源頼朝の肖像画って別人なんすか?
足利尊氏の肖像画って別人なんすか?
三文享楽と紅葉葉秀秀逸って別人なんすか?
歴史に関する数々の疑問の中で、私が自信をもって答えられる問いがあります。
上記の質問でいえば、三つ目の質問。
ええ、答えは明白、別人です。
どうも、紅葉葉秀秀逸とは別人、三文享楽です。
前回までの内容⇒『歴史の海 鴻巣店編』1、『歴史の海 鴻巣店編』2、『歴史の海 鴻巣店編』3、『歴史の海 鴻巣店編』4、『歴史の海 鴻巣店編』5、『歴史の海 鴻巣店編』6、『歴史の海 鴻巣店編』7、『歴史の海 鴻巣店編』8、『歴史の海 鴻巣店編』9、『歴史の海 鴻巣店編』10
この長編小説は全15回の連載予定でございます。
『歴史の海 鴻巣店編』11
12の続き
いくつかのダンボールは遠目でやり過ごした。
一誠は中央付近にあるダンボールの前で止まった。しばらくそこにあるダンボールと睨みあったすえ鍔に手をかけたが、長次郎にその右手は押えられた。
「危険物を斬るのはまずい」
多くを言わなかったが、一誠は押えられたまま数秒間止まると、手を払った。
ダンボールの前でしゃがみこみ、ふたに手をかけた。
竜哉は次第に心臓の鼓動が激しくなっていくのを感じた。爆薬を探しているわけである。よくよく考えればそれは高校にただ通い、受験勉強にいそしむ平凡な日常とはおよそかけ離れた世界である。ゲームの世界とはいえ、ここでの体験は現実、もはやそれ以上である。
爆薬を手に入れ相手を吹き飛ばして勝利を得るのだ。
竜哉が意気込むと同時に一誠の右手と左手も開いた。勢いでふたが上下にぴらぴら動き揺れている。
中を見るとシュレッターにかけたような紙がいっぱいに入っていた。
思い切って手を突っ込んでかき回してみたがただただ同じものがあるのみである。
「くそぉ!」
三人が三人ともその姿をじっと見ていた。
「まだこの部屋にあると決まっているわけでもない」
「いや、この中のどこかにあるはずだ」
長次郎のすぐ下にあるダンボールも開けた。
だが全く同じ光景である。憎いように機械的な同じ細さの紙が敷き詰められているのみだ。
腹いせにその上層部分の紙を鷲摑みにしダンボールの外に放り投げた。一斉はその残骸を見て思わず声を上げた。
「こ、これだ」
再び手を突っ込み、その丸くて黒いいかにもアニメやゲームでありそうな爆弾を取り出した。
傍らから覗き込んだ長次郎もそれに賛同した。
「よし」
竜哉もそれを生でもっとよく見ようと近づこうとしたが鉄舟に押えられた。
「まだです。おそらくもっと探すでしょう。突如の爆発の危険性もあります」
鉄舟の案の定、一誠と長次郎は次々と段ボール箱を開け始めた。多くはシュレッターにかけたよう中身でいっぱいになっていたり、何枚かの説明書が入っていたりであったがいくつかのダンボールには爆薬が入っていた。しかし、ゲームには隠しアイテムがあり、それがゲームを左右すると考えるものは他にもいるのだ。ましてや同じような環境で育ったゲーマーである。
突き破るような音と共に遠くで人の声がした。
状況をのみこむための時間がそれぞれに訪れた。
「おいおいおい」
「また会いましたねぇ……。俺らも爆薬が欲しいのよ」
「お、やっぱり、来てたな、竜ちゃん。初対面だ」
竜哉は鉄舟の後ろから自分らの今いるドアの前とはほぼ反対側の方に四人の人間がいるのを見た。
「しょ、翔太。やっと見つけたぞ」
はるか向こうでスーツ姿でこちらを眺めている友を見つけた。
「そいつらは、翔太の……」
スーツ姿の周りにいる三人の取り巻きを見て思わず口に漏れた。
何度も何度も剣を交わした(といっても、実際竜哉は剣をとっていないのだが)使い手達、原田左之助、大伴弟麻呂、丸橋忠弥らであった。
「そいつら俺らが貰おうか?」
ダンボールのふたに手をかけている一誠に原田が言う。
「取れるもんなら取ってみろ」
「今、行ってやる」
一誠の返しに丸橋が乗り、予想通りの口合戦が始まった。口合戦といっても平和的解決に持っていこうとする気など毛頭無く、戦う前の挑発の仕合い、士気の鼓舞とでも言ったらいいのであろうか。
丸橋と大伴はダンボールの散乱場所のほうへと歩いていった。
原田はドアの近くでスーツ姿の翔太を一応守るように立っている。
近付いてくる敵に一誠はふたから手を離し、立ち上がり、抜刀した。
丸橋、大伴もそれを見て歩きながら抜刀する。
部屋中心部に、四人の剣士たちが集まり始めた。その四人を取り囲むようにダンボールは散乱していた。気持ち中心付近にはダンボールが少なく、ある特定の場所まで、遠くから見ると円状にダンボールで囲っているようだ。
先程、必死に開いた長次郎の立っている付近のみダンボールが少なく、その中心へよったほうへ爆弾がまとまっていた。
「まるで、連鎖爆発を狙っているようではないか」
竜哉の言葉に前で仁王立ちしていた鉄舟がそれこそ仁王のような顔で振り返った。
竜哉もその顔を見て、自分の口から出た言葉の重要な意味に気付いた。
連鎖……
竜哉も鉄舟も目を合わせて、少しずつ表情を変えながらもなかなか次の言葉を切り出せずに数秒間停止してしまった。
時折、視界の片隅で何かが動いたのは分かった。最初の会議の感覚である。
喉まで出てきた言葉がなかなかでなかったが鉄舟が再び竜哉の目を見ると二人同時に言った。
「逃げて、逃げて下さい」「逃げるんだ」
その音が空気中を振動し、四人に聞こえたと同時か直後、竜哉の視界左方面をオレンジ色の物体が通った。
その飛遊するオレンジ色は速いはずだが、やけに遅く、竜哉の視界を通過した。
火のついた、燃えた矢であった。
いや、矢だけでなくそのとき、その場全体の空気がやけに遅かった。
オレンジの物体は視界を通過し、自身の正体が先端に火のともされた矢であることをアピールしながら誰も止められない時の流れを悠々と進んでいった。
そのオレンジ色の物体が見えなくなったとき、といってもその速度に実際首や眼球の動きが追いつかずに視界から消えたまさにその直後、ほんの〇、〇何秒のコンマ差で耳を劈くような爆音が聞こえた。大きすぎる音は鼓膜の動きが追いつかず聞くことが出来ないというが、だとしたらこの爆音は認知できる限り最大のボリュームの爆音である。
突如、視界が煙と飛び散る破片で見えなくなる。
……
爆音と空気音
ピピー、ピピー、ピピー
沈黙
……
あちこちから様々な音が聞こえるがどれがどれの音だか分からない。
気が付くと竜哉は壁に寄りかかった状態で倒れていた。
一部始終を全て見ていた気になっていたが、知らぬ間に爆風で吹き飛ばされ、壁に背中から激突していたらしい。
「た、大将。大丈夫ですか?」
前にうつ伏せで倒れていた何かがもっそりと起き上がった。
竜哉は視界の下のほうに落ちている何かがその声を聞いて鉄舟であることに気付いた。なるほど、鉄舟が前でかばってくれたおかげで直接吹き付ける爆風の被害が軽減されたらしい。
「僕は大丈夫です。山岡さんこそ……」
「私はなんとも無いです」
鉄舟はしっかり自分の大将と目を合わせて力強く言い放った。
竜哉は再び周りを見渡した。
中心部分は煙で全く見えない。
中心?
竜哉は先程までその煙の中心に自分の仲間が二人いたことを思い出した。確か敵も二人いたはずである。
もう一度、煙の中心を凝視した竜哉は揺れ動く一つの影を見つけた。
影はただ煙の中でその人間的な幻を映し出すのではなく確かに一人間の影としてそこにうごめいていた。
影は次第にくっきりと浮かび上がりその実像を露にしてきた。
「ちょ、長次郎」
「長次郎さんですか?……え、長次郎さんなんですね?」
隣で長次郎とつぶやいた鉄舟に竜哉は興奮して何度も何度も聞き返した。
「……いしょー……」
その像の方からは確かに仲間を呼び求める声がしていた。
煙の中からよたよたと現れたその姿はまさしく近藤長次郎であった。服がぼろぼろになり顔や頭からは血を流し、左足を引きずりながら、長次郎は出てきた。
「長次郎さん。良かったぁ。とりあえず、無事そうで、それに……」
「ふぅっ……」
煙の中から生きのび現れた仲間、近藤長次郎。
その仲間がようやく逃げてきたその姿に新たな矢が刺さる瞬間、その弱々しく成り果てた仲間の姿に首の後ろから飛んできた矢が首を右後方部から貫き、左鎖骨から出てくる瞬間を竜哉は目の当たりにしてしまった。
血はその矢の先端の体積分前方に吹き出し、直後赤い先端部が出てきた。
爆死から九死に一生を逃れた近藤長次郎は背後から射られた。
「うう……っ」
長次郎はその目線の左下から出てきた赤い三角錐を何秒か見た後、そのままどこも見ずに倒れ込んだ。カタドタッと矢の先端が床にあたった後、体重がかかる音が響いた。
「長次郎さーん!」
ピピー、ピピー、ピピー
竜哉の見ている前で近藤長次郎は消滅した。
「た、大将、早く逃げましょう。まだ、ここには何者か暗殺者が潜んでいます。ここにいては殺害されます」
鉄舟は急いで立ち上がると竜哉の右腕を両手で引っ張った。
強い力で竜哉は気付くと立ち上がっていた。
「で、でもまだ一誠さんが……」
「止むを得ません。まず大将!」
鉄舟は竜哉を大将にドアの反対側に自分の影を宛がった真後ろから竜哉の姿は見えなくなった。
そのまま、ドアのほうまで押していく。
「一誠さぁーン。いますか、いたら返事ください。一誠さん!」
竜哉は叫びながらも確実にドアまで押し戻されていた。
ドアノブに手をかけた鉄舟はその反対側のドア、部屋の中心をはさんで対照のドアのほうでもしゃべり声が聞こえ続けるのが分かった。人間の声だけでなく別の音などもする。
これは誰の声だ? 何の音だ?
「っせい! 一誠さん!」
敵の爆発以外の異変を悟った鉄舟であったが耳元で叫ぶ大将の声で再び目覚めた。
「私にはまだ仕事が残っている」
鉄舟は自分の大将を右腕で抱え込んだまま、ドアノブにかけた左手を思い切り引っ張った。
外の景色は煙とは全く無関係のようであった。
13
「こなくそ。何ってこった?」
「あの二人は? 二人は無事か?」
「お、俺が見て来ます」
原田左之助は大将を残して煙中心部へと駆けていった。
山川翔太も突然の爆発に呆然としていた。
ゲーム開始後、初めて出会った竜哉と戦う前段階で何者かに狙われていたのである。
翔太は部屋全体を見回した。
煙で覆われ、竜哉のほうまで見えなかった。
かすかに人影があるといえばあるのだが、顔や服装までは認識できない。
景色がだめなら音はどうか? と耳を済ませたが、先程の爆音がいまだに部屋内で響き合っているように小さい音を感知出来なくなっているのかもしれない。
かなり遠くのほうで人が射殺された気がした。
銃声でもない限り遠くまで聞こえる音などないはずだが、共に同じ生命の恐怖に脅える環境の中、人の生死は感じ取れるのかもしれない。
「ちょーぃろーさーん」
竜哉の声であろうか?
ピピー、ピピー、ピピー
直後、翔太は自分の手帳がなっているのに気が付いた。
「やはり、誰か殺されたのだ」
早速、手帳を見ようとスーツの懐に手を伸ばした翔太であったが先程、遠くで誰かが射殺された感覚を思い出した
それは音もなくしめやかにこの世から去っていった。
無機質にこの混沌の中で死んではならない……。
翔太はぞっと身震いすると、懐から手を抜き、体勢を低くした。腰をかがめて頭部など急所に矢が当たるのを少しでも防ごうとした。
「左之助さんだ。どこに行った?」
翔太は先程かけていった仲間のことを思い出していた。
逃げようにも一人ではどうにもならない。また、一人で逃げるのはごめんだ!
翔太のチーム内では開始早々に喧嘩早い連中たちが様子見といって出て行ってしまった。原田左之助、大伴弟麻呂、丸橋忠弥が消えた翔太は平安時代の文学士藤原行成としばらく行動を共にした。
行成は剣こそ出来ないが、行動を共にするパートナーとしては非常にユーモアと風流に長けていて面白かった。
風流人として第六勘的感覚が優れているのか一緒にいても危険のない方ない方を歩き回っていた。
しかし、その戦中の一時は簡単に崩されていた。
大川蔵六率いる五人組に囲まれたのである。
両者とも戦いを得意とはせず逃げて、逃げて、逃げ回った。
翔太にとっては今でも思い出したくない行成の犠牲によって翔太は一人逃げ切った。仲間の犠牲で生かされたのだ。一人で誰にも見つからぬよう逃げ回った。
しばらくしてようやく原田ら三人の仲間と合流し、逃げ回る途中で見つけた書類から五階の爆弾が隠されている情報を知った。その後、四人での仲間行動が始まるや否やの爆発である。
「左之助さんを見つけてから行こう」
仲間の捜索の後に、再出発を決意した大将の翔太であったが、再び背後での音を感じ取った。
部屋の中ではなくドアのほか、あの長い廊下をこちらに近付いてくるものがいるようである。
仲間か? 敵か?
いや、仲間であるはずがない。
残念だが、おそらく大伴と丸橋は爆死している。あの大爆発の中心にいて生き残れるはずがない。背後は全てダンボールで囲まれていたはずである。原田も円中心部に行ったのだ。外から来るはずはない。
竜哉か?
いや、竜哉は仲間ではないのだ。
ゲーム開始の際、自分が同盟など組まずに正々堂々と戦おうといったのではないか。
だったらどうする? 戦うか? いや、戦えるはずがない。自分は丸腰のスーツを着た一人の子供である。普段、もう自分は十分大人であると思っていた翔太は急に弱気になった。
ならば、逃げるしかない。
どこに逃げる?
辺りを見回してもやはり煙で見渡せなかった。どこにほかの出口があってどこに他の敵が潜んでいるかも分からない。
刻一刻と足音が近付いているのは分かっていたが、いまだに答えが見出せない。どっちに向かえばいい? 先程、射殺の矢を言った実行犯に出くわすしかないかもしれないし、他の敵が歩いているかもしれない。いや、原田に会う可能性だってあるのだ。
もし、原田に敵と間違えられて影から殺されたら……とまで考えた翔太であったが近づいてくる足音に限界を感じ、煙の中に走り出していた。
走って、隠れて、逃げてを何セットとなくやった。
竜哉は鉄舟と共に二階の狭くて薄暗い部屋にいた。
階段自体、降りては上がってを繰り返したので、今、何階にいるかを竜哉はおろか鉄舟さえも分からなくなっていた。
薄暗い一室に入り、動く必要がなくなると竜哉は座り込んだ。勿論、壁に寄りかかっている。
薄暗いのは確かにもうそれだけ二日目も日が過ぎ外の日が落ちてきたということであった。
「大将、大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
鉄舟もそこに座り込んで自分の大将に言った。
大将はその仲間を見るともなく視点の合わない目でぼおっとしていた。
「大将」
「……」
鉄舟は竜哉の合わない視線の先を見た。
「まさか、二人とも一気にいなくなるとは思っていませんでした」