みなさーん!
LINE使ってますか?
LINEスタンプ使ってますか?
じーって見ているスタンプ使っていますか?
どうも、LINEの友達は企業ばかり、三文享楽です。
LINEでじーっとみている系のスタンプって人気じゃないですか。あれってどうしてですか。
みなさん、見られたいっていう役者志望的なあこがれがあるんですか?
それとも、じーっと見たい覗き魔的な欲求があるのですか?
『デバガメ』
「はぁあ、まったく、どうしようもねえよな……」
中年親父が肩に手を添えて肩甲骨を回しながらぼやいている。
先程まで部下を怒鳴り散らしていたとは思えない表情で、眉間を擦り目頭を押さえている。ジャケットを脱いだ背中は小さく、そこだけ見ればとても数百人の人間を使えるような器の人間には見えなかった。
という状況。
デイ氏は一連の動向を覗き見ていた。
一度焦点を定めた眼球は目蓋の開閉によって妨げられることはない。
もちろん、顔に止まった虫を払うこともない。ハエだろうと、ハチだろうと関係はない。覗き見の姿勢は不自然であったが、普段から鍛えているため、耐えることは容易だ。
一般的に覗きというと、若い女の美しい裸を垣間見る、といった下俗で卑劣なイメージがある。
しかし、これでは覗きの醍醐味をほぼ味わえてないと言える。
人前に出る顔が仮面を脱ぎ捨てた時に、どう変貌するか。そこを盗み見ることに、覗きの芳醇な味わいがあるのだ。
だから、高飛車な女が夜な夜な自慰行為に励み弱々しい声をあげるのを見たり、普段は気の弱い少女が罵声を喚きながらジャンクフードを食い散らかすのを見たりと、稀少価値高き行動を覗き見ることできたのならば、やはり意味があると言える。
こうした意味のある醍醐味ならば、これは老若男女問わない。
おとなしい老婆の浮気も、居丈高な老人の夜泣きも、十分な醍醐味のある覗きなのだ。
デイ氏は他人の私生活を覗き見ることに全てを賭けていた。
職業はマスコミ関係でもなんでもない。地方に点在する工場関係を管轄する事務職、ホワイトカラーであった。
勤務態度も至って平均的で、仕事もまずまずの量をこなすし、先輩をぬきんでる程の実力もないから疎まれることもない。
サラリーマンの平均を絵に描いたような人物であった。
ただ結婚はしていない。
まだ三十二歳だから周囲から結婚を完全に諦めた人間として見られることはないが、結婚適齢期が遠退きだしていることは確かであった。
女子社員からデートに誘われることはあっても、こちらから誘うことはない。
それもそうである。
デートが終わり、別れた直後にストーキングを開始して覗くのだ。友人に話されるデイ氏とのデート報告や舌の根も乾かぬうちに行われる別の男との恋の駆け引きを聞いて、素直にその女を愛せるはずもない。
自分には見せない相手の全てを知って得することなど何もなかった。
デート後に何度か覗きをしてみては、十中八九デイ氏の方が幻滅し、見切りをつけるのである。
興味が続くのならば、更にストーキングを続行して人間の本質というものを心行くまで覗きたいものだった。しかし、自分のことをデート相手に選んでくれたことに対するせめてもの謝意で、覗き相手から解消してやっていた。
しかし、今回。
デイ氏が覗きを止められなかったのである。
社内にいる女子社員とのデートは、それで6人目だった。
知り合ったのは合コンである。社内だから幾度か挨拶を交わしたことがあるが、プライベートの情報を交換したことがない。合コンまでは顔見知り程度の相手だった。
そんな相手と、デイ氏が合コン後に二人だけでデートをしたのである。
二人だけで会うことになったきっかけも、たいしたことではない。
合コンで彼女とデイ氏が会話をした際に、買い物を行う生活圏が同じだったことから「今度買い物に行こうよ」という話をして、その会話の記憶をうっすら持っていた彼女の方から何気ないメールを送っただけであった。
彼女とデイ氏はデートをした。
当然、デート後にはデイ氏のストーキングと覗きが行われる。
ごく自然に彼女の住むアパートのベランダに忍び込み、カーテンの隙間を見つけた。
デート後に、彼女は誰とも連絡をとらなかった。
ひたすら宙をみつめ、デイ氏と一緒に買った買い物袋を触るなどしたくらいである。
今までならば、三日程度で覗きを止めていた。しかし、止められなかったのだ。
何日か覗いた結果分かったことだが、彼女には友達がいなかった。
実際、合コンに呼ばれたのも数あわせだったらしく、いたって内気な性格である。
ケータイを見ることはあっても、ほとんど操作することがなかった。
ケータイをしばらく眺めた後に、デイ氏とのデート時に買った服を、鏡の前であわせてみるのである。しかし、その服が着られることはなかった。
何日か覗いて、デイ氏は初めて自分の存在に気付いた。
しかし、デイ氏は何もしなかった。
彼女が宙を見たりケータイを眺めたりしている時に、メールをするでも電話をするでもなく、ただ眺めていたのである。感情を動かすことなくただ眺めることが、デイ氏にとっての罪滅ぼしであった。
彼女が宙をみつめている時、デイ氏は何度か自慰行為をした。
覗きの途中にこうした行為をすることは、今までになかった。
しかし、止められなかったのである。
定期的に覗いていた他の対象者から遠のき、彼女だけを覗くようになった。
初めてのデートから二カ月後、突如として彼女は死んだ。
交差点で飲酒運転の車にひかれたのである。
まったくの突発的事故であった。
その日、デイ氏は日常業務となっていた覗きを行わなかった。
翌日、その翌日も、家にいた。彼女のお通夜や葬式を、覗き見ることすらなかった。
そう、ストーカーにもかかわらず、告別式で彼女の交遊関係すら見ずに、家で寝ていたのである。
起きては、寝る。
そんな怠惰な生活リズムを、幾日か繰り返した。
有給休暇にも手を出した。
時が経過して、デイ氏は覗きを再開した。仕事にもしっかり行くようになった。
覗きの頻度は彼女と会う前の量に戻った。
そして。
一人の女だけをストーキングして覗き見る、ということもそれ以来なくなった。
ちょっと気になった相手ができたら、気の赴くままに覗き見る。
それを繰り返すだけとなった。
デイ氏は四十歳になった。
まだ結婚はしていない。
見ている限り、今後結婚をすぐに行うことはないであろう。
デイ氏の覗きサイクルを狂わせる女性が出現することはもうないかもしれない。
ああ。
これからもデイ氏は、婉曲で淫靡な響きをもつ、覗きという行為を続けていくのであろうか。教えて欲しい、ああ、デイ氏。
これはデイ氏という人間について、私が記したノンフィクションの記録である。
私が誰かって?
ふふ、そう慌てるな。
今から自己紹介をする。
最初は覗き魔を逮捕する部署に配属された、しがない巡査であった。
しかし、覗きの巨人ともいえるデイ氏の存在を知った。
私は彼のことを追い続けた。
そのうち、彼の異常なまでの覗きに対する執念深さに、畏敬の念すら抱くようになっていた。
彼は本物である。
私は覗きという行為に対する考えを根底から覆された。
今後、私が警察に勤め続けるうえで、彼を超す覗き魔は出ないであろう。
彼ほどの覗き魔が出現することはないであろう。
もし、私のことを覗いている者がいるならば。
もし、私のことを覗いている者が、この記録を見たならば。
私が存在していたことを信じ、私の記したこの記録を遠慮なく小説として活字化し、発表して欲しいのである。
私という存在を認めて欲しいのである。
覗きという行為が存在する以上、この世に認知される限り、私は覗きという行為を尊重していきたい。
↓覗き魔?この世の晴らせぬ怨みがあるなら、仕事するまで。覗きがどうかは知らねえな。
↓覗き?それは目を見れば分かるよ。