さて、一人の歴史マニアとして個人的に気に入っている歴史シュミレーション長編小説のお時間です。
へえ、三文でございます。
前回までの内容⇒『歴史の海 鴻巣店編』1
※全15回の連載予定です。
歴史上の登場人物たちが現実では起こりえなかった出会いをするって、やっぱり妄想するだけでたまらないですよね。
『歴史の海 鴻巣店編』【2】
2の続き
『日本史コース 四人プレイ
・場所 現代ビル 小 現役使用
・日数 三日間
・ゲーム種類 ランダム
・仲間人数 ランダム
・手帳所持 ランダム
・仲間設定 :1プレ オールランダム 全時代ランダム
・ :2プレ オールランダム 全時代ランダム
・名前設定 :1プレ (仮名)
・ :2プレ (仮名)
・ハンデ なし』
「ちょっと待って下さい。この仮名って何ですか?」
――お客様がプレイなされる座席に適当に名前が振り分けられるのですが。
「やだよ、そんなの。翔太も翔太の方がいいだろ」
「俺は、全部ランダムでいいよ」
「マジかよ。俺だけ名前変えてもいいっすか?」
――構いませんよ。仲間設定と名前設定はオンライン上での検索に全く関係ありません。ハンデ設定はオンライン上では設定することができませんけど。
「じゃあ、1プレを竜哉にして……」
「おぃ、竜ちゃんが1プレかよ」
「別に全部ランダムなら構わないだろ?」
「う、まぁ、そうだけど」
「1プレが竜哉として。んで、この仲間設定の全時代ランダムとオールランダムって何ですか?」
――仲間人数とゲーム種類をランダム選択していらっしゃいますのでオールランダムの方の変更は出来ません。全時代ランダムは仲間人数がランダム設定のため、個別選択が出来ませんが全員選択で時代を変更できます。
「た、例えば?」
――戦国時代がお好きな方なら、戦国時代ランダム。古代がお好きであれば、大和ランダム、古墳ランダム、それに古墳時代ランダム。
「幕末ランダムってありますか?」
――江戸時代から明治初期にかけての幕末ランダムでよろしいでしょうか?
「たぶん……あの新選組の頃のやつ」
――かしこまりました。では1プレの竜哉様は幕末ランダムで登録します。
「竜ちゃん、いつから幕末好きになったんだよ?」
翔太が驚いた、むしろ怒ったような顔で尋ねる。
「別に。俺は根っからの幕末ファンだし」
「ふぅん」
――では、準備が整い次第開始いたします。お先にご清算の方を願いいたします。お一人様三千九百八十円になります。
「前払いなんですか?」
――はい。昔は後払いだったのですが、揉め事が多数ありまして。
「先に払っといたほうが気も楽だし」
「映画二回分観るの我慢したと思うと大分、安いな」
――では、エレベーター二の方にお進み下さい。
階数が表示されない椅子付きエレベーターに長い間乗り、不規則に早くなったり遅くなったりして下がり、階数を全く想像出来なくなった頃竜哉と翔太は降ろされた。
エレベーターを降りると係員に連れられて、さらにコンクリートの廊下を進み、右に行き、左に行き、右に行きを繰り返し、個室に案内された。
部屋の中に行くと更に別の係員が待っていた。
「お待ちしておりました。小柴竜哉さんと山川翔太さんですね?」
「はい」
個室内は暗く、中央に黄色の裸電球一つあるのみであった。係員の背後にある二つの黒い物体はおそらくこれから座る椅子の背もたれであろう。
「お客様たちは運がいいですよ。予約待ちがすぐに見つかりました。すぐにゲームを開始出来ます」
「やっぱ待つこともあるんですか?」
「はい。設定を詳細にして、参加プレイ人数を多くすれば待つことになります。尤もあの椅子に座ってしまえば、睡眠モードに入れて右脳時間高速モードを入れといて目が覚めたときには既にゲームの中でしょうが」
「なるほど」
竜哉は改めて右脳刺激の科学の発達を思い知った。
「こちらがランダム事項の再確認用紙です」
『ゲーム種類 大将倒し(貴方が大将。歴史上の英雄たちに護衛をしてもらいつつ、敵の大将を倒しましょう)
・仲間人数 四人
・手帳所持 あり
※ ゲーム内での痛みはあくまでゲーム内のものです。現実世界への影響はありません。ゲーム内で卒倒したり致命的な傷を負ったりした場合、そのユニットは消滅します。大将死亡の場合はゲーム世界から現実世界に戻り、モニターで生き残りたちの試合を最後まで観ることが出来きます』
「あー、どきどきしてきたなあ」
「よし。ゲーム内じゃ敵だ。恨みっこ無しで最初から斬り合っていこう」
「えー、普通、同盟とか結んで、先に他の二人を倒すとかするんじゃないの?」
「いや、それじゃ不公平だよ。初めから恨みっこ無しの戦いにしよう」
係員に誘導され、先程の黒い背もたれの椅子に移動する。
「左椅子が一プレの竜哉様で間違いありませんね?」
「はい」
「では、レッツショータイム」
係員が部屋から出て行き鍵の掛かる音がすると、豆電球が消えた。
翔太はどんな光を浴びせられるかなどと予想していたが、頭の髄に響く音派を感じ始めたとき両者の意識は途絶えていた。
3
目を開けたとき、今日の最初は英単語だといっときでも受験地獄の日曜の朝を思い浮かべてしまった竜哉は自分を恨んだ。せっかくの三日間(?)は受験勉強のことは忘れろと自分に言いきかせる。
しかし竜哉は自分がゲームの中にいると気付いた後も周りの状況を理解するのに時間が掛かった。自分は向かい合わせに並ぶデスクの一つに座っている。既にゲームの世界の中にいるのだ。
上から照らされる蛍光灯の他に熱を持った強い光を横の窓から感じたため今が昼であることは分かった。
これが脳が勝手に思い込んでいる世界だとは到底思えなかった。
現実世界にいるときと何一つ変わらないではないか。自分の肉体はあの椅子上にあるのだ。
そういえば翔太は何処にいるのだろう。
周りを見回した竜哉の視界に続けざまに二つの人影が入った。一つは向かいの机向かって左二番目に自分と同じように机に突っ伏して寝ているもので、もう一つもすぐ右の机で同じように寝ていた。
聞き覚えのあるバイブ音がする。
携帯もゲームの中に持ち込めるのか? なら余裕ではないか。
竜哉がいつものように右ポケットから取り出すと携帯電話ではなく、何年か前に絶滅したような電子手帳……そう、古い白黒ゲームボーイほどの電子手帳が出てきた。
そうか。これが手帳所持の手帳ってやつか。
画面上には既に大量の文字が映し出されている。先程のバイブレーションはこれを読めと教えてくれたものらしい。
『このたびは当アトラクションをご利用いただき大変ありがとうございます。
この手帳はゲーム攻略のキーにも成り得ますし、効率的にお使いいただければゲームをよりお楽しみいただけます。この度「大将倒し」ということでプレーヤーの貴方が大将です。この手帳は大将のみが所持しております。便宜上大将の貴方が他の味方ユニットより三分早く目覚めました。この説明を読み終える頃には味方ユニットが目覚め、ゲームが開始されさます。』
画面の下についている「決定」ボタンを押すと画面はメニュー画面となった。
『 ● ゲーム説明
・ 全ユニット表示
・ 地図表示
・ ゲームの終了(途中退出) 』
おい、ゲームの途中退出なんてあるのかよ。冗談じゃない。四千円近くも払っているのに退けるやつがあるかよ。
竜哉は不安を紛らわせるために最後の一行に毒づくと、ゲーム説明で決定を押す。
『「大将倒し」では大将をその仲間ユニットが護衛し、その大将が気絶、途中退出、死亡した場合にそのチームは敗北しゲーム上から姿を消します。敵の大将を自分より先に消せば勝ちになります。死亡及び気絶したユニットはその場から消滅しゲームには復帰出来ません。各ユニットは最大限史実に基づきそのユニットの性格、能力で動きます。服装、武器はそのユニット占有のものとなりますが大変分かりにくい古語・方言などの言葉や外国語は現代日本語訳されて話す場合があります。各ユニットは能力、性格は保持しつつもその生きた世界のことを忘れ、新情報を求めています。そこからは貴方の手腕しだいです。
この手帳はプレーヤー、各ユニットの視神経反応をキャッチして情報を書き換えていきます。プレーヤーが目で見た、あるいは耳にした他のユニットの情報が全ユニット表示に記録されることとなります。そのユニットの史実概略、能力は全ユニット表示で確認出来ます。ただし、ユニットが消滅すれば、手帳のユニットの名前に×印が付きます。
大将は原則、武器は所持しておらず、服装はそのフィールドにふさわしいものとなっております。仲間ユニットと協力し、生き残りましょう。』
竜哉は読んでいる最中に自分が今まで着たことも無い無地の黒スーツを着ているのに気づいた。たしかに現代ビルにふさわしい服装である。
そろそろ三分経過するはずだな。
『 一日目/三日 ―〇〇¨〇〇¨〇三』
手帳の画面の最も下の部分、欄外のようなところに時計が出ていた。
三、二、一、開始だ。
お、早速動き出したぞ。
手帳から目を離した竜哉の左視界に物体がもぞもぞ動き出したのが映った。続けざまに右方面からも物音がする。
左手前の男は夢から戻ってこられないようであったが唐突に顔を上げた。
(続く)