三文 享楽 小説・エッセイ等

無料小説 長編2『笑い島』3【三文】

2016年4月6日

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4月になって人事異動が新しくなって。で、苦労して分からない人が、異動しててんやわんやの他社に電話連絡して、よく分からない人がよく分からない人に教えて、持ち帰った人が上司に怒られて。はあ、繰り返される人の摩擦。

どうも、三文享楽です。

早く笑いの島に行きたいですよ。こんな世界にいたくない。ぴゅほー

 

これまでの『笑い島』→『笑い島』1『笑い島』2

この小説は連載です。気が向いたころに来ていただければ幸いです。

 


 

『笑い島』3

1の続き

えんぴつ魔人と名乗った男の顔が止まった。

「君流れてきた人間だろ? 変わった名前しているんだね」

何だ、何だ何だ何だ何だ? 沖縄旅行に発つ前、大学で保健室主催による健康診断や血液検査があった。それが頭も真っ白なまま反射的に冗談らしい名前の言葉として出てしまったのだ。が、僕が名前をいうと、左右の二人だけでなく周囲にいた数名のものまで振り返って声まであげた。みな一様に僕の名前に驚いた顔をしているのである。僕の時にはツッコムのかい。それはそうか。突如、やってきた怪我人に対して冗談を言うことは非常識で健康な人間側であればできるかもしれないが瀕死の方の怪我人が冗談としてでも言った方がこの場合は不適当かもしれない。そうなってくると非常に恥ずかしくなりしゃがみこみたい気持ちにもなってくる。

その拍子に本当によろけてしまったのだが、それはそれで無視するでもなく大丈夫かいと声をかけて気遣ってくれる。怪我人としてしっかりと気遣った看護をしてくれているのである。両隣の二人を含めて、この島の人間を信じていいのか分からない。

「年齢は?」

ああ、ああ。もう聞かないでくれ、また考えなくてはだ。これはまじめに聞いているのか、どう答えればいい。普通に、ふざけて、普通に、ふざけ、ええい

「十万二十一歳」

自分で言って恥ずかしい。世紀末かよ。これでいいのか? 逆に助けられておいてあからさまな嘘をついている僕のほうがおかしい気もしてくる。だが、真面目な答えだとしても場違いなような。ええい。生きていただけありがたく恥じのかき捨てだ。

両隣の介助人が何にも言わずに僕を見ている。

「全く一緒だ」

えんぴつ魔人が言う。

「この島の人口はぴったり九十九人なんだ。あれ百二人だっけな? ちょうど人間の寿命かってくらいにも思えるじゃん? まあつまり人口比率的にも年齢がさ、そんなかぶってなくて、どの歳でも多くて二人か、三人か、あるいは五十人だよ。で、今のところ十万二十一歳は俺だけだったんだけど、いやあ、良かった。初めて仲間ができてさあ。こいつは二つ若くて十九歳だし」

「いやそこ十万つけないんかい。つか、他にも変なとこいくつかあったよ。まずさ」

左隣の青年だか少年だかが僕越しに右隣の男へ丁寧に一つずつツッコンでいる。きっと僕の感じた違和感を全部口にしてくれているんだろうと思いつつ、僕は頭痛に耐えた。島にあがってからのまともでない会話に、頭痛を感知する余裕もなかったが、やはり体は不調である。もう随分歩けたのもこのよく分からない不可解な会話によって考える余力を失っていたからか。

両隣の声が止んだ。もしかしたら何か質問されたのかもしれないが、ちょっと話すことは限界であった。声を出すと吐くよりも倒れ込んでしまうそうであった。質問されて答えないのは悪い気もしたが、二人とも何も言わなくなった。

更に歩いていくと木々にも囲まれた集落のようなところに出た。

どこを見ても石を積み重ねて木で補強したようなまさに南国風の家である。見える限りでは全て一階建てでみなそれほど大きくなもない。十軒以上あった気もしたが、正確なその数まではカウントできない。陽射しもピークを少し過ぎただけでまだ勢いが衰えていることでもない。全身から沸いてくる潮の臭いと僕が今まで過ごしてきた環境との見た目の違いにまた眩暈がしたが、左右から注入されている力でどうにか立っていることはできた。

九十九人の、いや九十九人か百二人くらいの視線を感じる。

この後の僕の行き先を窺っているのだろうか。

家々の中央で立ち止まり再び僕を中心に人間の円ができたが誰かが仕事に戻ろうというと、口々にそうだなどと同意して散っていった。

「じゃあ、尻丸(しりまる)さん。後はよろしく頼むよ。春雨(はるさめ)さんも」

し、しり? 尻丸に春雨? ええっ?

円を担っていた群衆は口々に別れの言葉をここへ置いて立ち去っていくと、左隣の青年だか少年だかの父親と言っていた中年男に加えて更に真新しい顔が二つ残った。真新しいのは二つとも女の顔である。

「どう平気? ……鎖骨の具合」

「いや別に鎖骨気にしてなかったじゃん」

新しい女からの安否を気遣う問いに思わず頭を縦に振ってしまったのだが、そこにはまた変な台詞がくっついた。それに対して父親と言っていた中年がツッコミを入れる。この女は妻だろうか? で、もう一人の若い女が娘で僕を置いてくれる家の家族、なのか?

僕を含めて六人になったこの一行は一件の家へ向かってまた少しずつ進んだ。

右隣にいる二番目にやってきた男と左にいる青年だか少年だかは途中何度も大木や何もない茂みの方へ僕を誘導していった。その都度に背後からは違う違う違うという声がして方向転換しつつこの先にあるらしき家へ向かって進んでいった。

ドアみたいのはあったのだがほぼ全開になっていたのだがそこに人間の住む家があった。

嗚呼。

うわあ

家だ。

海を漂流し人間として生きていられるかも分からない絶望を味わった者にとって、人が住むための家はただそれだけで安心の基であった。

玄関のようなところで一応片方だけになった靴が両肩を支えられた状態で脱がされて、板の間に上がった。畳は一切ない。が。それでもフローリングの洋風とはまた違っていて純和風という表現が頭に浮かぶ。いや、和風ではなく近代化されていない昔ながらの家といったほうが近いかもしれない、見える限りでワンルームだ。つまり部屋も廊下もない。照明があるでもなく大きくとられた窓、というか空間からは午後の光が刺し、見えるのは木の椅子や机といったものである。前近代の田舎の家というものなのであろう。

若い方の女が先に行って椅子をひくと、僕は右隣にいる二番目にやってきた男と左にいる青年だか少年だかに腕を引っ掛けたまま連れられて座らせられた。

尻丸といわれた中年の男は何をするでもなくこちらを見ていて、妻らしい女はいなくなってしまった。

「確か来年の分のはずの布団ができていたはずだ、取ってくるよ」

「この小ささの島だからね、年に二つしか生産しないのよ。そんなにいくつも必要なわけでもないしね。それに、羊の毛にも限りがあるから」

出ていくえんぴつ魔人を目で追っていると、若い女が教えてくれた。

先程出迎えてくれた人々がこの島の全人口だとすれば嘘にも思えない。

「はい、どうぞお」

聞き覚えのある声に振り向くと、尻丸の妻らしき女が近付いてきた。

「どうぞ、毒薬よ」

 

続く

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