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三文 享楽 小説・エッセイ等(フミ)

無料web小説 短編24『赤く熟して落ちる時』【三文】

2017/07/23

おおい、なんで落ちちゃうのよ…。

どうも、ミニトマトを収穫しようとしたら、よく熟したミニトマトに限って下に落ちていることを嘆き続ける三文享楽です。

上記の写真は、赤く熟したスイカを砕いて凍らせ、シャーベットにするところです。

 

なんで野菜の収穫って上手くいかないものなんですかね。

特にトマトやスイカ、イチゴなどですよ。赤くなるのを待っていたら落ちてしまう。だからといって、早めに収穫するとまだ甘みが足りない。

それどころか、虫や動物に食い散らかされることもあります。無念!

 

そして、トマトを少しずつかじる虫って、ムカつきますよね。

いや、どうせなら残さず食えよ!

ってなります。少しずつ食べ比べして、贅沢やわ!

 

赤く熟したものをちょうどいいタイミングで摘む

難しいことです。


『赤く熟して落ちる時』

普段あまり音楽を聞かない者が聴けばプロの演奏家と大差ない音色が、とある一軒家の二階に流れていた。

しかし、演奏している本人にしてみれば、納得のいかないものだったらしい。

「あーあ。ダメだなあ」

祥子は、弾いていたバイオリンの手を止めてしまった。

「他のところは上手くいっているのに、アィス(ラの♯)の音だけがやっぱりよく出ない」

そう呟くと、上手く弾けないイラダチからか、周囲を物色し始めた。

現実から逃避するために他のことで気を紛らわせるのは、祥子の癖である。

その癖があることを自分でも心得ている祥子は、なるべく自分の部屋には余計な物を置かないようにしているのだが、物がなければないなりに、何かがないか気になってしまう。

「何かしら、これ」

祥子は、洋服ダンスの脇に落ちていた物体を拾いあげた。

物体は手の平くらいの大きさで緑色、肉まんのような形をしている。

「変なの」

手にしてみると、なんとなく冷たくて柔らかい。

裏を見れば、小さな突起物が生えている。

得体の知れない不気味な物ではあったのだが、アニメ文化が広まった現代において、それは不気味な物というより単なるオモチャのようだった。

「これ、あたしのじゃないわ。光一のオモチャかしら」

祥子は、弟の光一がいらなくなったオモチャを自分の所に捨てに来た、のかと疑った。

「いけない。こんなので遊んでいる暇、ないんだったわ」

祥子は急に我に返った。

マジメな祥子は、スランプに陥って他のことを考えたとしても、たいてい何分かで、やらなければいけない義務感にとらわれる。

再び、バイオリンを手にとり、弦(げん)に弓を当てた。

一カ月後には、全日本のコンクールが控えているのである。

祥子はこの大会で高校最後の思い出を飾り、その勢いで受験勉強に臨みたいと思っている。そのためにも、こうして毎日我が家へ帰ってまで、自分の部屋で練習しているのだ。

演奏を再開した祥子であったが、やはり上手くいかない。

なんとなく音がぶれてしまう。

「ダメダメ、集中するの」

自分に言い聞かせるが、気が緩むと、祥子の目はつい緑色のスライムへ移ってしまう。

部屋に落ちていたスライムに気を取られて練習に身が入らなかった、なんて言い訳にもならない。

しかし、気にしないようにと思うほど、神経はそちらへ傾くものだ。

そのうちに、祥子は弾いている途中でも、スライムを見てしまうようになった。

「あら?」

手を止めた祥子は、スライムを再びつかんだ。

「やっぱり、おかしいわ。さっきより大きくなっている」

スライムからは小さな突起物が生えていたのだが、それが先ほどより巨大化していた。

緑色の球体から生えていたその突起物は、赤みがかっていて、元の球体の部分より元気そうに見えた。

時間が経てば、大きくなっていくのだ、と踏んだ祥子はしばらく観察を続けてみた。

だが、せっかく肥大化し始めていた赤みがかった反り返りは、徐々に収縮していった。

見ている前で、萎(しぼ)んでいくのが分かったくらいだ。

「そうだわ。きっと音を聞いて、大きくなるのよ」

試しにバイオリンの音を奏でると、突起物はあっという間に赤くなり、巨大化した。

好奇心旺盛な年頃の祥子は、おそるおそるその突起物へ手を伸ばしてみた。自分の奏でた音によって巨大化した突起物が、無性にかわいらしく思えたのである。

緊張のせいか震えてしまった手で、スライムから伸びる突起物をなでる。

それは思いの外、固かった。

試しに緑の球体の方にも触れてみたが、元々の柔らかさである。

「なんだか……ふふ」

思春期の祥子は、どうしてもいけないことを考えてしまう。

実際に男の人のソレを触ったことも見たこともないが、噂ではどんなモノか聞いている。

祥子は、恥かしまぎれに、再び突起物をなでてみた。というよりも、今度は擦ってみた、と表現した方が近い行動だった。

擦ってみると、突起物の反応はまた違う。

音を聴かすよりも、急速に硬直化し、充血したようだった。いや、血とも分からないので、充血とは言えない。だが、それは充血と言ってもいいほど急激に赤くなり、硬直したのだった。

次第にスライムも祥子も大胆になっていた。

祥子が指と指で、そのゴツゴツしてきた突起物を挟んで上下に動かすと、スライムの球体の部分も一緒になって搖動し始めたのである。

動きが一段と激しくなったころ、遂に事件は起きた。

なんと突起物がとれたのである。

赤く巨大化した突起物は、根元からすっぽり抜け落ち、その場に転がった。そして、硬直化した周りの殻がとれ始めたのだ。

中から出てきたのは、また新しい緑色のスライムだった。

「何これ? 増殖したの?」

飛び散った殻を目で追い二つのスライムから目を離した隙に、どちらがどちらか分からなくなるくらいに、それらは瓜二つだった。

どちらも丸いのっぺりとした緑色の球体なのである。

裏返してみれば、それら両方に小さい突起物が生えていた。

「あら」

祥子は、自分の手の平に赤い汚れがくっついているのを見て、我に返った。

「まあ、何やっていたのかしら、私。光一のイタズラにかまっている暇があったら、練習しなくちゃいけないのに」

スライムとバイオリンを後にすると、祥子は手を洗いに行った。

 

翌日、学校から帰宅した祥子が真っ先に向かったのは自分の部屋だった。

もちろん、お目当てはスライムである。

その姿を見たいというよりも、あのスライムが幻じゃなかったかを確認したかったのである。

「あった、あったわ」

祥子は自分の部屋の洋服ダンスの脇に並んでいた二つのスライムの姿を発見した。

そして、手に取り眺めた。

「まさか、あなたたちの影響じゃないわよねえ?」

昨日は手を洗いに行ってお風呂に入った後、部屋に戻ってきたらそのまま眠ってしまったために、バイオリンには触れることはなかった。

だからこそ、放課後の部活で、アィスの音がいきなり上手く弾けるようになっていたことに驚いたのである。

他の仲間からも褒められ、得意な気になれた。

だが、なぜ急にこんなに上手く音が出るようになったのか?

祥子は、変な妄想を始めてしまった。

もしかしたら、あのスライムに触れたことによって、上達したのでは?

もちろん、それがナンセンスであることは分かっていた。

だが、祥子は好奇心旺盛な年頃である。

一回気になったら、確かめてみるまで気が済まない。

それを証明するためにも、都合よく(?)、上手く弾けないパートがある曲を見つけて帰ってきたのだ。

「これであなたたちが役に立つか確かめてあげるわ」

祥子は、上手く弾けなかったパートも含めて、新たな練習曲を弾ききった。

昨日と同じく、二体のスライムから生える突起物は巨大化していた。

もう一回弾くと、一層巨大化し赤みが深まっている。

祥子は弦を置き、突起物を擦りだした。ある程度の大きさになったら、指で摘まんで激しく動かしてみる。

一体の突起物は人差し指と中指、一体の突起物は中指と薬指で挟んだ。

「やっぱり同じだ」

赤く染まりだした右手を見つめて、祥子は言った。

しばらくすると、昨日と同じように突起物はとれて、中からスライムが生まれてきた。

計四つのスライムはどれも同じように見えた。

早速手を洗いに行き、バイオリンを手にした。

「こんなことってあるのかしら」

何度やっても失敗していたパートが、今度は見事に弾けていたのだ。

次の日も次の日も、祥子は試してみた。突起物を出現させ、膨張させ、そして分裂させる。手が赤色に染まってから、バイオリンを弾いてみると、確実に上達しているのだ。

他の方法でも、いくつか試してみた。

オーケストラのCDにあるバイオリンの音では、突起物は巨大化しなかった。

また、最初から手で刺激するだけでも、突起物は巨大化しなかった。

突起物が巨大化しない限り、手で擦ることもできない。手が赤く染まらない限り、腕が上からないことも分かった。

「きっと、これがこの生物たちにとっての生殖なんだわ」

祥子は、いくつものスライムに囲まれて呟いた。

「無性生殖かなんかの一種なのよ。自分たちの生殖の手助けをしてもらうことの引き換えに、その手助けしてあげた人の願いを叶えてくれるんだわ」

祥子は最初、弟のオモチャであると疑ったことも忘れて、増殖させ続けた。

スライムの数が増えてくると、全てをいっぺんに増殖させることは難しくなった。

だから、一日に増殖させる数は五つ程度と決めた。

スライム自体が動きだすことはないので、段ボールに入れて、増殖させるスライムだけを選んで音楽を聞かせるようにした。

しかし、日々スライムを増殖させ続けていた祥子は、あることにも気付いていた。

突起物の赤みが、徐々に薄くなってきているのである。

そして、反対に祥子の手が赤くなってきているのだ。

「これじゃあ、人前でバイオリンを弾けないよ」

祥子は部活を休むようになった。

全国大会目前にして、悔しかったが、やむを得ない。

赤みがひけるまで、家で練習することにした。

スライムを恨んだが、今さら仕方ない。

ズルをした罰だと自分を戒めながらも、腕を落とさないようスライムを増やし続けた。

しかし、ある時。

真っ赤になった祥子の右手が、硬直しポロリと落ちてしまったのである。

これ、どういうことなの?

祥子はそう思ったが、声にすることはできなかった。

右手が床に落ちた瞬間、段ボールから一斉に出てきたスライムは、今まで一度も見せたことのなかった口を開き、牙を剥き出して祥子に飛び掛かってきたのである。

獰猛となったスライムは、祥子の肉に食らいつき血を吸いだした。

それは、あたかも自分の赤い色素を取り返しているようだった。

増殖したスライムたちに群がられた祥子は、身動きもとれずに食い尽くされてしまった。

食事を終えたスライムは、次々と窓から出ていく。

その場に残ったのは、祥子から落ちた赤い右手だけだった。

しばらくすると、その固い殻を破り、中から緑色のスライムが出てきた。

 

姉が消滅した数時間後、弟の光一がやってきた。

「姉ちゃん、この前、貸したCD返してよ。今度、学校の友達と歌うことにしたんだ」

姉の姿を発見することはできなかったが、以前貸したCDを見つけることはできた。

そして、床に落ちていた緑色のスライムも見つける。

ちょうど、光一の手の平サイズだった。

「何これ? 姉ちゃんも変な趣味してるよな」

光一は、手にフィットしたスライムを自分の部屋へ持っていくと、歌の練習を始めた。

 

スイカシャーベット

ちなみに、冒頭の写真ですが、盛り付けると

こんな風になります。

 

スイカって、シャーベット旨いっすね!

 


 

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三文 享楽プロフィール

genimg▼この記事を書いた人
当ブログのライター、三文 享楽。小説の連載と、一部記事の執筆を担当。
抜本的少子化対策』の著者であり、自主映画『抜本-BAPPON-』の主演であり、元芸人。
毎月22日頃に小説を公開している。ぷー

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