無料web小説 短編9『逆質問』【三文】 - フリーBGM&自主映画ブログ|"もみじば"のMOMIZizm

三文 享楽 小説・エッセイ等

無料web小説 短編9『逆質問』【三文】


前回
の短編小説では時空モノガタリでない短編をアップしました。

その前は3回連続時空モノガタリ()。

その前は時空モノガタリでない短編。

その前は3回連続時空モノガタリ()。

 

規則性が見えてくるって、なんか物足りないですよね、どうも、三文享楽です。

 

ということで、今回の短編小説は、時空モノガタリ投稿シリーズではなく、また本邦初公開シリーズです。どうぞご覧ください。


『逆質問』

「最後にあなたから弊社に対する質問はありますか」

「え、いや、はい。あの、御社は十年後、どういった方向に進んでいるでしょうか?」

「そうですね、先程にも少し触れましたが、我々、広告業界は常に社会の進む方向に目を向けていなければなりません。それは広告媒体にしてもそうです。メディアの主流が紙媒体からネット媒体に移れば、ネットに広告のシステムを構築しなければなりません」

「はあ」

「その上で、我々は消費者が何を求めているかを考え、必要な事業を展開していくことになります。つまり、広告業界こそ、今後どうなるか可能性に満ちているわけです。十年後にどうなっているかははっきり分かりませんが、常々、社会の進む方に目を光らせ、次なる道を模索していく予定です」

「はい」

「これでよろしいでしょうか?」

「ああ、ありがとうございます。よく分かりました」

「それでは今日の面接はこれで終わりです。なお合否は、合格者の方にのみメールをさしあげます」

まあ、落ちただろうとは思っていた。

二週間も経って無沙汰なら、もう落ちたと思って次の道を探す方が利口だろう。

五十社も受けて、それぞれ四回も五回も面接を受けていれば、終わった瞬間に落ちたかが分かるようになるものだ。

別に落ちたからといって、ショックは受けない。

これだけあちこちの会社を受けていれば、もう一喜一憂している暇などないのだ。

かと言って、反省くらいはしなきゃならないだろうな。

ただ落とされただけっていうのは悔しいし、失敗を次へ活かすためには、敗因くらい分析しておくべきだ。

まあ、この面接で、決定的に悪かったのは、最後の逆質問だろう。

質問があるかと訊かれてあれほど動揺すれば、それはマイナスとなるはずだ。

ここ最近、逆質問というのは、就職の面接試験で主流になってきているらしい。

対策本にもあったし、他の企業でも何度も訊かれている。

ここで、「質問はないです」と言ったり、質問するのに十秒以上も悩んだりしたら、十中八九落とされる。

そりゃ、そうだろう。

自分がこれから就職しようとする会社には、少しでも興味をもつはずだ。

それで、すぐ出てくる質問もなしに、厭々、訊いてみるようなやつに、信頼なんか置けない。

あーあ。

厭になっちゃうよな。

質問しない、というくらいで落とされるんだ。

就職活動は多くの者が通る社会への関門なのだから、文句を言ったところで始まらないことくらい分かるのだが、なんだか、よく考えるほどムカついてくるな。あーあ、うーん。

……自分の中で、ある止められない感情が沸き起こっているのを感じていた。

ずっと心の中でためていた鬱憤がついに抑えきれなくなったのかもしれない。

どうせ何十社も受けているんだ。一回くらい、落ちてやる気で、ヤケクソに受けてもいいんじゃないのか。

今度受ける会社で逆質問の機会が与えられたら、徹底的に困らしてやるんだ。

「私は社会を俯瞰するのが好きで、広告会社を志望していました。その中で御社を志望したのは、やれば評価されるという実力主義にひかれたからです。例えば……」

上手くいっていた。

第一志望群にある広告会社、その中でも社会的に知名度の高い企業である。

できれば、このまま面接を終えて欲しかった。

今までの経験からも、この感触で終われば、得てして合格しているはずだ。

だが、運命はイタズラした。

いや、イタズラとは言えないか。

向こうからしても、イタズラした気なんて毛頭ないだろう。

だが、就職活動中にいつか自分の思うままに答え、面接官を困らせるぐらいに一糸報いたい、という切なる野望がある僕に、その衝動を抑えることはできなかったのだ。

「最後にあなたから弊社に対する質問はありますか?」

面接官はそう訊いた。

僕の中の何かがはじけた。

ここでやらなきゃ、いつ試す?

ふひひひひひひひ。

「あ、あの、あなたが一番されたくない質問とは何ですか?」

「は、はい?」

ほら、来た。ほら、来たァ!

おそらくこの人事担当だって、こんな質問されたのは初めてだろう。

今日、と言うこの日をお前の採用人生の中で忘れられない日にしてやるぜ、おらあ。

「まさかの質問ですねえ」

面接官は苦笑いで同意を求めてきたが、僕は無表情に眺めている。

だって、お前らもこうじゃないか。

僕らが愛想笑いをすれば、決まってそのふてぶてしい鉄面皮な顔をしている。

「そうですね。小学生時代に妹にしてしまったイタズラのことを訊かれたら、非常に困りますね」

な、何ですとぉ?

お前、なかなかやりおるな。

僕もお前に対して予想外であろう返しをしたが、お前のそれもなかなかのレベルだ。

こんな場でそんな答えを出すか?

だって、四十代半ばにも見える男が突然そんなことを言い出すんだぜ?

こりゃ、訊くしかないでしょ。

「では、そのときのことをじっさ……」

待てよ。ここでそのエピソードを話させるとは、いかにも想定内の返しではないか。

この面接官もその言葉を予想していたとしたらどうする?

「この場で答えるのは相応しくないため、その解答は拒否します」と言われてしまったら、ゲームセットだ。僕にそれ以上の質問を続ける権限があるか分からない。

ここはこの男も予想しなかったようなことを訊かなければならない。

「……失礼。あなたはその質問をされた場合に、自信をもって答えますか?」

「いいえ」

ほらあ! 危ないあぶない。

ここで実際に訊いていたら、答えない気だったんだよ。ズルいよ。

ってか、モタモタしている暇はないな。逆質問といってもこちらに無限に権限が与えられているわけじゃないんだ。早くしないと、タイムリミットが……いや、待てよ。

「では、その質問に答えるか、あるいはこの面接時間を特例としてあと一時間程度延長するか、そのどちらかを選んでいただけませんか?」

っよし。これでどや?

お前は答えられないという弱みを見せたんだ。ならば早速その弱みを突いて、こちらの有利に話を進めるのが定石だろう。

この二者択一によって、お前は僕の敷いた罠にひっかか……いや、待て。

なんだ、その笑みは。まさか?

やめろ、やめろおぉぉ。

「さすがに、その質問には答えかねますねえ……あなたはこの質問を与えられた主旨を理解していらっしゃらない。そもそもこういった逆質問があるのは……」

想定外だよ。

ここまでノリ良くきて、ここでいきなり説教を始めるのかよ?

失望だわあ。しょせん、あんたも普通の面接官と大差ない器だったのね。

せいぜい、死ぬまでこの会社でこき使われればいいじゃねえか。なんでえ、せっかく楽しい面接にしてやったのによ。

「……ということで、三十分ならば面接の延長を許可します。早く次の質問をどうぞ」

ええっ、ってマジですか?

想定外だわ。

あれだけ普通の面接官みたいな顔に戻って、いきなりまた想定外か。

ってか、許可しますって何だよ。なんで裁判所ふうになってるの?

それに次の早く次の質問って、いつの間にか、僕の方が急かされてるしな。

さすが広告会社。

金融や不動産と違って、変わり種が多いとは聞いていたが、面接官の器も大きいとはな。

いよーし。そっちがその気なら、こっちだって、とことんやってやるぞ。

……んー、しかし。

なんだ、何を質問すればいい?

ここまで想定外なことをされてこれ以上のことをしなければならないとなると……その妹の件を訊くのもなあ。うーん、難しい。

ダメだ、時間をおけば、ハードルが上がるだけだ。

ここは何でもいいから、なにか、なにか質問をしなければ。……えっと、

「脱いでください」

しまったぁぁ!

やっちまった。さすがに、こりゃ、ぶっ飛び過ぎている。

脈略がないどころか、質問でもないじゃないか。

もう終わりだよ。僕のターンはこれで終わっちまったよ。

いや、でも待て。

向こうだって並大抵の面接官じゃないんだ。

ここまで許容力のある面接官ならば、本当に脱ぎだすなんていうことが……。

…………。

全然、脱がねえぇぇ! ってか、無反応。

やめてくれよ、なんか反応とってくれなきゃ不安になるじゃないか。

どうしよ、なにか言わなきゃ、なにか。

「え、あ、あの」

「どうしたんですか? 早く次の質問をしてください。私は要求通り、理性の制服を脱ぎましたよ」

想定外―ッ!!

なに、この期に及んでそんな理性的な屁理屈こぐの?

なんだよ、中学時代にどこの学校でもやりそうなムチャ振り大会で、急にマジメなやつに「脱げ」って言った場合に、使われそうな詭弁を持ち出しやがって。

まあ、いい意味で裏切られたんだが。

いやいや、それよりも、早く次の質問を。なにか、想定外の質問をしなければ僕が負けた気になるじゃないか。

なにか……なにか……うーん。

そうか。なにも想定外のことじゃなくてもいいんだ。

ここまで想定外、想定外、想定外と続いてきているから、相手も「次もどうせ想定外の質問が来る」と思っているだろう。だとしたら、ここで常識の範囲内である質問をしたって、別にいいのではないか?

想定外の質問で来る、ということに対する想定外が、想定できる範囲内の質問というわけだ。

「理性の制服はどこで売っていましたか?」

「空手チョーップ!」

いやいやいや、想定ガァイィィ!

なんだよ、それ。

いきなり、テーブル飛び越えてきて、僕の額に攻撃を仕掛けてくるって、そんなのあり?

確かに、理性の制服はしっかり脱いだみたいだけどさあ、暴力って。

思わず過ぎて、後ろを向いて笑っちゃったよ。ここでは笑う雰囲気じゃないからな。

……てか。

何やってんだ、てめぇー!!!

僕が後ろを向いている隙に、本当に脱ぐって想定外すぎるわ。しかも、下だけ。

さっき脱がないで、このタイミングで体をはるっていうのが、またズルいよなあ。

僕は、この丸出し四十代のおっさん相手にどうすりゃいいのかなあ。

「モモンガ食べたら、底抜けた。モモンガ食べたら、底抜けた」

おおい、まだ僕のターンだろ? 何いきなり踊り出してるんだ、てめえ。

「天井、アメーバ、ところてん。そーれ、よよーい、よい」

想定外、想定外、想定外、想定外、想定外、想定外、想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外、あ、そーれ♪想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外想定外ダァー。

ダメだ、僕の負けだ。

もう、この会社を落とされても悔いはない。

ん? 何だ?

急に近づいてきて、その顔は何だ? もう、僕は負けを認めているぞ。

「あなたを採用します」

わお。

「ウソぴょーん」

わお×2


 

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