三文 享楽 小説・エッセイ等

無料小説 長編1『歴史の海 鴻巣店編』6【三文】

2016年5月2日

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さ、さ、さ、三文でーす。

ホント、こういう歴史シュミレーションのゲームセンターできないかなあ。相変わらず、ゲームはよくやってますが、まだまだ進化したゲームをやりたいものですな。

 


『歴史の海 鴻巣店編』6

本陣に大将として残ることとなった竜哉は気が気でなかった。いくら実戦能力97の鉄舟と共にいるとはいえ、二人である。それも自分は丸腰で運動神経が鈍い方だ。

せめてもう一人残しておくべきであった。

不安になった竜哉は思わず立ち上がり、デスクの上に載っているものを見回し、それぞれの引き出しを開け始めた。

書類、ブリーフケース、ボールペン、書類、書類、電卓、書類、書類、書類……

役に立ちそうなものは何一つ無い。

竜哉は鉄舟に見られていることに気付いていたがそのおろおろした行動を止めるどころか意地でも何かを探してやりたい気持ちになった。

いかにも探し物が見つかった風を装い、ブリーフケースをおもむろに取りだした。

高校生に緑の透明なブリーフケースなど別段珍しいものではなかったがデスク三段目にある大きい引き出しから取り出すブリーフケースは一味違った。

松山金属会社、契約取引所、火薬入荷、始末書、金山相互提携所……

ブリーフケースの中身を一通り確認したが、統一感の無い書類からはこのビルが何のための会社なのか分からない。

いや、待て。ゲームにボーナスや隠しコマンドはつき物ではないか。このビル内に何かあるのか。ビルは五階建てで参加人数は四人。どこかに使われていない階がある。

火薬入荷……

そうか、火薬がこのビルの使われていない階のどこかにあるはずだ。

「山岡さん。いい武器が手に入るかもしれません」

鉄舟は無言で顔を上げる。

「火薬ですよ、火薬。これさえあれば、敵の本陣を丸ごと吹き飛ばせます」

「それは、何処に?」

「探しに行くんですよ。このビル内を探せば何か色々ありそうです」

その時確かに物音がした。

しかも竜哉が物音に気付く何コンマ秒か前に鉄舟は立ち上がり、オフィス内から廊下に通ずる扉に目をやった。

「ほう、何かね」

「……探せば色々あったな」

遅かった。既に敵は会議室内に忍び込んでいたらしい。

竜哉と鉄舟が座るデスクブロックの対なる死角から一人の男が姿を現した。浅葱色の服が会議室内で目立つ。

「大将の首もらったぁ」男は抜刀しながら叫ぶ。

先程、机の上に無造作に放った手帳に反応があった。

『原田左之助  幕末。新撰組十番隊組長。伊予出身で江戸にいた頃から…』

さ、左之助?

余裕が無く、最初の一行だけに目をやった竜哉はその名前に驚いた。原田左之助は新撰組のテレビには必ず登場する隊内屈指の使い手であった。

「山岡さん、そいつは原田左之助です。気を付けて下さい」

左之助はじりじりと左につめ、鉄舟までの間に十分な空間と椅子だけの通路に移った。

「おらぁ」

左之助は右脇構え高く、上段と中段の間から一刀を放った。

鉄舟は左足を下げると同時に右手を回し抜刀、上段に構える前に飛んできた左之助の一刀を滅殺した。下に剣先が落ちた左之助は無防備に見えたが、鉄舟の続けざまに襲い掛かる突きを上部に払い除けた。

剣先を上部に向けた左之助が少し息をきらせている。

「やっぱり、あんたただ者じゃないな。あんたには以前何処かで会った気がする」

「私は覚えていない」

「思い出させてやるよ」

再び金属と金属のぶつかり合う音が響き始めた。

生で見る刀のぶつかり合いは時代劇で見るそれとは全く違った。こちらは一発の失敗で相手が死ぬ。一撃一撃に甘えは無く、渾身の力と共にその各々の魂が籠められていた。

竜哉は手汗を掻いていた。

「武器があれば…」

ひどく無防備な腰周りには一切の武器も無く、今襲われたらひとたまりもない。武器があれば…自身、手汗の原因はもどかしさだと感じていた竜哉であったが、右に目をやり自分の甘さと反応による発汗機能の偉大さを知った。

殺気だった。

斬る目的である日本刀のしなやかさではなかった。まさに古代特有の叩ききるレベルの鉄の塊が竜哉の瞬間的反応によって見る見る下がっていく竜哉の黒々とした頭部をかすめた。普段体感しない白刃の下の出来事にその一連の行為はひどくゆっくりと感じられた。

しゃがんで目の前にある先程まで自分の尻の乗っていたキャスター突き椅子を椅子と考える暇も無く前方に押し出した。

見事な等速直線運動である。

椅子に掬い取られたその物体はどんどん離れていき、隣にあったデスクブロックの係長席の机の左角までスライドしていった。

白く柔らかな服に鎧を着けたその肉体は、しかし、急所を守っていなかった。机の角は男の骨盤やや下方部、男の大事な箇所を圧迫し勢いに乗ったキャスター椅子が男の股間にさらに食い込んだ。

「おっ、おぅ」

男の聞きたくない喘ぎとキャスターの動く音にようやく鉄舟は振り向き、大将が襲われたことを知った。

「大将、逃げて下さい。ここは死守します」

「わか、わかっ」

立ち上がれなかった。これが腰が抜けるというものなのか……

「おっと、勝負はついてないぜ」

原田の刀が襲い続けた。後ろを振り返っていた鉄舟は払いが遅れ、上部からの突きを鍔近くの剣で防いだ。およそ、格好はよくないが原田にも隙ができ両者に危機が迫った。

剣の世界で自分のピンチは相手もそれだけピンチなのである。

鉄舟には切っ先から鍔を上下に動かすことしかできないし、原田も下から防がれ、自分の頭部を守るために退くに退けなかった。

剣による実戦では寸部から全てが崩れ、それが命取りとなる。

原田の剣先に震えが出始めた。それは刀と刀の接する箇所を徐々にずらし始めた。瞬時、鉄舟は剣を引き剣先近くぎりぎりを使い、巻き込みを行った。原田の刀は飛んだ。実際は原田の右手が掴んではいるが、力の向きがまるで違う。それは攻める剣でも守る剣でもなく、ただの鉄の棒であった。

直後、巻き込み上げた下部に峰を向かわせた筒舟の刀はそのまま急降下し、原田の右肩を打った。

「ぐおぉぉぉ」

「安心しろ、峰打ちだ」

渋顔を装ったのではないだろうが、鉄舟は時代劇に出てきそうな顔でそう言った。

原田と股間を打った男は命辛々逃げ出した。

「また、来るからな」

鉄舟は大将の元に歩み寄り、助け起こす。眼をやった机の上の手帳は再び光っていた。

『大伴弟麻呂 平安初期。初代征夷大将軍に坂上田村麻呂が挙げられることもあるが実情は大伴弟麻呂が初代征夷大将軍。作戦能力に長け軍師としての実力がある。

・ 体力 75、 実戦能力 72、 頭脳80』

(続く)


 

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