ええ、そうですよ。三文享楽です。
前回の時空モノガタリシリーズお届け作品『補正システム』、前々回の『コーヒー牛乳』に続きまして、今回も、テーマは
「私は美女」
です、第3作目!
是非お読みくださいな。
Q.「時空モノガタリ」とは?
A.あらかじめ決められたテーマ、字数制限がある小説コンテストです(各テーマにつき一人三編まで投稿可能)。
『美女と報酬』
報酬の対価に栗本が受け取ったのは、一人の美女であった。
ホテルのバーで煙草をふかしているところに、女はやってきた。
女は特に何も言わなかったが、報酬を受けとる場所に胸元の開いたドレスでやってきて挑発的な目を向けてくれば、それがどういうことかは栗本には分かる。
ウィスキーを何杯かあおった後、栗本は女を味わった。
スレンダーなボディの中に詰まった果実の旨みは、最高であった。摘まめば溢れてくる果汁を栗本は余すことなく啜った。
「あら、報酬はこれだけだとお思い? 約束通りの報酬も当然お受渡しはするわ。ただし」
女は薄い唇をつぼませた。膨らんだ唇はさらに妖艶さを漂わせた。
「私をもっと味わってから」
その言葉に火の着いた栗本は、更なる技巧で女を組み伏せた。
翌日、女の運転する車に身をまかせた栗本は、都内雑居ビルの一室に連れて行かれた。
そこで報酬が渡されるという。
「よく来た。仕事は見事だったぞ。こちらからのささやかなお礼は、満足してもらえたかな?」
「余計な会話は無用だ。報酬だけよこせばいい」
栗本を呼びつけた男は銀歯を見せて笑った。銀歯以外の歯が黄色く着色されているのはおそらくタバコの煙によるものだろう。
「仕事人らしいなあ。ジョーク交えた会話をしないのか、できないのか。いいだろう、報酬ならそこの女が用意している」
男は、銀歯だけでなく歯茎まで剥き出しにして笑った。汚い笑みに、黄ばんだ染みがよく似合う。
男と話をしていた栗本の後ろで、女が構えたのは銃であった。
昨日の夜にあれほど乱れていた女だが、表情に迷いはなかった。
しかし、背後で女が銃を構えたにもかかわらず、栗本に動揺の表情は見えなかった。
代わりに今までとはうって変わった表情で戦いていたのは、銃口を向けられた黄ばんだ歯の男である。
「よく分からないなあ」
「分からないのは、てめえのその肥えた腹の中身だよ」
直後、女の銃口から火花が散り、数メートル先にいた男の腹が炸裂した。
赤い鮮血と黄色い脂肪が男から吹き出した。
「なぜなんだ」
「いいか、計画した罠なんて得てして失敗するもんなんだよ。それも最も信頼していた仲間のせいでな」
栗本と女は去った。
よっぽど血肉が詰まっていたのか、辺りはあっという間に血だまりができていた。
二人はそのまま昨日のホテルに到着した。
今日が上手くいったことに安堵し、栗本はバーボンをあおった。視界にいる女を見て胸が躍る。
男から預かっていた報酬から確認するか、それとも昨日の愛をもう一度再現するか。
嬉々としていた栗本に、女が飛び込んできた。
しかし、女の手に握られていたのは、赤く滑り気のある刃物であった。
「どういうことなんだ?」
息も絶え絶えに、栗本は言った。女は笑みを浮かべて、栗本の鼻をつつく。
「あら、あなたがあの男に格好つけて教えていたじゃない。教訓がましい滅多なことは言わないものね」
女の美しい唇が動きを止める前に、栗本の息は止まっていた。
美女ですねえ。
丸みおびてかわいいですねえ。