しょうががないとしょうがない。と、しょうがない駄洒落から始めさせてもらうモーミンパパです。
駄洒落のつづきではないですが、私は常々こう思っているのです。
しょうが焼きにしょうがは必要不可欠だが、果たしてタマネギは必要なのだろうか、と。
以前、ニラレバ炒めにはなぜもやしが入っているのかと疑問を呈し、もやしの入っていないニラレバ炒めを出す店を紹介しました。
あれと似ているようでちょっと違うのは、私はもやしは大好きで実は入っていても一向に構わなかったのですが、タマネギはさほど好きというわけでもなく、しょうが焼きに関しては入っていてもいいけれど入っていないとよりうれしいのです。
しょうが焼き(生姜焼き)とタマネギ問題
とても大雑把にいうと、食堂系のしょうが焼きはタマネギ入りのものがほとんどで、洋食屋系のしょうが焼きにはタマネギが入っていないものも見かけます。
・食堂系のしょうが焼き:タマネギ入りのものがほとんど
・洋食屋系のしょうが焼き:タマネギが入っていないものも見かる
この微妙な書き方からもわかる通り、タマネギ入りが有力です。もやし入りニラレバ炒めほどではありませんが、タマネギなしが少数派であることは間違いありません。
そもそも、しょうが焼きとはすり下ろしたしょうがが入ったタレで豚肉を焼いた料理です。例外的に豚肉でなく牛肉を焼いたものもありますが、しょうが焼きと聞いてそっちを想像するひとは、よっぽどの金持ちか、よっぽどのへそ曲がりか、よっぽどの世間知らずか、宗教上の理由のあるひとでしょう。
牛肉のことは置いといて、豚肉をタマネギと一緒に炒めなくてはならないものではありません。それこそ、もやしでもいいし、キャベツでもいいし、ミックス野菜でもいいし、もちろん、豚肉だけを炒めてもいいのです。
なのに、一緒に炒めるなら決まってタマネギなのはなぜでしょう。だれが決めたのでしょうか。私は不思議なのです。
私のしょうが焼き
家でしょうが焼きを料理するとき、私は基本、豚肉だけを炒めます。
ただ、もやしが大好きなので、ときどき豚肉を炒めたあとでフライパンに残ったしょうがダレを残してもやしを炒め、皿に敷くことはあります。おいしいです。正直、ガジガジ程度に炒めた乱切りタマネギよりも、もやしのほうがしょうがダレに合っていると思います。
しょうが焼きといっても、タレにはすりおろしたタマネギも入っているはずです。そこにさらにタマネギを投入したら、タマネギ焼きになってしまうではないですか。
タマネギが入っているのは嵩増しが主な理由だとしたら、もやしだって安いのに。
でも、店ではこの取り合わせ、とんと見かけません。
まあ、それはいいです。食べたくなったら、自分でつくればいいのですから。もやし入りもいいけど、やっぱり豚肉だけを炒めたしょうが焼きがうれしい。野菜はキャベツの千切りを添えればいいのではないか。
机をドンと叩いたり、ちゃぶ台をひっくり返したりはしませんが、声は大にして私は皆さんにそう問いかけたいのです。
そんな熱い思いとともに、三軒四皿のタマネギと一緒に炒めてはいない豚肉だけを炒めたしょうが焼きを紹介させていただきます。
タマネギと一緒に炒めてはいない、”豚肉だけを炒めた”しょうが焼き
タマネギ抜きです。
祖師ヶ谷大蔵「キッチンマカベ」
まずは世田谷区なのにどこか下町っぽさもあり、ウルトラマン商店街もある祖師ヶ谷大蔵の「キッチンマカベ」です。キッチンを名乗っていますが、二階もあり、テーブル席中心の洋食屋さん寄りの老舗です。
ここの素晴らしさは、二種類のしょうが焼きがメニューにあることです。ひとつは、まんましょうが焼き。もうひとつは、ポークジンジャーと英語になっております。
違いは、しょうが焼きが薄切り肉で、ポークジンジャーが厚切り肉を使用していることです。だったら薄切りしょうが焼きと厚切りしょうが焼きでもいい気がしますが、世田谷区小田急沿線のセンスということでしょうか。
それはともかく、どちらもタマネギは入っていません。
しょうが焼き
しょうが焼き、というか薄切りのほうですが、薄切りといってもそれなりの厚みもあれば大きさもある肉が四枚で構成されています。
脂身にしっかり包丁が入れられているところが、丁寧な仕事ぶりを伝えてくれます。一応説明しておくと、このように包丁を入れることで、肉が痛まって縮む、丸まることを防いでいるのです。四枚ともぴしっと背筋が伸びて、身目麗しい出来栄えです。
こちらのタレは甘味のある、しょうが焼きとしてはあっさり上品仕上げになっています。邪魔者がいないので、あっさりでもちゃんとタレの絡んだ肉の味を愉しめます。
ポークジンジャー
さらに厚切りのポークジンジャーとなると、上品なだけでなく貫禄さえ漂わせています。小麦粉をはたかれてほんのりと焦げ目のついた肉の存在感には、豚好きならうっとりしてしまうことでしょう。
しょうが焼きは箸でいただくのがおすすめですが、ポークジンジャーはナイフとフォークです。箸では切れないのはもちろん、持ち上げるのも大変です。
私は大のとんかつ好きですし、ポークソテーも好きですが、豚肉を食らうのではなく、噛みしめ味わうならこちらです。脂の甘さ、肉の旨さをやさしいタレが引き立ててくれて、ごちそうを食べている気分にさせてくれるのです。
どちらにも、同じ皿にサラダが盛られています。キャベツの千切りにトマト、きゅうり。そしてパセリ。マカロニサラダも添えられています。定番をきっちりと押さえています。これがまた上品に口を変えてくれるのです。
荻窪「ツバキ食堂」
荻窪の「ツバキ食堂」は、食堂を名乗っていますが洋食屋不毛の中央線沿線にわりと最近できた食堂というよりは夜はバル使いもできる洋食屋です。
昼は定番の四種類の定食と日替わり一種類で営業しています。定番のうち人気があるのはハンバーグとエビフライで、あまり人気がないのが私の好きな白身魚フライとしょうが焼きらしいです。
たしかにハンバーグもおいしい。エビフライはお得な価格設定になっています。
しかし、です。店主のしょうが焼きに対するこだわりに、なぜ常連さんたちは気づかないのでしょうか。
タレをしっかり絡めてやや色濃く炒められ、無造作に重ねられた大ぶりの豚肉。とてもシンプルです。そこにタマネギはありません。
開店当時は、この店ではしょうが焼きにタマネギを入れるかどうか、客が選べるようになっていました。それがいつからか、基本はタマネギなしとの注意書きがつくようになったのです。たぶん店主の中で、しょうが焼きの完成度が高まり、タマネギを切り捨てる決心がついたのでしょう。
こちらのしょうが焼きは、味もどこかスマートです。昭和な洋食屋さんで育った人間の舌を裏切りはしませんが、平成バージョンにブラッシュアップされています。そうした料理の方向も、私は大好きです。
すべての定食には、美しくこんもりと盛られた千切りキャベツと、茹で置きしたらしいマリネしたスパゲティーがついてきます。このスパがまたいい。ナポリタンが夜のメニューにしかないのが残念でなりません。
ちなみにナポリタンの記事もあります。
水天宮の「ボントン」
水天宮の路地裏に飾り気ゼロの店舗を構えているのが「ボントン」です。
とんかつ屋さんです。ですから、とんかつを食べているお客さんもたくさんいます。
でも、しょうが焼きも負けていません。「ツバキ食堂」と違って、店主のしょうが焼きに対する気持ちが伝わっているのだと思います。
こちらはタレがボトボトです。
配膳するときにこぼしてしまうのではないかと心配になるほどのタレの海に、豚肉が泳いでいます。嘘です。たっぷりのタレが見えないほどに、ほどよく日焼けした豚肉たちがどっかりと寝そべっています。
豚肉たちはマットがわりに、サラダ菜らしい葉っぱを敷いています。この店でしか見たことのない光景です。
このサラダ菜、キャベツの千切りなどのサラダの替わりと思えなくもありません。もしかしたら、店主はそのつもりなのかもしれません。
しかし私は、このサラダ菜にまったく別の存在意義を見出しました。タマネギよりもずっと価値のある意義です。
キッチンマカベの対極
豚肉のおいしさは同格ながら、この店のしょうが焼きはある意味、「キッチンマカベ」のしょうが焼きとは対極にあります。まったく上品ではない。
たっぷりのタレが、とてもしょっぱいのです。きっちり生姜を効かせた上で、とてもしょっぱい。ところが食べ進むにつれ、甘さを排したしょっぱさに舌が喜び始めるのです。
そして、ごはんが大量です。豚肉の量に不満はないのですが、豚肉だけではどうしてもごはんが残ってしまいそうになります。うーむ、と悩みかけて、私は閃いたのです。そうだ、サラダ菜をスプーンがわりにして、たっぷりあるタレをしみ込ませ、ごはんになすりつけてみよう。
結果は大正解でした。このタレ、ごはんに合います。合い過ぎるほどに合います。豚肉との三位一体は、塩分糖質排除の健康志向を笑い飛ばしてくれます。このためにサラダ菜はいたのだと、私は信じています。
ボリューム大
ちなみに写真は、正確にはしょうが焼き(小)というメニューです。ちっとも小さくありません。(小)でないものを注文すると、たぶん腹が破裂しますのでご注意を。
しょうが焼きとタマネギ
たぶん、大半のみなさんはしょうが焼きにタマネギが入っているかいないかなんて、とくに意識したことはないと思います。とくに忙しいランチで食べるときに、そんな些末なことを考えて、「ああ、タマネギなしが食べたい」と遠くの店まで足を運んだりはしないでしょあうし、それでいいのです。
ただ、忙中閑あり。ふと時間に余裕があるときにしょうが焼きが食べたくなったら、試しにタマネギのない店を選んで入ってみてください。
七割の確率で、納得のおいしいしょうが焼きに出会えるはずです。残り三割はごめんなさい。
モーミンパパの一句
それでは、駄句で締めたいと思います。
しょうがの季語は秋です。
生姜擦り
このひと手間と
ひとりごち
家でひとりぶんのしょうが焼きをつくるときに、専用のタレやチューブのおろししょうがに頼らずに、おろしを使ってしょうが擦りつつ、そんなこだわりにニンマリしたあと、だれも聞いていないし、他に食べてくれるひとがいないのに、自分のためだけに凝り過ぎていることを少しさみしく思う。
しょうがなのに、鼻にツンとくるかもしれません。
そんなときこそ、わしわし食べてしょうがパワーで元気になりましょう。
その他にもいろいろ書いてます。