三文享楽です。
前回の時空モノガタリシリーズでは、危うく紅葉葉くんと間違えられるところでした。
「いや、お前が勝手に一人で騒いでただけやないかーい!」
さて、「今回の時空モノガタリは一味違う」と前回申しましたが、実はもう一点違うところがあるのです。
なにが違うか?
まずは、こちらの時空モノガタリのルールをご覧ください。
Q.「時空モノガタリ」とは?
A.あらかじめ決められたテーマ、字数制限がある小説コンテストです(各テーマにつき一人三編まで投稿可能)。
そうです。
時空モノガタリには、各テーマにつき一人三編まで投稿可能というルールがあるのですが、まだ、始めたばかりの三文。よく分からないまま、最初のテーマだけ2作品しか応募してないのでーす。わー。
つまり、今回のテーマ【江戸時代】では、これが2作品目にてラスト!
いやあ、ラスト!楽しみですねえ。
…やっぱ、この口調やめた方がいい気がする。
『ウソ話』
「やっぱりねえ。おめえ怪しいと思ってたよ」
俺は動きを止め、声の出所を確認するため振り返った。
「あんたはさっきの茶店にいた」
記憶力は良い方ではないが、この男はしっかり覚えている。なにせ、俺がこちらの世界に来て初めて見た顔なのだから。
「おめえさん、何者なんでえ? お江戸の茶店で、初対面の相手にお城の場所を訊くとはまともな了見じゃねえ。上京したての田舎者
ならまだしも、ちょいと気になったからとぬかしやがる。どう見ても怪しかったぜ」
言われてみればその通りである。
万が一のことを考え、自分のキャラ設定くらい練ってから来るべきだった。
俺はタイムマシーンでこの時代にやってきた。出発年月は二〇〇九年十月。おそらくあの時代でタイムトラベルをしたことがあるのは俺だけだろう。
目的の地である江戸城については徹底的に調べて来た。しかし、タイムトラベルで辿り着いた場所は上野。そこで江戸城周辺の地理も調べ忘れていたことに気付いたのだが、もう後の祭り。人に道を尋ねてどうにかお堀まで来た。
そして、江戸城の下調べで知っていた秘密ルートで場内に侵入して、この状況。
「これ以上待って何も言えねえなら、体に訊かないとだぜ」
「あ、いや」
何か言わなければ。何か言わなければ拷問だ。
「実は……大奥に行きたくて」
「なんだって?」
はあ、言ってしまった。なぜ俺は包み隠すことなくバカ正直に答えたのだ。
俺がこの時代に来た理由。それは江戸城のハーレムを体験すること、それだけである。
「大奥に行って何をする気だい?」
「え、それは」
言わせるなよ。若い男が女の集団の中に混じりたいなんて言ったら、スケベ以外の目的なんてあるわけがない。
「おめえさん、知らねえで言ってるのかい? それとも知ったうえで言ってるのかい?」
「ん? 知ってるって何を?」
「ほう、その口ぶりじゃ知らねえようだ。なんも知らなかったやつに、何か変なことがあるかもしれねえと知られた以上、もう生きて返すわけにはいかねえ」
何かヤバい展開になっていないか?
「ちょっと待ってくれ。知るも知らないも何のことか分からない。どういうことだ」
「本当に知らねえようだなあ。いいや、冥土の土産に教えてやる」
男は懐から扇子を取りだすとパタパタ扇ぎだした。
「将軍家様のご世継ぎを作られる場所、それが大奥。世間ではそう思われている」
そう。そして、たくさんの女たち。
「いいか、本当の大奥っていうのはな、落語家集団なんだよ。つまりな、江戸城内に設えられた寄席みたいなものだな」
「ラクゴカ? 落語家ってあの落語家?」
「そうでい、他に何があるってんでえ」
ウソでしょ? そんなことあるはずがない。
「意味が分からない。どうして落語なんだ」
「そりゃ、将軍家にだって笑いは必要だ。ご世継ぎを作るってんで、女と戯れるのさえ煩わしいことだ。全てから解放される笑いと癒しの空間、それが大奥」
ナンセンスだ。馬鹿げている。
「それじゃあ、世継ぎは?」
「そんなの年数回の交接でできるものだろ」
「信じられん。そもそも、あんた誰なんだ。俺以上に怪しいではないか」
「ふふ、落語家だよ。しがない咄家」
こいつも大奥の一人だというのかよ。
「同時に城内の治安維持も行っている。奉行所にいるような頭のかてえ連中だけには任せられねえ」
簡単には信じられないが、タイムトラベルしてきて現実がこうなのだ。受け入れざるを得ない。
「いつだって世の中を作っているのはウソ話が得意な連中でい。同時に世の中を伝承していくのだってウソつきの仕事、咄家の仕事なんだよ。しかし、表立ってはまずい。ウソつきは暗躍することによっていい仕事ができる」
この男の存在が全くのウソだとしても、理窟は通っているように思えてならない。
「語り継ぐとき自分らが目立ってはならない。目立つウソつきは得しない」
否定する気も起きなかった。
否定しないということは同時に大奥が落語家集団であることを認めることになる。
ハーレムを体験できない。
「さてどうする。教えたからには返すわけにはいかねえぜ」
勝手に話しておいて酷いではないか。しかし、何か弁明せねば。
「いや、あの、実は俺はこの時代の人間じゃないんです」
「なんだと」
「未来から来たんです、タイムマシーンに乗って。よくあるじゃないですか、時空を超える機械みたいなやつ。目的は大奥を体験したいっていう下心があったからです。それは謝ります。でも、それ以外の悪気はないです。お願いします、見逃してください」
目の前の落語家がじっと睨んでいる。
「未来からか。おもしれえ。おめえ本当に何も知らなかったんだとしたら、ここで落語をやれ。咄嗟のウソ話にしてはよくできている」
そんなこんなで俺は今、江戸時代で落語をしている。
ええ、実は落語の記事もあるのですよ。
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