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無料web小説 時空モノガタリ短編1『掃除屋ジェフ』【三文】

2016年5月12日

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以前、このブログの管理人である紅葉葉くんが小説投稿サイト「時空モノガタリ」を紹介する記事を書きました。

その最後の方に、私、三文享楽も小説を投稿している的なことを書いてくれました。

 

ええ、そうなんです。

私、そちらでも小説をいくつか投稿しているのです。

 

しかしまあ、紹介記事でもありました通り、そちらには字数制限もあり、期間ごとに設定される作品のテーマ(お題的なもの)もあります。つまり、こちらで投稿している小説と比べて不自由なわけです。

ところで、どうでしょう。文化は制約がある中でこそ発展する、みたいな格言がこの世にはあります。もしかしたら、三文が自由気ままに書いた小説よりも優れているのではないか、という疑問もわいてきます。

 

そんなこんなで、今回は制約のない状況で書いた小説と制約の中書かれた小説がどれだけ違うのか比べてみてもらうためにも、時空モノガタリで書いた小説を載せます。

 

今回のテーマは【掃除】です。

いつもSFばかり書いていた三文が気取って書いたハードボイルドです。 


『掃除屋ジェフ』

乾いた銃声がした。
依頼人の阻害となる者を掃除する。それが掃除屋ジェフの仕事である。

「こいつを殺って欲しい。前金で千ドル、成功の暁には二千ドル渡そう」

今回の依頼は、ジェフの仕事としては安い方だが、拒むべくもない。
掃除すべき人間が現れれば、完璧な仕事で始末する。それがジェフのスタイルだ。
今日もまたジェフの手によって、一人の人間が掃除された。息の根を確認するでもなくジェフはその場を立ち去った。これもまたジェフのスタイルだ。
そのまま報酬の受け渡し場所となっていたバーに行き、仕事後のウイスキーをあおる。飲み方はストレートだが、そのくらいで酔うジェフではない。

間もなくして、店には男が入ってきた。
店員の案内を受けるでもなく、ゆっくりとジェフに近付いてくる。

「ほら。報酬だよ」

ジェフの目の前に大量の札束が置かれた。男の顔を見る前にその報酬を確認した。
依頼人の声とは違う気もしたが、そんなことはジェフにとってはどうでもよかった。

「相変わらず、見事な仕事だったよ。掃除屋と呼ばれるだけはある」

ジェフは葉巻を出して火をつけた。自分の仕事を褒められることに興味はなかったが、万が一にも頬を緩めて感情の動きを悟られてはならない。

「ただなあ。完全に死んだのも確認せずに立ち去る、これはどうかと思うんだがね」

「なに?」

「おめえさんがし損なう可能性だってあるからなあ」

一瞬で空気が張り詰めたことは言うまでもない。ジェフの神経が急速に昂り、目の前の男を見るでもなく睨んだ。

「興味ねえかも知れねえがな」

男は自分の目を見ようともしないジェフにかまわず語りだした。

「今日始末された男が、この前依頼してきた男の取り巻きの一人だったことに気付いてたかい?」

無表情のまま無言を通す。これが掃除屋ジェフの否定であることは男にも通じた。

「俺はなあ、あいつと古くからの付き合いでなあ。別に今回の依頼人の敵というわけでもない。ただ、友情と義理っていうのはあってな、今回のてめえの依頼人を射殺しなければならなくなったんだよ」

ジェフの吐きだす煙の量が増える。
店内にいた他の客やマスターは事態がただごとでないことは察知していたが、腫物に触れるでもなく、見て見ぬふりを決め込んでいる。

「前回てめえがし損じたやつから情報が動き、また新たな掃除の依頼が来た。いい商売だよな。まあ、俺から忠告することは、特にない。ただ自分が何人から恨まれているか勘定してみるのもいいかもな」

男は言葉を区切ってジェフの反応を窺った。
ジェフから吐きだされる煙が中断されている。

「あんたが金をもってきた理由は何なんだ」

「そうだな。俺のせいで動くべき金が動かなくなったってのも癪だからかな。単なるお遣いだよ。それと、なんも気付かねえボンクラに腰抜け野郎という言葉の意味を教えてやりたいってのもあったかもな」

ジェフの顔があがり、ようやく男の目と合った。同時に男の口の堤防は決壊した。

「てめえはてめえの仕事に勘違いしてんのか知んねえけどよ、仕事の結果も見れねえのかよ! なあ、殺し損ねてたらカッコ悪くて怖いってか。この腰抜け野郎が」

ジェフにつままれた葉巻から灰が落ち、目深にかぶられたハットの向こうで眼孔が光る。

「おらあ、なんか言ったらどうなんだ、殺し屋気取りのポンコツが。文句あるなら決闘したっていいんだぜ」

「そこまで言われたら退けねえなあ。今すぐ勝負といこうじゃねえか」

二人はそのまま店の外に出た。店の中にいた者は、止めもせず煽りもせず、事態を見守った。店の外まで追うでもなく、窓から様子を窺う。

太陽はやや沈みかけ、二人の姿を斜めに照らしていた。
各々は腰の近くに手を構えたまま、少しずつ遠ざかる。

「何を合図にする。ルールはてめえで決めていい」

男の怒鳴り声にジェフは自分のハットを手に取った。

「この帽子を高く放り投げる。そして地面についた時を互いの合図といこうじゃねえか」

ジェフの提案に男は頷き、ハットを睨みつけた。
夕陽が差す中、ハットは宙を舞い、落下した。
店の中にいた人間の唾を飲む音さえ聞こえるようであった。
地につくその瞬間、一発の銃声が響いた。

「なに?」

自分が撃たれていないことよりも、ジェフが銃すら抜いていないことに男は驚いた。

「お前、まさかわざと?」

「当たり前だ。腕の鈍った掃除屋など単なるチンピラ。はた迷惑なあぶれ者、そういうやつは掃除されるべきだろ」
ジェフはそのまま倒れ込み、即座に絶命した。

掃除屋ジェフは、また新たに一人、掃除をした。

 


 

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