三文 享楽 小説・エッセイ等

無料小説 長編1『歴史の海 鴻巣店編』1【三文】

2016年3月5日

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ハエトリ草』『前科アリの人々』とショートショートをお送りしましたが、今回は長編『歴史の海 鴻巣店編』をお送りしたいと思います。もちろん、長編を一気にというわけではありません。これから定期的に連載していきたい(途中、ショートショートや中編も挟みます)と思いますので、是非にご愛読ください。全15回の連載です。(現在すでに連載完了しています。)

 

ちなみに、今回の長編『歴史の海 鴻巣店編』は、私め三文享楽が数年前に長編10編を携えて出版社を放浪した際に携えていた作品のうちの一つであり、思い入れがあります。初期のうちでも、ロールプレイングゲームをする感覚で書いたような作品です。

 

全15回の連載予定です。

ポテチでも食いながら、どうぞ気楽にお願いします。


 

『歴史の海 鴻巣店編』1

アウトレットというものをご存知であろうか?

おそらく、今、多くの読者が私に対して怒りを感じたであろう。

馬鹿にするな、と。

近年、静岡県の御殿場や茨城県大洗、栃木県那須になど全国各地にブランド品を安く買えるショッピングモールとして、高速道路インターチェンジ付近などに建設されている。

休みの日になればそこは車であふれかえり、人々は難しいことを考える平日から一時でも離れたことで、ただ呆然とそこを徘徊して楽しむ場所である。

だが、アウトレットに関することなど問題ではない。事実、この後アウトレットなどというアメリカナイズされた流行の単語はこれっぽっちも登場しない。更に言えば現在はアウトレット建設が流行した二〇〇〇年代よりずっと後のことである。

思い浮かべるべき情景は、大量の車が一面に蠢くコンクリート尽くめであるあの平地である。

一応、ここも遠くから見ればその存在感を示すほどの敷地をとっていた。が、ここで誤解してはならないのは広大なのは“敷地”ということである。

市街の住宅地を出て畑・田んぼの中をしばらく進むと突然、延々と拡がる自動車畑が見える。そこが歴史アミューズメントパークの駐車場となる。

一見すると自動車畑こそが文明を感じさせるアトラクションに思われるのだが、その中にぽつんと目的の建物はあるのだ。

埼玉県鴻巣市は平成の大合併時代から近隣の吹上町や川里町などを次々と呑みこんでいき、現在の二〇三〇年には埼玉県屈指の巨大都市になっている。

二年前、神奈川県藤沢市に大型アミューズメントパーク〝歴史の海″が設けられた。そこは、歴史情報を基に舞台が創造されたところで、客たちが疑似体験できる歴史好きパラダイスだ。

リアルなシュミレーションゲームができるだけでは、客を呼び寄せられる威力などたかが知れている。ここでの魅力は古今東西の歴史ユニットと直接対決ができるということなのだ。詳しくは訪れてみればすぐに分かる。

藤沢本店の噂がある程度拡がると、すぐに全国(といっても関東地方圏内)で四つのチェーン店がオープンした。

支店第一号である鴻巣市店を筆頭に、群馬県伊勢崎市、千葉県佐原市の歴史の海はいずれも好評で爆発的な黒字売り上げを記録していった。

各支店が誕生して一年も経たないうちに“歴史の海”の評判を聞きつけた歴史好きが何人もプレイするためだけに上京してきた。プレイ目的だけに遠く九州から“歴史の海”店舗付近に引越しを行った者もいるという。

それはただの歴史好きにとどまらなかった。

大学受験勉強に勤しむ高校生、全国にいる史学科の大学生や院生、教授といった歴史に関わる人々、大河ドラマを嗜む主婦、歴史ドラマ好きのおじさんといった一般人。武器マニア、戦争マニアといった他ジャンルの愛好者たちをも客層とした。

もはや、社会現象であった。

ちょうど、その頃、都会の元ニュータウン老朽化も同時に進行していった。都ではそれを食い止めようと製作を行いはしたのだが、地方流出のすべてを止めることは不可能だった。ドーナツ化現象が更に進んでいったのである。

しかも流出者の中には“歴史の海”に影響を受けて、どうせならば少しでも店舗近くにと居住地域、引越し地域を都心からずらした者たちも多く、マスコミはそれらを“ヒストリアン”と名付けた。さらには、二〇三〇年の都会近辺の人口増加と合わせて“ヒストリナッツ化”と揶揄した。

いまだ人口増加割合の棒グラフが横ばいになる目処は立っていない。

『……四日ほど前から身元が分からなくなっていた衆議院議員の小山田光一さんが昨日午後五時過ぎ、八王子市の山奥で捜索していた警視庁によって遺体となって発見されました。現場は都心から離れた山林で普段は地元住民もあまり立ち入らない場所から、別の場所で殺害され、遺棄された可能性がみられております。遺体は死後三日、経っているとのことです。小山田議員は先日提案された新しい法案について、意見書を提出し、他の議員と対立していました。また……』

口を開けて、聴く気もないテレビを眺めていたことに気付いた竜哉は思わず目の前に座っている友の方を見たが、友人、山川翔太も全く同じ顔、格好でテレビのほうを向いていた。

「全く、久々にテレビニュース見たら、やっぱり殺人だとか政治とかのニュースなんだな」

受験勉強生活という山に入り、ディスプレイからしばらく遠ざかっていた竜哉は思わず呟いた。

「竜ちゃん、この人に顔似てない?」

何を思ったか呆然とテレビを眺めていた翔太が殺害された衆議院議員と自分の顔が似ていると言い出した。

「おい、おい。殺されてんだぜ。止めてくれよ、縁起でもない」

翔太は手にしていた残りハンバーガーを一口で放り込む。

「そろそろ行くか」

竜哉も最後のポテト二本をまとめて口に投げ入れ、立ち上がった。

歴史の海本店が神奈川県藤沢市にオープンしたちょうどその頃、小柴竜哉は埼玉県の北部で高校進学が決まった。女手一つで自分と弟を育ててきた母親を喜ばせたのであった。

高校二年になると、近くの鴻巣市に支店第一号の歴史の海がオープンする。やはり埼玉県民をはじめ全国から客が集まってきて、竜哉のクラスメイトを何人も通っていた。その中にはヒストリアンレベルな通いっぷりの猛者たちも紛れる。

だが、竜哉は波に乗らなかった。いや、乗れなかったといっても語弊は生じない。

というのも竜哉は歴史という教科が特に苦手で一年のときの世界史は赤点すれすれであり、あわや留年という散々たるものであった。もちろん、二年になって始まった日本史の成績も芳しいものではなかった。でも、ちょうどその頃、二十年以上も前の大河ドラマ『新選組!』がNHKで、毎日再放送されていた。

もちろん、竜哉自身は一切興味がなかった。

だが、どういうわけか弟が兄に全く似ておらず、大の歴史マニアであり、毎回欠かさずそれを見ていた。見るつもりがなくとも狭い小柴家ではリビングに横たわっている竜哉の目に自然とその情報は入ってきた。日本史という教科自体が好きになったわけではなかったが、ドラマの舞台背景として幕末という時代が竜哉は好きになっていった。

一方で、少しのっぽのひょろりとした竜哉の親友、山川翔太は高校入学とほぼ同時に私立文系大学にねらいを定めて、国英、日本史に的を絞りこむ政策をとっていた。興味から入った日本史ではなかったが、他の授業時間中でも専門家の如く日本史資料に読みふけっていたのを竜哉は幾度となく目撃している。

当初、家のために高卒で就職を志していた竜哉ではあったが、貧乏ながらも大学進学を熱烈に勧める母親の懇願に負け、高三は受験勉強に勤しんでいた。

しかし、勉強に不慣れな竜哉にとって夏休みから踏み込んだアクセルは少々強すぎた。十月にもなれば立派にもスランプに苛まれていた。

そんな時、歴史の海がふと思い浮かんだのだ。

竜哉は日本史のプロ、山川翔太を誘い出し、出陣を決めた。そして、参考書にかじりつく級友を尻目にほくそ笑んだ。

 

遠方からやってきても歴史の海の広大な駐車場スペースはすぐに分かった。

駐輪場も高校の全校生徒分の自転車を収納するくらいの広さがあって、竜哉と翔太は急いで自転車を乗り捨て、駅前にあるゲームセンターレベルの大きさしかない建物に入っていった。

「いらっしゃいませ」

中には受付カウンターが三つあり、それぞれに二十代くらいの受付嬢が座っていた。

右の受付嬢には既に先客がいたため、真ん中と左の品定めをしようとしたが、翔太がどんどんまっすぐに進んでいったので、竜哉もそれに従った。

――本日のご利用はお二人様ですか?

「はい」

――当店では心臓の弱い方には医師の診断をお受けいただいた後、ご利用となりますが心臓などに持病はありますか?

「いや、大丈夫です」

――では、まずこちらの名簿にお名前と電話番号をお書き下さい。

「やっぱ、こういうの書いたりするんだ」

翔太、竜哉の順で書く。

――ありがとうございます。それでは今日のご利用、日本史コースと世界史コースどちらになさいますか?

「日本史でいいよね? 日本史受験だしさ」

「そだね」

「じゃっ、日本史で」

――はい。次にプレイ人数です。三人以上を選択されますとオンラインで全国の方との対戦、あるいは仮想コンピュータとの戦いになりますが、どうなさいますか? 二人以上十二人以下です。

「どうする?」

翔太が振り返る。

「四人くらいでいいんじゃん? 任天堂のゲームも四人だしさ」

「そうだね、麻雀も四人だしね。四人プレイで」

――かしこまりました。

……では、ここからはゲーム内容の選択で、こちらの用紙をご覧下さい。まずフィールドをこの中からお選びください。その際、大・中・小の大きさ設定もお忘れなく。どれでもよろしければ右端にあるランダムがお勧めです。

竜哉が翔太の右脇に出て、受付カウンターを覗き込む。

「うわっ、結構あるんだね。城内、京都市街、丘と廃屋、冥界、冬の新潟……」

「この現代ビルとか面白そうじゃない?」

「本当だ。小五階・中十一階・大三十階、建設途中・現役使用・廃屋……これにする?」

「そだね。初めてだし少人数だから、これの小でいっか?」

「そうしよう。建物は廃屋にする?」

「えー、なんか浪人みたいじゃない? やっぱ現役っしょ?」

竜哉は翔太がどういう理論でそんなことを言っているのか分からなかったが、浪人より現役がいいのは当然であるし、現役使用も面白そうだったからそれを選んだ。尤も、そんなに現役合格にこだわるのならばこの時期にこんなところには来ていないだろうが。

「じゃ、現代ビルの小、現役使用で」

――かしこまりました。プレイ日数はどうなされますか?

竜哉は一瞬にして絶望的な気持ちになった。今日、泊り込みで遊ぶ気は無かったし、自分の大学進学のために以前より超勤勤めで働く母にさすがに泊り込みで遊ぶとは言い難かった。翔太も隣で同じことを考えていた。

「竜ちゃん、どうするよ? 俺、明日までとは考えてもみなかったよ」

「資金的にも泊りじゃやばいだろうし」

――あの……失礼ですが、お客様当店のご利用は初めてでいらっしゃいますか?

受付嬢はさも時代に乗り遅れた珍妙なものを発見してしまったかの如く、目の前の客を眺めている。

「はい、初めてです」

――失礼しました。こちらから説明すべきでした。

プレイ表の上に新たな紙が乗せられる。

――こちらが当店のバーチャル感覚システムでございます。十九年前、平成二十五年に日本からノーベル医学・生物賞が出たのはご存知ですか?

「あぁ、小学生の頃にそんなの聞いた覚えがあるなぁ」

――そのときの発明がこちらの脳内幻影システムです。このシステムでは脳の一部である大脳及び脳幹を直に刺激します。神経細胞を刺激するのです。視覚・聴覚・嗅覚を操作して、実際の体、つまりは肉体を傷つけずに痛みを与えることが出来ます。火のついていない煙草を腕に押し当てて、熱いと思い込ませればやけどすることがありますように、まあいわば催眠です。勿論その人が痛いと感じるだけで、体には傷一つ付きません。このシステムで手術での麻酔の必要がなくなりました。不治の病として体の一部に痛みを感じ続ける人の痛みのみを取り除くことが可能となりました。その作用を組み合わせたシステムが当店のバーチャル感覚システムです。脳に直に脳に刺激を与えて感覚を操作するゲームを提供する店は当店が世界で初めてです。

竜哉は淡々と説明をする受付嬢をただ見ていた。勿論すぐに説明の内容は見失ってしまった。翔太が脳に影響は無いかを聞いたとき、どうやって脳を操作するのかと聞いてと気もただ受付嬢の薄赤い頬と唇を眺めていた。

――東京音大の開発した特殊音と写真大学の連続射光が脳を刺激するため脳にも人体にも全く影響はございません。ただ、プレイ後の急激な運動や映画、テレビ等のご利用は数時間お控えいただくよう推奨いたしております。それと心臓の弱い方、血圧の高い方のご利用はご遠慮願っております。プレイ中に興奮しすぎて血圧が上がることや心臓麻痺を防ぐためです。大抵は大丈夫ですけど。

「まぁ、ゲームの仕組みっていうのか作りは分かりました」

――では本題に戻りますが、脳に直接働きかけるということは脳の働きを早めることも可能です。右脳を使えば使うほど、速読や速聴が出来るようになると言いますよね? それと同様に同じ時間で時間の速度感覚を上げることが可能なんです。人体の時間観測システム、つまりは体内時計に害を及ぼさない時間短縮の最大は三十四分の一でした。それを我々は使いやすく形式的に二十四分の一を利用して一日と感じられる長さで実質一時間しか経っていないことを可能にしました。つまり一日分のプレイに付き、利用時間は一時間ということになります。

「なるほど。そこにつながるのか」

「だめだ。俺にはついていけないや。翔太に任せるよ。それにしても、翔太はやけに物分りがいいじゃないか」

「ふふん」

受付嬢から竜哉へと視線が移る。

「そりゃ、私文を目差す者としてSF小説も読み込んでるからね。じゃあ、適当に三時間くらい、三日分でいっか?」

「いいよいいよ」

竜哉はとりあえず今日中に終わることが分かって安心した。

「じゃあ、プレイ日数は三日で」

――かしこまりました。次にゲーム種類の設定に移りますが……

「あのさぁ、俺、もうゲーム始めたいんだけどさ、あとどれくらい選ぶの?」

――あと残りゲーム設定は三つで、個人設定がいくつかです。よろしければこちらで勝手にプログラミングすることも可能ですよ。

竜哉はゲームの設定もゲームのうちと楽しんでいたが右を振り向くと先程の客は既に消え、左のカウンターでは別の客が手続きを済ませるところであった。手続きに時間がかかっても良かったが、早く始めたいという気持ちもあった。

翔太の代わりに竜哉が後の返事に続く。

「あとはランダムでいいですよ」

――かしこまりました。少々お待ちを。

受付嬢はカウンター下のパソコンに入力し始める。すぐに受付嬢の背後から印刷された紙が出てきた。

――こちらの条件でオンライン上からメンバー検索をしますがよろしいでしょうか?

受付嬢が再びカウンターの上に紙を乗せる。

 

(続く)

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