三文 享楽 小説・エッセイ等

無料web小説 短編17『死生省職員の復讐』【三文】

2017年1月20日

死後の世界を想像すると夢が広がる、というのは現実世界に満足していないからでしょうか。

この世での生き方、あるいは死に方が来世や死後の世界に影響するとなると、現実世界でどう生活するかも変わるかもしれませんが、まだこの後に予想もつかない生活が待っていると知れば期待と不安が広がるというのは当然なのかもしれません。となると、夢というと語弊が生じるかもしれません…希望?可能性?

それは、現実世界が不満であろうと満足であろうと、計り知れない気持ちにはなるでしょう。

 

どうも、永遠の旅人こと三文享楽です。

子どもの頃は死後の世界ばかり想像していました。それは決して死にたい気持ちだけではなく、単純に死後はどうなっているのか知りたかったのかもしれません。


『死生省職員の復讐』

「実は君らのどちらかに自主退職を勧めようと思うのだが、折よく退職を希望していたということはないかね?」

こうなることは何となく予想していたにも拘らず、いざ言われてみると、足元から崩れていくような感覚である。折よく希望していました、という声が出来れば隣からあがって欲しいと願ってみたが、しばらく経っても声が上がることはなかった。

「なあに、声があがらないということだって容易に想定できることだ。どうだ、二人で競争でもしてみないか? もし成績が芳しくないようだったら、自信でも喪失してさ、勝手にいなくなってもらえると、こちらも助かるのだがねえ」

忍耐度測定はすぐに始まった。

到底終わるとも思えない膨大な仕事を与えられて、いかにこなしていくかを観察されるのである。仕事の終わりなんか存在しない。「もっと良い物を」の指示の下、権力者の恣意的な教育が無法地帯に行われていく。

どうしてこんなことをしているのだろうとは常々考えることだが、ここに存在してしまった以上は仕方ない。ここでは死なんて存在しないから、ただ職務をこなすしかないのだ。頑張りたくもないが、仕方ないから受動的に、公式通りに……。

こうしたスタンスは結果となって伝わるのであろうか、結果が出るまで終わりとはならない勝負を続けると、次第に我が意識体の劣勢が明確になってきた。

「ねえ、君、このまま無益な鬼ごっこを続けたところで誰が得するだろうね」

長官は直々に私へ話を持ちかけてきた。

この話が齎された時点で自分の負けが明白になったようなものだった。この低次元の戦いにおいて対戦相手が勝って出世するという可能性は低かったが、少なくとも自分は敗けた。今後の追い出しコースは目に見える。

人間などの下位概念にある生物の生死を管轄する死生省職員は、基本的に解雇されることはない。退職はあくまで、職員の自主的な精神に委ねられている。

「どうだい、一回くらい下位概念で生物となるのは」

「や、やめてください。あんなところに一回でも行ったら、輪廻してなかなか戻って来られません。それに、生物として魂を動かす間はここでしか記憶がありません。何回か輪廻を繰り返すうちに、上位概念の存在すら忘れてしまうに決まっています」

「そしたら、戻って来なければいいじゃないか」

「それはちょっと」

私が頑として辞めないのを知ると、今度は長官や取り巻きの嫌がらせが始まった。

朝出勤すると自分の机だけがない。周りにいた同僚に尋ねると、週末に掃除をして隣の会議室に移したまま持ってきていないそうである。さすがにその机を一人で持ってこさせることはない。私が頼めば、何人かで運んでくれた。

私が担当していた仕事が他の職員の仕事になっていたり、かと思えば誰だってできるような単純業務がどっと回されて来たり。今まで仕事をやって来た時とは確実に異なる現状で私は追い詰められたのである。

当初私と競争をさせられた同期は死に物狂いで這いつくばり、上司へすがっている。どう考えてもやる必要のない業務だろうと上の思いつき次第で丁寧にこなしている。

へっ、あそこまでして哀れだねえ。

こう思ったのが最後だったかもしれない。

気付いた時には、私はティーパックやコーヒーのカスを集めて回る役割を仰せ遣わされていた。お茶を入れる方にさえ回さないのは、より私に精神的な苦痛を与えるためであろう。はあ、まったくこれじゃあ下位概念にある人間社会と変わりない。

あちらの人間からすれば死んだ後に行けるあの世を上位概念として認識しているかは分からないが、少なくとも精神的な苦痛のない魂だけの場所と認識しているようだけど、そんなことはないね。

下位概念であれだけの精神的苦痛に耐える毎日なのだから、こちらの世界というのも当然にしてそれ以上辛く苦しい毎日だ。

ゴミ集めしかやらされなくなった、と言われるのを防ぐためか事務補助の名の元に私はあらゆる雑務も仰せつかった。大量コピー、ひたすらPDFにする、庁舎間の連絡係など、単純作業全てをやらされることとなる。しかし、バイトよりも業務量は少なく、結局は私に精神的苦痛を与えることだけが目的なことはすぐに分かった。

「僕は死者データの入力事務があるので代わりにこのコピーとっておいてください。大きさとかは大丈夫ですよね。あ、両面にするのを忘れないでくださいよ」

バイトは長官から、私にわざと細かく指示をするように、指示されているのだろう。バイトは極力みんなに聞こえるような大きな声で私に指示を出した。

それを聞き、私がコピー機に向かうその瞬間であった。

その言葉は私の耳に入ったのである。

「ムリですよ。最近、みなさんお茶ばかり飲んでいらっしゃる。そのゴミ片付けで精一杯なんです。もう少し飲む量が減ればなあ」

その言葉は遠くで聞いていた職員の耳に入るくらいまで響き渡った。

このような私を弁護するようなことを誰が言ってくれたのであろうか。

しかし、数十秒後に気付いた。今の発言は他でもない自分から出た物であった。

「じゃあ、いいよ」

自分で自分の発言ということに気付いて少し経つと、バイトも思わず反抗された私の行動を理解したのか当然先輩である私に敬語を使うでもなくあしらった。なんとなく笑っているのは、あとでこの噂を拡散して楽しめると思ったからであろう。それくらいの考えしか回らないバカである。

分かっている。

辞めさせるために嫌がらせ人事を行われたのならば、どんな嫌がらせを受けていようと最終的には辞めさせられるのである。反抗させて給料を減らし生活困難にさせて辞めさせる、精神的苦痛から出勤さえさせないようにして欠勤扱いで辞めさせる、精神的苦痛を極限まで与え続けて精神崩壊とまではいかなくても職場で暴れさせてそれを問題視して懲戒免職とする。

どんな手段を使ってでも辞めさせようとする彼らに対して、今回のこのようなリアクションをとってしまったのは誤算である。

やつらはリアクションを待っていたに過ぎない。反抗をしたということは命令に逆らう問題職員として言及される可能性はある。そのまま私は問題行動をカウントされて減給処分にあっていくであろう。

ん?

視線を感じたので、近くにあった鏡を使って背後を確認すると、私の名目上の上司と先ほどのバイトが話をしていた。私を見ながらこそこそ話し、先ほどの私の件をいかにして大げさに扱うか考えているに違いない。

更なる精神的苦痛を与えてくるであろうか、疲れているのならばと有給休暇の申請を勧めてくるだろうか。尤もその場合は、休んだ後に休暇の申請を受けていないなどと言い始めて私のことを無断欠勤扱いとするだろう。

もはや職場ではない。私もあいつらもこの組織にとっては害虫だ。こうしている間にも他の兵隊が苦労するだけに決まっている。

私との対決をさせられた同期は過労のあまり一度体調を崩したらしい。その分、上からは認められたようだが、体調を崩したことは同期の私が不甲斐ないせいだと上に洗脳されて、私のことを恨んでいるようである。

馬車馬のように働かされる職員と、ムダな人間関係を増幅させるだけの害虫ども。

組織の運営はどうしてこうもムダで溢れているのだろうか。

「おお、なるほど」

考えながらもティーパックを回収していた私は、隣の課の給湯室で思わず声をあげてしまった。

なんとまあ、他の人間が先にティーパックを捨てておいてくれたようである。先に誰かが捨てたことをつつかれないように申し訳程度に一つだけティーパックが残っている。

なるほど、先ほどの私の発言を踏まえた、最も私を馬鹿にする対応である。当然、私はここで文句を言うことはない。

今日は少ないなというような顔をして、いつも通りの職務に専念する以外はない。

「あれれ、今日はゴミが少ないね」

まだこの現場でこういった声をかけられる方が可愛げがある。いかにも自分らがやったことを暴露しているようで、やったらすぐに反応を見てみたくなる小学生的なイジメ感が出ているものだ。

しかし、あいつらは背後から様子を窺っているだけ。

そしてこのティーパックが少ない状態も楽なものだと、私が思い出した四、五日後に呼び出すのであろう。

「ちょっといい? 聞いたんだけど、最近みなさん理由は分からないのだが、お茶の飲む量を減らしたらしいんだよ。いきなり減るっていうのも不思議だよなあ。誰かになにか嫌味でも言われたのだろうかね。かわいそうに。まあいいや。君はこれから飲み殻の回収係はしなくてもいいよ。ゴミ箱のゴミでも定期的に回収してくれ」

ほら、きた。

数日後に嫌味つきで職務を変えてくるのである。

こうして他のやつから聞いた風を装うのも、やつらのやり方である、

自分らは一丸となってお前のことを包囲し辞めさせるためにはなんだってする、という暗黙の主張を私に対して行っているのだ。私がそのくらいのことに気付かないことはないだろうとしてやっているのだからまた精神的苦痛を与えられるものだ。

まあ、下位概念にある人間社会の場合、ここまで追い詰められた人間が退職をせずに復讐を誓った場合、考えられるものは割と限定されてくる。爆破、殺戮、情報漏洩等々。

とにかくこの組織の人間全員が嫌いになり、下手をすると社会全体にその矛先が向かうといったようなものだ。できることならば、自分に対して嫌がらせを行った人間、また行うこともあり得る性悪な人間をチョイスしてピンポイントで復讐を行うのが道理だが、だいたいはそこまでの気力が残っていない。

しかし、ここは人間界の上位概念であり、そこの死生省なのである。できることはたくさんある。

私は死際課の長寿係長と悪魔省にある呪殺課の死係主査と連絡を取り始めた。

ふふふ。

死生省のやつらの仕事を減らさせてこの省をまるごとなきものにしてやるのである。

長寿係には寿命を極端なまでに延ばしてもらい、死係にはしばらく有給休暇の消化にあたってもらい仕事をしないでもらうのだ。

徐々に人間は長生きをするようになってくる。

これで、ここで働くやつらは全員不必要となるはずだ。全員辞めてしまえ。路頭に迷え。


 

我々に逃げ場はない↓どこにいても落ち着かない。

それならば、笑いの理想郷に行けばいいのですか?↓