります。あなたの名前は……」

しまった。最後の二人は一人ずつ名前と顔を確かめたわけではないからどっちがどっちだか分からない。この男にしっくりくる名は山岡鉄舟と富山弥兵衛のどちらか。

いやいや、名前の雰囲気だけで顔を判断するなんて無理だろ。

丸顔ではないが頬の肉が特にパンパンで、全体的に顔の肉が厚く薄赤い。話をしているときに気付いたが歯が無い。歯が無いから語尾が変なのか? いや、違う。なまりだ。では薩摩の富山か? しかし薩摩弁がそもそも分からない。しかも幕臣の山岡も元々は遠国出身の可能性だってある。

「おいの名は?」

全員が注目している。背後からは長次郎の熱烈な視線を感じる。いちかばちか、右か左か、大将か下僕かの二択である。

「貴方の名は富山弥兵衛。薩摩出身ですよね?」

「……」

空気が冷えていく感じが分かる。はずれか?

「いやぁ、こいつはおみそれしもした。おはんが大将チごわす」

助かった……。大将と信じてもらえた。

だが、安心したのも束の間である。先刻から竜哉の行動を注意深く見ているものがいた。

でも、おはんさっき何か見てたがじゃいか? あれは何ぜよ?」

長次郎にずっと見られていた。やはり眼光の鋭さには鋭い洞察力が隠されているらしい。

手帳のことがばれてはまずい。全ての情報が頭の中に入っている風を装わなければならないのだ。

「そのっ、あれはですね……」

背中を向けて話すのはさすがに失礼なので長次郎のほうに向き直ったが、正面から眼光鋭き顔を見て思わず横にいた一誠のほうを見てしまった。

「何でもいい。俺らのことが書かれた物をあんただけが持っているならばあんたが大将ということだ」

「確かにそうだ。我々はこの御方に仕える宿命にありそうだ」

思わぬところで一誠と鉄舟の助け舟が出た。この前原一誠という男も洞察力が……というより人情に厚いのかもしれない。晩年に乱を起こしたというのも訳ありなのではないか。

「では、とりあえず、自己紹介といかんか? これでは名を呼び合えんし大将の名も分からん」

 

続く

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